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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十二章 受付嬢ちゃんよ!

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105.受付嬢ちゃんよ集うのだ

 確かに。

 確かに、よくよく考えれば姉であるパインお姉ちゃんには今回の件や周囲の事については当たり障りのないことしか手紙で伝えていません。巻き込みたくないのもあったし、ちょっぴり怒られるのが怖いのもありました。


 普通に考えて、魔将だの女神だのが出てくる大事に身内を巻き込みたくないと思うのは真っ当な考えだと思います。それでも確かに一言くらいは伝えるべきだったのでしょう。

 散々色々言いましたが、結論を言うと……。


 その、忙しすぎて完全に姉への連絡を失念していました。


 青ざめた顔で素直にそう告げると、パインお姉ちゃんは即座に右手を振りかぶりました。

 幼い頃に言いつけを守らなかったり勝手な行動をして大変な事態になりかけたときに幾度となくポニーちゃんを叱りつけた黄金の右手です。


「ポニー!」


 ひっ、ぶたないで!


 ……。


 ……?


 しばらく身構えて待ちましたが何も起きず、恐る恐るガードを解いて目を開けると――眼前に中指を引き絞ったパインお姉ちゃんの手がありました。


 直後、額にパチィンッ!! という音と共に衝撃。

 ぴぎゃあっ! と悲鳴が漏れます。

 やられました、油断させてのデコピンです。

 姉はデコピンの達人で、割れるかと思う程の痛みに蹲る他ありません。暫く悶えて何とか痛みが引いたポニーちゃんにパインお姉ちゃんの手が伸び――体を掴まれ、優しく抱擁されました。


「心配したのよ……」


 ――うん……。


 真心の籠った優しい言葉に、緊張が解かれます。

 パインお姉ちゃんは叱る時はいつもとても厳しいです。でも、やっぱり世界の誰よりも優しくて、ポニーちゃんは甘えるようにお姉ちゃんを抱きしめ返しました。何度繰り返しても、この温かみだけは手放せません。




 衝撃の再会から暫くして、自分も食べたいからとソフトクリームを口にしてご機嫌なパインお姉ちゃんは、ここにやってきた事情を説明してくれました。


「枕元にエインフィレモスが立ってて……」


 あの幽霊魔物、また乙女の部屋に侵入したようです。

 既に大体の事情が察せますが、一応最後までちゃんと聞きます。


「び、びっくりし過ぎて腰が抜けるかと思ったわよ。でも冷静になって事情を聞くと、女神を名乗る存在が率いる歴王国の戦力が全世界に宣戦布告するって言うじゃない! 初めは流石に信じられなかったけど、数分後に警報で叩き起こされて情報が本当だと知った時には、これが夢であることを疑ったわ」


 まぁ、そうでしょう。ポニーちゃんはそこに至るまでに衝撃的な展開が多かったので若干慣れがありましたが、お姉ちゃんはそんなトンデモ話に巻き込まれてはいませんから。


「しかもそれが寄りにも寄ってポニーのいる支部から!! それで、エインフィレモスから追加情報を得たの。本物の女神が色んな国の人間を率いてこれを阻止しようとしていること……その中にやっぱりポニーがいること。ポニーが女神さまに重要な役目を任されたけど、人手が足りないことをね。睡眠学習っていうの? それを利用してなんとか知識を詰め込んだから、私も手伝います」


 胸を張って宣言するパインお姉ちゃん。

 これは思わぬ援軍です。パインお姉ちゃんは誰もが認める才女ですし、やると言ったらやる人です。一緒に仕事を処理してくれるならこれ以上心強いことはありません。


 でも……これは危険な戦いでもあります。

 代わりに手伝う、ではなくて、一緒に手伝うで……本当にいいの?


「……当然私だって悩んだけど、星の全員の運命がかかった重要な局面で、ポニーが黙って大人しくしていられる程大人しいとお姉ちゃんは思っていません。それに、私たちの仕事場所はブリッジ――女神様が直接守護する場所でもあります。下手な隠れ場所より安全だと判断しました」


 恐らく、一足先にここに来て一通り船の中を回った上での結論でしょう。お姉ちゃんは話を聞いて実際にここに様々な国の人や魔物が入り乱れる様を見て、これが洒落でも冗談でもないことを確信したのでしょう。


「第三視審査会からは『天空都市の実態調査の許可が下りた』という形で処理してもらいました。勝てば万事解決! 負けたとしても、ポニーを一人で置いてはおけません。今更帰れって言ったって無駄ですからね」


 それは遠回しに――ポニーが死ぬときは自分も一緒に死ぬ、と伝えています。仮にどうしようもない状況になったとしたら、せめて一人で死なせはしない。それは悲壮な覚悟ですが、同時に何が何でも妹から目を離さないという愛でもあります。


 ポニーちゃんはその愛を静かに噛み締め、この戦いに絶対に勝って生き残ろうと胸に誓ってパインお姉ちゃんと握手しました。



 で、オペレータが実際に仕事をするブリッジにやってきたのですが。


 ……何でメガネちゃんとギャルちゃんがいるのでしょうか。

 見間違いかと思って目をこすりますが、やっぱりいます。イイコちゃんのほっぺを抓って「痛いわね!」と抓り返されましたが、やっぱりいます。メガネちゃんはそれはもう目を輝かせて宙に浮く淡い光の板をタップしまくり、ギャルちゃんは何やら石板に埋め込まれたコロコロするものを動かしています。


「あっ、ポニーちゃんにイイコちゃん!!」

「え? マジかよ!! つかポニーちゃんのお姉ちゃんもいるじゃん!!」


 曰く――メガネちゃんは水槍学士さんに誘われてオペレータに抜擢されたそうです。時期的にはポニーちゃんたちがオペレーターになる特訓を始めた頃でしょうか。水槍学士さんにベタ惚れしているのでホイホイ釣られたのでしょう。今も楽しそうですし。


 対し、ギャルちゃんはギルドの変なベテラン冒険者こと奇術師さんからバイトのお誘いを受けてギルドに内緒でこっそり来たらここだったそうです。いや、どういうことか理解が追い付きません。


 奇術師さんは優秀な方だけど喋り方が独特過ぎて変な人認定を受ける冒険者です。そんな彼がバイト募集という時点で首を傾げますが、その疑問に答える人物が現れます。


『失礼、呼ばれて飛び出てエインフィレモスです……端的に言いますと、奇術師はこちら側の存在なのさ。花の形をした監視術式でギルドの動向を常に探っていたが、彼はステュアートを監視する監視者でもあった。ポニーが誘拐されたときにギルドに即座に一報を入れたのは、実は彼なんだよ』


 頭の中で「そぉいう事だかぁらね。恨ぁまないでくれよ、ポニーガール?」と奇術師さんがちっちっと指を振った気がしました。


 奇術師さんはステュアート所属でありながら、ギルドを監視しつつ実働部隊も監視し、そのどちらにも顔を知られず活動する特殊な役目を負っていたそうです。そういえば奇術師さんは弔いやら記念やら、何かと理由を付けてはギルドの花瓶に花を追加していました。

 彼は女神にも顔を見せず、今も仕事を全うしているそうです。

 そのうち労いのパーティーとか開いてあげたい気がします。

 そんな考えは露知らず、イイコちゃんはため息をつきました。


「つまり、いつもの面子で世界を救えってコト?」

『助っ人もいますし、問題ないでしょう』

「わぁぁ、古代文明の技術凄すぎ……え? 世界を救う? 女神のお手伝いとは聞きましたけどどういう事ですか……?」

「このコロコロおもしれー! ……え? 世界を救う? 報酬がメチャ破格とは聞いてたけどもしかしてヤベー仕事なの?」

「肝心な事情聞いてないでここにいたんかいッ!!」


 閑話休題。


『最後に、皆さんにこれをお渡しします』


 そう言って、エインフィレモスは不思議な形の物体を持ち出しました。それらは触れられることもなく術で宙に浮き、そしてその場にいるオペレーター係全員の耳にぴたりと嵌りました。重さや違和感は殆ど感じず、口の近くに尖ったパーツが来る形状をしています。


『それはインカムと呼ばれる装備です。周囲の音が激しくとも重要な情報を逃さず、伝えるべきことを伝えることを補助する道具です。更に銀刀の協力により、装着した者を賢くする機能もあります』

「あのアサシンギルドの頭領が協力する要素って何よ?」


 ギャルちゃんが首を傾げますが、エインフィレモスはすぐに答えます。


『銀刀は片耳だけイヤリングをしているでしょう。あれは『知恵』を蓄え、装備した者の英知を次の装備者に渡す特殊な神秘道具なのです。彼は幼い頃、死した特別な女性からそれを受け取り、一度数学賢者に預け、そして死した数学賢者から再びそれを受け取ったと……いえ、余談でした』

「……銀刀さんって、怖い人だと思ってましたけど……哀しい人なのかもしれませんね」


 話を聞いたメガネちゃんが同情的な顔でぽつりと呟きました。

 彼の容姿や職業についつい目が向きがちですが、彼は生まれたときから暗殺者だった訳ではありません。彼が暗殺者になった理由……いつか、知る日が来るのでしょうか。


 なお、インカムが与える知恵というのは絶大で、それから一時間後にはその場の全員がブリッジの設備を完全に把握するまでに至りました。ただ、その中でも事前準備を色々したポニーちゃんとイイコちゃんが頭一つ抜けていたのは、ちょっと自慢したい話です。

『さて、準備はほぼ整いました。後は私のやるべきことを済ますのみ……』


 エインフィレモスは、未来を予知することに特化した魔将だ。その力は試験的かつ革新的であり、予知の部分のみを取って言えば女神エレミアすら凌駕する。故に優秀過ぎる彼は、己がどのような場面でどう終わり、何を為すかまでとうの昔に理解していた。

 その為に手回しをし、その為に準備した。

 結末は決定している。

 誰が生き残り、誰が犠牲になるかは決まっている。


 その最中にポニーという偶然の発見をしたのは、唯一の嬉しい誤算だった。


 全ての悲しみを廃する未来などない。

 そも、悲しみの存在しない世界には、喜びもまた存在しないのだから。


『私は後の事を彼女たちに託しました。三人仲良く、因果地平の彼方へ旅行しましょう』


 世界から消えるべきふたりを思い描きつつ、エインフィレモスは訪れるべき運命を待ち続ける。

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