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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十三章 受付業務休止中!?

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119.アンブレイカブル

今月の更新はここまでにします。

本当、コロナの影響が仕事に出なければもっとたくさん書ける予定だったんですが……残念な事に更新計画が全部狂ってしまったので次回更新は恐らく月初めに出来ません。ストックが用意出来次第、再開します。

 アトスに突入した組が奮闘しているその頃、アトス、アラミス間で繰り広げられる人造巨人たちの激戦は多勢に無勢のアラミス側不利という苦境を覆せずにいた。


 ナガト九六式を駆るガゾムたちの動きはこの短期間で今まで以上に機体に馴染んでいる。しかし、ナガト九六式はどう足掻いても敵の主力であるガルディータスに劣る上、あちらは破損しても再生してゾンビのように襲ってくるため、撃墜こそされないものの損耗率は上がる一方だ。


 損耗が少ないのは小麦のトロイメライくらいで、巨体を鮮やかに乗りこなして高速移動しながら実弾をばらまき、時には容赦のない体当たりでガルディータスを跳ねている。

 ナガトもトロイメライも実弾兵器が多いが、弾丸そのものは量子格納されているために補給の心配だけはしなくて済んでいる。


 トロイメライの砲台が数機のガルディータスを紅蓮の爆発で包み込み、更に動きの鈍った相手に実弾砲を叩き込む。敵が弾かれたように吹っ飛び、他の機体の軌道に割り込む形で体勢を立て直さざるを得なくなった。


 小麦もそうだが、別のガゾムも相手を弾いて相手を妨害するという器用な戦法を実戦の中で編み出しているし、それで動きが鈍った敵を更に追撃するという連携も見せている。流石は大砲の国と言うべきか、砲撃の精度は明らかに周囲と一線を画している。


「まだまだッ!! バースト部隊の戦いはこれからですよぉッ!!」

『やっと腕が温まってきたところだぜ!!』

『撃っても撃っても壊れないから色んな攻撃が試せてた~のし~!!』


 更に、そんなナガトに速度を活かして取り付こうとした機体が出れば、その背後に即座にドラグノフが出現して斬り落としている。ステルスによる不意打ちと撹乱がナガトの撃墜数を辛うじてゼロに抑えていた。

 また一機、敵をナガトから引き剥がしたドラグノフ――その搭乗者である水槍学士は、再びステルスで虚空に消える。


『援護が欲しいときはすぐに呼んでください!』

「頼りにしてますよ、水槍学士くんっ!!」

『ははっ、重戦士さんがいない間に貴方を怪我させる訳にもいきませんよ!』

「そこは心配ご無用! 無傷で帰って重戦士さんを驚かせてやりましょう!」


 また、敵が各個撃破を狙ってフォーメーションを組む度に今度は遊撃するデルタ部隊が猛威を振るう。


「させるか、愚か者がッ!!」


 即座に動きの変化に反応した軽業師のガルディータスが手を翳すと同時、虚空から大量の氷の槍が出現して敵を次々に襲う。氷など本来はガルディータスの防御力に影響しないが、軽業師は生身でもガルディータスと戦える『国潰し』だ。

 その力を更にスケールアップして放っているのだから、命中すればその衝撃からはどう足掻いても免れない。しかも破壊したり蒸発させても軽業師が矢継ぎ早に槍を再生成するためにキリもない。


 かといって、迂闊に近づいた機体は――。


「学ばぬな、貴様らは。ここは妾の領域であるというのに……」


 接近と同時に敵機周囲に神秘が収束し、超高圧で圧縮された氷に敵が閉じ込められる。軽業師はそれに掌底を放つ。氷を即座に振り払えない敵は、為す術なく掌底の衝撃で遥か彼方へ吹き飛んだ。


 しかし、敵も流石にこれ以上軽業師を放置できないと踏んだのか、対策を講じて接近する。軽業師の攻撃が如何に強力であれ、原理の根幹は氷。氷の通じない超高熱のバリアに身を包んだ数機のパトリヴァスが高速接近してきた。


 氷の槍はバリアの熱で即座に蒸発するし、そのまま体当たりで攻撃に転用できる。しかし、軽業師は特に焦ることなく神秘術を発動させ、両手足にレーザーソードのような術を展開する。

 実際にはそれは熱を持つものではない。むしろその逆――氷の術を発動させる際の凝固の数列を変更して、実体を持たない冷気の刃を出現させているのだ。そこにあるのは水でも氷でもなく、ただ熱を奪うというそれだけに特化した超極低温の力場。彼女はそれを振るい、目にも留まらぬ速度で接近するパトリヴァスに逆に吶喊する。


 一瞬の交錯。


 先にバランスを崩すのは軽業師――ではない。


「鳥は狩られるものよ。余りの遅さに欠伸が出るかと思うたわ」


 次の瞬間、パトリヴァスたちがバランスを崩して出鱈目な方向に飛び交う。

 彼らには何が起きたか分からなかっただろうが、軽業師はすれ違いざまに目にも留まらぬ早業で敵を複数回、バランスを崩すよう冷気の力場で切り裂いていたのだ。


「これが軽業というものよ。妾が氷を出すしか能がないとでも思うたか?」


 彼女は軽業師。

 トリッキーな身のこなしで敵を翻弄するのが彼女の従来のスタイル。

 彼らは勝手にそれを勘違いし、自ら彼女の土俵に踏み込んだのである。


 ――氷国連合を出て世界見聞の旅に出た軽業師がホームシックを紛らわすためによく通っていたサーカス。その軽やかな動きに憧れた彼女が編み出したのが、この軽業だ。国潰しの力を用いれば大概の敵は撃破可能だが、彼女はこの技法に拘った。ただ単純に格好いいと思ったからという子供っぽい理由に過ぎない。


 しかし、その技能と『国潰し』の身体能力が組み合わさることで技術は実戦で使える代物になり、更にとある人物からのアドバイスでとうとう軽業師は氷の力と体術の完全融合を果たした。


「うむ、うむ! やはりぽにぃの助言に間違いはないのう!」


 軽業師は満足げにうんうんと頷く。

 その姿は先ほどまでとは打って変わって子供っぽい。


 元々、長話やお国自慢を唯一楽しそうに聞いてくれるためにポニーを全面信頼していた軽業師だったが、彼女に己の戦い方について相談したのがこのスタイル完成の切っ掛けになった。


 それまで軽業師は、軽業をメインにしつつもそれが通じない敵は国潰しの力で倒す考えだった。しかし、単独で撃破できない相手との遭遇を経て、もっと強くなる方法を模索していた。白狼女帝の素手の格闘力を即座に思いついた彼女だが、幼い彼女の手ではリーチが短く思うように敵と戦えない。

 そこでポニーに悩みを打ち明けた所、彼女は即座にアイデアを出した。


 ――軽業は力の代わりに手数と速度で攻める戦い方ですよね?


 ――国潰しの姿のまま軽業を使えば、敵にとってはかなり脅威では?


 それまで国潰しの戦い方=白狼女帝の戦い方という先入観に囚われていた軽業師は、ポニーのアイデアに驚いた。彼女は軽業師の戦いを見る機会など殆どない。だからこそ先入観に囚われない自由なアイデアを出すことが出来るのだろう。


 このアイデアを翠魔女などに持ち来んで神秘数列について相談し、出来上がったのが今の両手両足に非実体の奪熱刃を纏うスタイルだ。しかもガルディータスはまるで本当の手足のように彼女の動きについてくるため、遠近隙のない凶悪なスタイルを確立できた。


 だが、依然として敵は損傷を修復し、無尽蔵の力で攻撃を仕掛けてくる。


「敵機の再生を確認。再度攻撃に移る。白雪、支援砲撃を」

「任せろっきゅー! アルタシアの蒼弓からもデータを貰ってるからよく当たるっきゅよー!?」


 タレ耳、白雪の二人も多数の敵を相手に縦横無尽に駆け抜けて翻弄しているが、敵の主砲オミテッドはあの後数度使用され、その狙いは段々とこちらの人造巨人に向かいつつある。大局を見ると状況は悪化の一途を辿っていた。


 しかし、こちらもただ手をこまねいていた訳ではない。


 ブリッジでは状況が大きく動こうとしていた。


「ショゴウス対策、算出完了しました!!」

「慈母の無力化手段、算出完了!!」

「上方より報告!! 重戦士、碧射手両名が侵入者の完全鎮圧に成功!!」

「では碧射手はこのまま空中での戦闘に参加を! 重戦士はアルキミアと共にアトスへの突入準備を!!」


 受付嬢とオペレータたちは何もこのブリッジでキャーキャー騒いでいた訳ではない。数多の連携の中継や状況報告、敵の電子妨害手段への対応、コンディション管理など多岐に亘る仕事を連携して処理しながら、敵の分析も進めていたのだ。


 幾らアイドルが優秀だとしても、全てを自己処理しようとすると負荷はかかる。根本的にAIである彼女と人間との伝達で齟齬や無駄が生じる。だからこそ優秀なコミュニケーション能力を持つオペレータを介し、彼女たちに手伝ってもらう必要があった。


 ヒューマンエラーの可能性は常にある。

 それでも、アイドルは人を信じることを選んだ。

 計算式を言語に変換するメガネ。

 ヘタレた戦士を激励するギャル。

 そつなく冷静に優先順位を見極めて行動するイイコ。

 そして一生懸命にやれることをやれる範囲でカバーするポニー。


 アトスよ、歴王国よ、雪兎よ。


 これから始まるのは、ロータ・ロバリーで培われた人の力による反撃である。

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