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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十二章 受付嬢ちゃんよ!

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104.受付嬢ちゃんよ秘境に立て

 ポニーちゃんは今、エインフィレモスに転送してもらい、天空都市にいます。もちろんイイコちゃんも一緒です。天空都市という空飛ぶ島の地下に広がる空間――着脱式防衛艦『アラミス』へ向かうためです。


 天空都市はギルドにさえ未加盟の隔絶した場所。

 そこを歩き回る許可を都市の長老に貰えるというのは、ギルド初かもしれません。自然と荘厳さが一体化したような町を歩き、ポニーちゃんは嘆息しました。その嘆息が、イイコちゃんと被ります。


「三大国の一つだから凄いだろうとは思ってたけど、まるで幻想の中を歩いているみたい……これもロータ・ロバリーの一部だなんて信じられないね」


 その言葉に同意する、圧巻の美しさでした。


 雲上にあるが故に上に雲はなく、下に広がるのは果てしなく続く大地。

 快適に過ごす為に島全体を術で覆っているらしく、その内部は実に心地よいそよ風が吹いています。島の地面は石畳と綺麗に刈り揃えられた芝、樹木、花、小川など庭園もかくやというほどに管理されており、人が不快にならない程度の虫まで確認できます。

 そして、この美しい環境と一体感さえ覚える建築物たちが実に映えます。

 色合いこそ緑や石の地味な色を基調としていますが、どの建物も機能美に満ちつつ限られた範囲内で美しく見える造形、装飾を施されています。ポニーちゃんがこれまでの人生で旅行した場所の中で間違いなくトップに当たる美しさでしょう。


 明らかに一般家庭サイズの家にも歴王国の上流階級の家でしか扱っていなさそうな立派なクリスタル・インフラが普及しているようです。

 案内してくれている翠魔女さんは、周囲に見惚れる二人に苦笑しました。


「私はこの光景に飽きて外に出たのだけれど、そんな風に言われるとこそばゆいわね。ゼオムはその殆どがこの風景の中で育ち、そして一生を終えるのよ」

「あー……一生はちょっと嫌ですね」

「でしょ、イイコちゃん? ごく一部の行商が外から仕入れてくる情報や本、ファッションが数少ない娯楽なんだけど、待つだけってなんだかもどかしいじゃない?」


 つまり、翠魔女さんは外への好奇心を抑えきれなかったようです。

 しかし、周りに止められたりしなかったのでしょうか。

 聞いた話によると、ゼオムは掟が絶対だとか。


「天空都市は世界に対して中立であることが掟なの。数学賢者を含めて地上に降りてしまう人もいるけど、一応掟は守ってるのよ? 大切なのは長いものに巻かれず、自分も長いものにならないこと。その点ギルドは理想の就職先ね。どんなに能力があっても日雇い冒険者はずっと日雇いだもの」


 そう言われると今度はこちらがこそばゆい話ですが、ギルドの中立性がゼオムから見ても相応なレベルであると評価されているという意味なので喜ばしいことです。


 日雇い型の冒険者に回る仕事は、特定の国家や団体に肩入れしないものが厳選されています。それ以上もそれ以下もなく、公の利益を優先したものです。

 それに、どんなに実力が高くて周りに評価されていても、依頼を受ける際はカウンターに並びますし、他の誰かに狙いの依頼を取られても苦情は一切受け付けません。依頼料に色もつきません。それが嫌で開拓冒険者を目指す人もいますが、確かに言われてみれば地上に降りたゼオムはポニーちゃんの知る限り全員がギルド所属です。


「ギルド程中立で冒険者の自由を保障する組織はないわ。もちろん貴方たち個人も信頼してるわよ?」


 振り向きざまに微笑む翠魔女さんの笑顔は絵画のように美しく、思わず二人で見惚れてしまいました。この期待に応えられるようしっかり役割を果たしたいものです。


 なお、現在の天空都市は行き交う人が少ないです。

 通りすがりにこちらに挨拶する人もいますが、翠魔女さんと二言三言会話するとすぐに通り過ぎています。そういう民族性か、余所者のせいか……と思っていると、広場のような場所を通りすがった時にその理由を理解しました。

 そこには、大勢のゼオムたちが集まって集会を開いていたのです。


「我等ゼオムが偉大なる女神様に微力ながらお力添え出来るまたとない機会だ! 我らは実戦を知らぬが、幻影戦術訓練をこなした身!! 有事の際には身を賭して戦うぞ!!」

「戦えぬ者は地下へ向かえ!! 特に子供は間違っても前線に出すなよ!!」

「諍いあらば速やかに長老に報告せよ! 地下に居る者達は全員がこの危機に共に立ち向かう同志であることを忘れるな!!」

「……む、貴方方は女神様に招かれし新たな同志ですね!! 我等ゼオム一同、全身全霊で事に当たります!! 共にこの試練を乗り越えましょう!! 翠魔女よ、忙しいとは思うが我らに替わって案内を恙なく頼むぞ!!」


 凄まじい熱気と圧です。

 見ていて逆に不安になる程の奮起ぶりに、ポニーちゃんとイイコちゃんは当たり障りのない返事をするので精一杯でした。この有事に協力してくれるのは有難いことですが、きっと都市のあちこちで同じ集会が行われているのでしょう。


 なんとなく桜さんが一億玉砕とか物騒な事を言っていたのを思い出してしまいます。命を賭すことと命を捨てることは全く違う事なのですが、きちんと理解しているのでしょうか。イイコちゃんもそこはかとなく不安そうです。


「……大丈夫かな、あの人達。ヒャッハー我慢できねぇ、って底辺冒険者みたいに言う事聞かずに突っ込んでしまわないといいけど」

「大丈夫、女神さまのお言葉を無視できるほど独りよがりな人達じゃないわ」


 ……翠魔女さんが大丈夫と言うなら信じることにしましょう。


 そのまま三人は地下を通り、円形の光る床がある場所に立ちます。すると周囲の風景が歪み、気が付いたら遺跡の中にいました。ここが『アラミス』内部のようです。ポニーちゃんはすぐにそれが桜さんのやった『空間を捻じ曲げる術』の類だと気づきましたが、イイコちゃんはびっくりしてポニーちゃんの腕にしがみ付いて「きゃー! きゃー! 何!? これ何なのぉ!?」とパニックになっていました。

 ふふん、そこはかとない優越感です。


 閑話休題。

 沢山のドアノブのないドアが並ぶ通路を歩いていると、不意に扉が開きっぱなしの部屋がありました。扉そのものが大きなそこはどうやら食堂らしく、微かに食欲をそそる香りが漏れ出ています。そういえばそろそろ昼時だということを思いだしたポニーちゃんの腹の虫が小さく唸り、翠魔女さんがおかしそうに笑います。

 イイコちゃんにも「ん~? 何か聞こえたね~?」とからかわれ、ポニーちゃんは羞恥で顔が真っ赤になってしまいました。


「ご飯にしましょ? ここの食事はいま地球料理しかないから口に合うか分からないけれど……凄いのよ、地球の文化。完成した料理を味はそのままに保管する特殊な技術があるらしくて、既に作られた料理が沢山ストックされてるの」


 開いた口が塞がらない究極の保存食に、ポニーちゃんはイイコちゃんと顔を見合わせました。今の時代、術で食品の腐敗を遅らせるのにも限度があるというのに、保存食を保管するのではなく一般的な料理を保管しているというのです。


 実際に十数名の人々がそこで食事をしていましたが、見覚えのないものが多いとはいえキッチンで先ほど作られたと言われて騙されるほどにはきちんとした料理です。食べる人々の顔に、美味しくないものを食べる時の盛り下がった感じもありません。


 これまでオーバーテクノロジーだらけだと思ってはいましたが、生活レベルにまで落とされたことでやっとその恐ろしい技術差を実感させられます。


 ポニーちゃんはカツドンテーショクなるものを、イイコちゃんはカイセンドンなるものを頼みましたが、これは桜さんが美味しそうに食べていたという情報を基にしたものです。実のところ、桜さんはなかなか舌の肥えた人なので、結構その味覚を信用しているポニーちゃんでした。


「これ、どう見ても取れたての生魚の切り身よね。それにこれ、魚の卵……? 本当に食べられるのかな……」


 イイコちゃんは不安そうに調味料――ケレビム民族料理によく使われるものと匂いが似ている――を軽くかけて、スプーンで掬って口に含みます。

 直後、カッと目を見開きました。


「生の魚介ってこんなに美味しいの!? というか、保存食なのに生でこのおいしさって意味分からないんだけどぉッ!!」


 1分後、ポニーちゃんは「サクサク揚物フライで美味しくて保存食ってどういうこと!?」と叫ぶことになるのでした。この揚げ物、揚げて出したのではなく本当に揚げた状態で保存されていたそうです。その飽くなき美食への追求、変態的というか技術の無駄遣いと言うべきか……。




 食事を終えて小休止がてら余りにも美味しすぎるソフトクリームなるデザートに驚愕していると、見覚えのある人が近づいてきました。あれは――長らく修行の旅に出ていた碧射手ちゃんです! イイコちゃんと二人でバニラ味とショコラ味のソフトクリームをスプーンで食べさせ合っていたところにやってきた碧射手ちゃんは、二人を交互に見て唸ります。


「その……うん。女の子同士で恋しても、おかしくないと思うよ」


 違います。

 いえ、イイコちゃんとは仲良くなりましたが違います。


「そうですよ! 大剣士さんと黒術士さんじゃあるまいし!!」


 えっ、あの二人ってデキてたんですか!?

 衝撃の事実にポニーちゃんも思わず唖然です。


 大剣士さんと黒術士さんはギルド所属、女性同士の凸凹コンビです。

 男勝りで勝気なディクロムの大剣士さんと、それに負けず劣らずプライドが高いエフェムの黒術士さんは口も悪ければ仲も悪いのにイザ戦いになると相性抜群という困った人達で、最近も依頼配分でもめ事を起こしています。まさか私生活ではイチャイチャするタイプだったとは。


 ……そういえば、ここ数日あの二人の姿を見ませんでした。

 他にも数名、歴王国出身冒険者を中心に見えなくなった人がいます。

 今になって思えばきっと、歴王国から国に戻るよう何らかの通達があったのでしょう。黒術士さんは父親が歴王国の人だったと聞いていますし、信頼する相方と戦いたくなくて一緒に連れて行った可能性はあります。


「……戦いたくないわね」

「……そう、ですね」


 暗い話になってしまった事を気にして、ポニーちゃんは逆に明るい話をすることにしました。碧射手ちゃんと桜さんはその後進展はどうなのでしょうか!


「アタックはしてるけど、改まって告白はしてないかな。少なくともこの騒ぎが収まらない間は、娘のことで手一杯な桜に余計な心労かけたくないの。抱え込む人でしょ?」


 割り切った顔でそう言い切る碧射手ちゃんは、今までより大人びて見えます。彼女にくっついている白雪がテーブルに乗ってやれやれとかぶりを振りました。


「まったく我がクリエイターながらめんどくさい男っきゅ。マスターの気遣いを悟ってそれに甘えてるんじゃないっきゅかね」

「……喋ったぁぁぁぁぁぁあぁああぁ!?」

「またこのパターンっきゅか。いやまぁ、イイコちゃんとは絡みなかったし無理もないっきゅけど」


 閑話休題。


「よくあそこまで一途に桜さんを好きで居続けられますよね、碧射手ちゃんって」

「まぁ、これでも平均的な種族よりちょっと寿命が長いから時間感覚が違うのかもしれないけど……昔ね、ある占い師の人に言われたの。『君は背負いこみ過ぎるから、自分よりもっと背負い過ぎる人を好きになるだろう』……だって」


 その話は初耳です。

 それに、碧射手ちゃんが占いを信じていることも。


「うん、基本信じてない。でもね……多分その人はフェリムだったと思うんだけど、その人の言葉はまだ未熟だった私の心に不思議と響いて、その占いだけ凄くよく覚えてるの。だから桜の事を好きかもって思ったとき、その占いを真っ先に思い出した」


 なんだか、運命を感じる話です。

 フェリムということは氷国連合の人なのでしょうが、占いのイメージがありません。

 そこもまたミステリアスです。


「実はね、その人は凄く白い人だったの。白雪の名前は雪兎ちゃんに寄せてもいるけど、その人のイメージからも半分は貰ってるのよ。縁を繋ぐ存在としてね?」

「えー。そんな不審者から取らないで欲しかったっきゅ」

「やっぱりポチが良かった?」

「……それもそれで何となく嫌っきゅね。これは多分クリエイターの深層意識に影響されての価値観だと思うっきゅけど」


 ポチ――白雪の名前第一候補です。

 ポニーちゃん的には古代語から取るなんてお洒落だと思うのですが、桜さんは何がそんなに嫌なのか強硬に反対しました。もしかしたら地球ではポチは何か嫌な要素を含む名前だったのかもしれません。


 と――そんなポニーちゃんの視界に陰が差します。

 同時に、背後に何者かの気配。

 誰だろう、と思って振り向いたポニーちゃんは目を見開きました。


「ポニぃ~~~……またお姉ちゃんに黙って厄介事に首を突っ込んだわねぇッ!!」


 ――おっ、お姉ちゃんっ!? 何でここに!?


 そこに居たのは、どうしてここにいるのか鬼の形相をしたポニーの実姉――頭の後ろで折りたたむように髪を結び、頭の後ろから見えるその先端がパイナープという果物の葉のように見えるパインお姉ちゃんでした。

受付嬢ちゃん豆知識:パインについて

パインお姉ちゃんは四歳歳の離れた実姉で、幼い頃からずっと守ってくれた自慢の姉でもあります。スポーツも学業も容姿もポニーちゃんより頭一つ飛びぬけた才女で、第三視審査会というギルドの査察を行う凄く偉い組織の採用試験に最年少で合格した超エリートです。

ただ、その……唯一の家族で優しくて誰よりも頼れるけど、怒るとちょっと……いえ、かなり怖いと言いますか……ごめんなさい、この話はお姉ちゃんにはしないで!! お姉ちゃんのことは大好きで尊敬しています!!

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