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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
二章 受付嬢ちゃんと!

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10.受付嬢ちゃんと暗殺者の噂

「このギルドに、アサシンギルドの人間がいる!! ……っていう噂があるんだけどさー」


 休み時間、ふとギャルちゃんがそんなことを言い始めました。

 彼女お得意のどこから聞いてきたんだと聞きたくなる噂話です。

 が、今回の見出しはなかなかに刺激的かつハズレ臭のする内容でした。


「アサシンギルドぉ!? だ、誰が狙われてるって言うんですか!!」

「きゃー! オニヤライの襲撃よー!有角族ディクロムの人たち逃げてー!!」


 本気で怖がるメガネちゃんと面白半分に叫ぶイイコちゃん。そしてそんな様子を不思議そうに見つめる雪兎ちゃん(お留守番中)。どうやら暇つぶしにはちょうどいいお話のようです。


 アサシンギルド。それは暗殺者アサシンによって構成された殺人集団です。

 人殺し集団ということは犯罪者の集団なのか、と思われるかもしれませんが、名前をよく見てください。「ギルド」とついています。そう、恐ろしいことにアサシンギルドは殺人を生業としているにも関わらず、超国家条約に明記された公的な組織なのです。便宜上ギルドと呼ばれていますが、冒険者ギルドとはほぼ別物となっています。


「まー、アサシンギルド自体は世界的に活動してっから一人ぐらいいてもおかしかないんだけどな?」


 それもまた恐ろしい話ではありますが、平静を取り戻したメガネちゃんが疑問を呈します。


「で、でも、このギルドは取り立てて人や物流、政治の重大拠点と呼べる場所ではありませんよ? そんな場所にアサシンギルドが……わ、わざわざ入り込むものなんでしょうか?」

「ぬっふっふ~……ところが実はそうでもないらしいんだ。実は! この町にとある重要人物が……」

「いやーん! 誰々!? 誰なんですかー!? きゃー!!」


 ここからが本番とばかりにギャルちゃんが盛り上がり、またノリで盛り上がったイイコちゃんがキャーキャー言っています。


 アサシンギルドについて説明させてもらいます。

 アサシンギルドの成り立ちは約30年前、第二次退魔戦役の頃に遡ります。

 戦役で活躍した英雄の一人「銀刀」は、退魔連合に協力するにあたって二つの条件を突きつけました。一つは自分の裁量で動かせる自治権と行動権を持った組織の結成を許可すること……もう一つは「鬼儺おにやらい」の権利です。


 条約の文言によると、オニヤライとはつまり鬼殺しで、定義によると「許されざる罪を犯した者」と「心が鬼へと変じた者」の二つを鬼と認定し、これを殺すことで世界の安寧を図ることと書かれています。決してディクロムのような角の生えた人をみんな殺すということではありません。

(※本来は儺の一文字だけでおにやらいと読む)


 これを知ったときは、こんな滅茶苦茶な権利をよく時の有力者が許したものだと戦慄しました。しかし「銀刀」は当時子供であったにも関わらず、この権利を認めさせるために二つの首を会議室に持ち来んだそうです。

 一つは、危険度12の更に上――魔将ハロルドの首。もう一つは、この人類が一丸にならなければいけない時にドサマギで略奪・強奪を繰り返す人類史上最悪の盗賊団……その首領の首です。これを前に、連合は彼を「人類存続に必要な存在」と認めざるを得なかったといいます。


 言葉だけでは全然凄さが伝わらないと思うのでもう少しだけ説明します。


 人類史上最悪の盗賊団は、英雄級の実力を持ったディクロムの頭領を中心とした犯罪者集団でした。村を潰して略奪し、女子供を攫って酷い目にあわせたり人身売買するなど当たり前。気に入らない相手は誰であろうと虫を潰すように殺害し、その勢力は最終的には一国家さえ滅ぼすほどの規模にまで膨れ上がったといいます。

 人類史に残る中で、これほど巨大な犯罪組織は後にも先にも存在しないだろうと歴史学者が結論付けています。しかも勢力を保ったまま魔物侵攻が始まるまで数十年に亘って活動を続けた恐ろしい組織だったのです。


 ところが、正規軍でさえ挑むのに腰が引けるこの犯罪集団を、『銀刀』は頭領の首を撥ねることで瓦解させたのです。これは国を単独で滅ぼしたに等しい戦果でした。


 そしてもう一つ、魔将ハロルド。魔将は退魔戦役に際して突如姿を現した、魔物の軍勢を率いる魔物です。

 通常の魔物が危険度12までで、魔将が13にならない理由。それは魔将のすべてが例外なく、『魔物など率いなくとも単独で国を潰して回る能力を持っている』から。故に魔将との戦いはそれ自体が「戦争」の単位で数えられ、一人でも倒しきれない魔将がいれば人類は滅亡するとされています。


 それが何人の集団だろうがどんな作戦を使っていようが、魔将の首とはイコール人類存続に繋がる大戦果です。こんなものまで持ってこられては、嫌とは言えなかったのでしょう。


 ――細かい話はまだありますが、とにかくアサシンギルドとは魔物との戦いを念頭に置きつつも、その本質は人類そのものに対する「内部粛清」の役割を果たしているのです。


「……つまりだな! ここ最近に超大型古代迷宮リメインズからこっちに移ってきた謎の危険人物を監視し、隙を見て殺すためにアサシンギルドはこのギルドに出入りしてるんだ! アサシンギルド……それは音もなく、お前の後ろにいるかもしれない……!!」

「ひゃーーー!! 今回はなんだかいつも以上に迫真でしたねギャルさん!」

「イイコがノってくれて嬉しいよ~! メガネはどうだった? ……メガネ?」

「――………」


 メガネちゃんは目を開いたまま気絶していたので、倒れないようソファにみんなで運びました。小心者の彼女には少し刺激が強すぎたようです。

 と、ギルド休憩室に人が入ってきます。


「失礼します。クエレ・デリバリーです!」


 現れたのは茶髪茶羽の青年。翼をもつ有翼族ハルピムの出前さんです。

 実は今日は外が雨のため、皆で出前を頼んでいたのです。ギルド受付嬢と同い年か、もしかしたら少し下の年齢かもしれない出前さんは注文されたピザやパンなどを渡してきます。雪兎ちゃんの分も勿論あります。代金は桜さんとゴールドさん持ちです。

 出前さんは最近クエレ・デリバリーで働き始めた甘いマスクの好青年。受付嬢たちを口説くどころか逆に口説かれることがある、ちょっとした人気者です。


「ところで、アサシンギルドのお話をしていたのですか?」

「あー。声デカすぎて聞こえちゃってたかー。出前さんも興味あるなら話そうか?」

「少し興味がありますね。丁度これを配り終えたので暫く時間がありますし。僕も種族は違えど翼をもつ民ですから」


 爽やかな笑顔で頷き、出前さんまでギャルちゃん劇場の観客になってしまいました。

 さて自分はご飯にありつこう、と思っていると、雪兎ちゃんがくいくいと服のすそを引っ張ってきます。何事かと思うと、彼女はつたない言葉で疑問を投げかけてきました。


「なんれ……つわさあると、きょーみある?」


 雪兎ちゃんはここ数日でかなり言葉を覚えてきています。そんな彼女は、恐らくですが何故翼をもつ民がアサシンギルドに興味を抱くのかが知りたかったようです。可愛らしい彼女の疑問に答えようと、ポニーちゃんはなるだけ優しい言葉で説明します。


 実はアサシンギルド創設者にして英雄の『銀刀』は、黒翼族ナフテムという黒翼の一族の人でした。結成されたアサシンギルドの構成員の多くもこのナフテムと言われています。なので翼ある一族の多くが、この『銀刀』に対する羨望を抱いているのです。


 ちなみに雪兎ちゃんにはまだ早いと思い言いませんでしたが、有翼族は歴史的にも冷遇されることが多かった人々で、銀刀の行いは結果的に翼の民全ての社会的地位向上にも繋がっています。

 更に言うとディクロムは別名鬼とも呼ばれているので、鬼儺の件から『悪いことすると銀刀が殺しに来る』という脅し文句が浸透したせいで恐怖の対象になっちゃっていますが、そこも説明しませんでした。


 分かった?というと、雪兎ちゃんは人差し指を口に当てて「う、う」と頷きました。


 そして雪兎ちゃんはトコトコと出前さんの所に歩いてゆくと――その背中から垂れる羽を一枚ブチッ!!と引っこ抜きました。


「いだぁぁッ!?」

「ちょ、雪兎ちゃん!? 駄目だぞそれを千切っちゃ!?」


 悲鳴を上げる出前さん。唐突な蛮行に周囲も唖然です。


「はね。これ、くろい?」

「ああそうか、色のことがわかってないんだ……雪兎ちゃん、それは黒じゃなくて茶色だよ?」

「ご、ごめんなさい出前さん! この子はその、あの、ちょっと世間知らずでして!!」

「い、いえ……大丈夫、大丈夫です。平気……」


 涙目になりながらも引き攣った笑顔を浮かべる涙ぐましい紳士の出前さん。子供特有の残酷な暴挙に受付嬢たち総出で謝り、なんとか雪兎ちゃんにもそれはいけないことだと理解してもらって事なきを得ました。

 人の痛みを理解する感受性の未発達が引き起こした悲劇。翼を持つ一族にとって、強制脱羽に伴う激痛は常人の想像を凌駕します。以来しばらく出前さんは背後からの気配と雪兎ちゃんの視に怯えるようになりました。


 あな恐ろしや。アサシンギルドより恐ろしいのは、子供の好奇心なのかもしれません。

 雪兎は、食事に戻る受付嬢たちに背を向けて抜いた羽を見つめた。

 そして、ふぅ、と羽に息を吹きかける。

 すると羽の表面の茶色っぽい色が、埃が落ちるように剥がれていった。

 中から現れたのは――吸い込まれそうなほどの漆黒の羽。


 それをしばらくじっと見つめた雪兎は、かぱりと口開いてその羽を一飲みにごくりと飲み込み、何事もなかったかのように自らの食事へと戻っていった。

 その光景を目撃した者は、誰もいなかった。

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