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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十二章 受付嬢ちゃんよ!

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102.受付嬢ちゃんよ備えよ

 今――ポニーちゃんとイイコちゃんは大騒ぎになるギルドの喧騒を横目にアイドルちゃんから支給された板切れの使い方を必死に覚えています。冒険者さんの依頼処理以外の全ての業務が実質ストップ。二人が喧噪の中に参加していないのは、銀刀くんの指揮下に組み込まれたからです。


「ちがっ、これ違……違うんだってこれ。私はもっとメルヘンで幸せな物語の主役になりたかった訳であって、戦争劇とか全っ然好みじゃないのよ。もっと平穏な物語の名ありキャラになりたかったんだって……ポニー、それ違う。モード切替は左下のボタン」


 流石受付嬢人気No.1。先日の夜にエインフィレモスさんに催眠学習して貰ったとはいえ、板切れの慣れが早いです。かくいうポニーちゃんも習ったのですが、まさか最初板切れだと思っていた桜さんのアレと似たアイテムを自分が使うことになるとは予想外です。桜さんの熟達した指捌きに羨望の念を抱きそうです。


 さて、ギルドの喧騒の理由は簡単です。


 シルバーさんのタレコミで歴王国が世界に宣戦布告すると判明した際に、真っ先に歴王国のギルドの人間を逃がす必要がありました。その為現在このギルドに、歴王国から桜さんの空間ゲートを通してせっせと夜逃げならぬ朝逃げが行われているのです。


 一応はアサシンギルドの秘中の秘術ということにしてあり、実際の歴王国支部は幻術でいつものように活動しているように見せかけています。普通こういった事態にギルドに入ってきても誤情報では? と疑われる所ですが、日夜歴王国と睨み合いをしている彼らからすれば「とうとう来たか!!」という感覚らしく、意外にもてきぱきと脱出を進めています。


 唯一、雪兎ちゃんならこの動きを把握できるのではという懸念がありますが。


 現在、避難民用の仮設テントや本部からの救援物資の整理が続々と進められていますが、流石に歴王国支部の人以外は歴王国の宣戦布告を眉唾物に思っているようです。当然でしょう。まだ正式発表がないですし、現実味のない話です。


 しかしポニーちゃんとイイコちゃんは知っています。

 歴王国がこれから始めようとしているのは、古代兵器を用いた、戦争とすら呼べない蹂躙です。


 二人は板切れ――デバイスの操作を学んでいる理由はまさにそこにあります。


 実際にはアイドルちゃんの指示でこちらも古代兵器を用意しているのですが、国家を総動員出来る歴王国に対してこちらは人員が限られます。しかも、歴王国は『降臨した女神がこちらについている』という大義名分があり、士気は高いものになるでしょう。


 対し、こちらの戦力は粒揃いながら、少々人員の性質が偏り過ぎている部分があり、統率面での不安があります。ポニーちゃんとイイコちゃんがなるべき『オペレーター』とは、そんな癖の強い人達同士の間を取り持つ重要な役割なのだそうです。


 他にも数名オペレーターを引っ張って来て来る予定だそうですが、何せゼオムもガゾムもアサシンギルドもステュアートも、環境が閉鎖的ないし独特なせいでコミュニケーション面の不安が否めないのだそうです。


「確かにその点、受付嬢はあらゆる国のあらゆる人種と根気強く接する職業だから適切だっていうのは分かるわよ? でもそのために魔将に頭いじくられるって……」


 ちなみにポニーちゃんは既に一度経験しています。

 ベッドの上で目が覚めたら枕元に魔将がいてちびるかと思いました。


「そりゃちびるわよ。私だって何も知らないでそうなったらちびるってば」


 なんて経験してんだコイツ、とイロモノを見る目で睥睨されました。


 ――ちなみに、アイドルちゃんは『我こそは真の女神』と名乗る気はないそうです。その理由は単純で、一人の女神の降臨なら眉唾物となるが、二人の女神が本物の座をかけて競い合えばそれは実質的に世界を二分する女神同士の戦争になるから、だそうです。


 そうなると勝敗によって勝者側の女神の地位と絶対性が確立され、様々な分断、対立、そして絶対の指導者を得たことによる文明の停滞が懸念されます。しかも、構図としては女神が人間を嗾ける形になり、アイドルちゃんが忌避する『女神による人の支配』の実現になってしまいます。

 ご飯を食べているときはあんなに尊いのに、女神としての在り方を語るアイドルちゃんは賢人の如く。色んな顔のあるアイドルちゃんです。


 そんなこんなでポチポチとデバイスを触って情報を頭に叩き込んでいた訳ですが、ふとイイコちゃんが通常業務中のメガネちゃんとギャルちゃんを遠目に見ていました。


「……不平等よね」


 えっ。


「あの人たちもポニーの同僚で友達な訳で。しかもこれからの戦いに無関係でもない訳で。となれば、あの二人に真実ぶちまけて巻き込めないかな。人手が増えて腹いせもできる。一石二鳥の策よ」


 う、う~ん……でもギャルちゃん嫌なことには直ぐ感情的になる上に大雑把だし、メガネちゃん細かすぎる上にテンパるから、逆に不安じゃありません?


「……それもそうね。しゃーない、この派遣業務は若手受付嬢のトップツーが片付けてあげましょう」


 イイコちゃんはひとまず納得したのか、自信に満ちた笑みでこちらを見ました。不思議です。イイコちゃんが隣にいれば、どんな問題も解決できる気がしてきます。もしかしてポニーちゃんは女の子に惚れるタイプの女だったのでしょうか。


 そういえば、桜さんは今頃何をしているのでしょうか。アイドルちゃんに引き連れられて既に出立していますが、最近の桜さんはどこか放っておくとふらりと居なくなってしまいそうな不安を覚えます。


 氷国連合で雪兎ちゃんを取り戻すと決めたときに「そういうところ、好きだけど」と言われたことを急に思い出したポニーちゃんは、今になって思えばその桜さんらしからぬ本音めいた物言いにさえ不安を覚えてしまうのでした。


 冒険者とは、後がない人間ほど自分の胸の内を曝け出すものです。

 もしも本当にポニーちゃんに好意を伝えたいのであれば、桜さん――平和になって、雪兎ちゃんを連れ戻してからやってください。




 = =




 一方その頃、桜はというと。


「ロボットってのは……素晴らしいんだよ。淡く光るツインアイ、鋭利なアンテナ、数々の武器、無骨でありながら芸術的な姿。そしてウィンガシャギュルルプシューっていうあのメカニカルな音ね。堪らないね。あれだけでご飯三杯はいける。いいや、厳密には別にツインアイじゃなくたっていい。モノアイ、バイザー、いろんなものがある。アンテナのない奴だっている。無骨極振りもいれば芸術極振りもいるし、そもそも厳密にはてめーロボットじゃねーだろってやつもいる。でもいいんだ、ソウルがロボットなんだ。それこそが重要なことだ。しかしロボットにも楽しみ方がある。所謂スーパーロボットとリアルロボットだな。俺はどっちもイケるクチだが人によってはどちらかしか選ばないこともある。スーパーロボットってのはさぁ、お約束なんだよ。人類が普遍的に感じる情熱の在り方を体現し、男の子なら必ず嘆息を漏らす、なんていうかな。カッコよさの化身な訳さ。必殺技、合体、ビームに剣! 特殊なエネルギーを使った特殊な巨大ロボットなんて合理的じゃないっていう奴はいるけど、違うんだ。合理性を超えた先にあるロマンを求めるから人はスーパーロボットを愛するのさ。じゃあリアルロボットにはそれがないかって? ははは、馬鹿をいえ。リアルロボットの細部に宿る細やかな息遣いにはスーパーロボットでは表現し辛い様々なドラマを内包できる。それに多対多の集団戦を描きやすかったり、統一された規格の中で相手を超える為の発想力とかスタイリッシュな殺陣もむしろリアルロボットの方がやり易い。それにシビアな世界でこそ生まれる人間ドラマと喪失の切なさとかもう色々だ。しかし、しかしだな。それはリアルロボットでしか絶対出来ない訳ではなく、かといってスーパーロボットだから必ず出来る訳でもないんだ。そこにはスーパーとリアルの垣根を超えたロボット世界が広がっている。いいかロータ・ロバリー人共。人が乗り込む巨大ロボットってのは――地球人の夢そのものだ」

「桜、桜。病状が酷過ぎる」


 瞳が螺旋を描いている、俗に言うガンギマリ顔でなにやら意味不明な供述をしている桜をゴールドが揺さぶる。一方でアイドルちゃんと共に転移術で天空都市内部の空間に訪れた戦士たちが『それ』を見る。

 水槍学士が感嘆の吐息を漏らした。


「これが、古代の人造巨人ティタノマキネ……何という力強い造形だ」

「使われていた当時は『ガイスト』とも呼ばれていた――人が内部に乗り込み、操縦することで動く戦力です」


 そこにあるのは、直径20マトレ近くある巨体だ。

 爪先から頭の先までを鎧で覆われた、というよりは、鎧がそのまま人間になったかのような姿は見る者に堅牢さという安心感を与える。それでいて鎧の造形は尖るところが尖り、削る所は削っている。一部用途の分からない飾りのようなパーツが背部にあるが、それさえも人造巨人ティタノマキネが見る者に与える迫力に拍車をかけている。

 顔は二つの瞳のような半透明なレンズを鋭角的に削ったものが埋め込まれているが、風を切り裂く流線形をイメージしつつも鬼や狂暴な魔物によくある角を生やした姿は、戦を司る神だと言われても違和感はない。


 一足先にやってきていた小麦がスパナ片手に油が体のあちこちに付着した姿で人造巨人の上から降りてくると、底抜けに明るい笑顔をぱっと咲かせる。


「いっや~~~! こんな凄い技術触れて超幸せ~!! 複雑すぎて細かい部分まで手が回らなかったけど、何とかポルトスとアラミスの機体を共食い整備して10%スペックで20機は動かせますよぉ!!」


 天空都市内部、格納庫には既に彼女を含む数多くのガゾムが人造巨人を調整しており、普通なら数人で抱えるような巨大な機械を片手で運んでいるガゾムの姿も垣間見える。


 雪兎が動いていたその日には、既にアイドルはこの時を見据えてアラミスとポルトスの人造巨人を使えるようにする手筈を整えていた。雪兎がもし最悪のパターンであるアトスの占拠に出たら、判明してから準備したのでは間に合わなかった。


 近くで何やら古代の機械を弄っていた少年のガゾム――帽子キャップの似合う帽子くんが事務的に状況を伝達する。もちろん見た目はあどけない少年だ。


「ポルトスにはまだあるようですが、何せ完全に死んだふりしたせいで多くが埋没してしまっています。場所を割り出して急ピッチで掘ってはいるものの、引きずり出して使えるようにするまでには3日は。アラミスの機体はあっちに比べればマシではありましたが、なのましん? っていうののシステムが再起動できなかったのが何機かあったんで、逆にシステム再起動出来た奴を無理やり詰めてます。多分完全には規格が一致してないんであんまり良くないですね」

「そちらは女神側こちらで調整します。機種は?」

「ええと……まず『ナガト九十六式』が10体。あれですね」


 指差した先にいる人造巨人は、黒塗りを基調とし、四肢が野太く、如何にも堅牢そうな角ばった装甲に覆われている。脚部には車輪らしき構造も見受けられるが、役割は重装歩兵のような防御重視に思える。

 頭部もまた角ばっており、人間で言う目にあたる部分はバイザーのように眼球らしいパーツは存在しない。試運転中なのか、動いた巨人の目は爛々と淡い橙色に輝き、外見の太さにそぐわぬ柔軟な関節の動きを披露している。


「続いてあちら。ワンオフ機っぽいんですけど、名前は『トロイメライ』。とにかく重装甲な上にエライ量の火器が積んでありまして。うちの大砲王が大好きそうな機体です」


 荒れ地の巨岩のような薄茶色の躯体は、一応人型ではあるが、忠実に人体を模してるとは言い難い部分もある。先ほどのナガト九十六式が子供に見えるサイズは、圧巻過ぎて逆にスケール感を麻痺させた。


「はいはいは~い私乗りたい私乗りたい!!」

「と、小麦の嬢ちゃんが言うような機体ですね」


 ぴょんぴょん撥ねて自己主張する小麦だが、このトリガーハッピーは一番乗せてはいけない気がする。整備中の図体から隠し切れない量の砲がはみ出しているのだ。心なしか整備するガゾムの人数が多く、皆の目が爛々と輝いている気がする。


(ていうか今、小麦さんのこと嬢ちゃんって……)

(年上より更に年上……あの見た目で……)

「続いて4機あるのが『ドラグノフ』。随分凝った構造の割に機構が洗練されてて驚きましたよ。色々機能も生きてるっぽいんですが、用途が分からないんで一旦後回しにしてます」


 これまでの2つと打って変わってドラグノフはスマートなデザインだ。前の2つに比べれば装甲に角ばった部分が少なく、生物的な曲線が目立つ。しかし一見すると意味のなさそうな機構が見受けられたり、整備中の腕の内部も様々な仕込みがあるらしい。

 頭部は尖り、背部に鳥の翼のようなものが折りたたまれているのもあってか猛禽類のような獰猛なな印象があった。


「次、アルキミア。これもどうやらワンオフですね。ドラグノフに似て細身ですが全身まっ金々のド派手な色なので、多分隊長用。接近戦を前提としてるせいか整備人の中でもニッチな趣味持ちしか弄ってません。ただ、保存状態が良かったのか調子はいい方です」

「うむ。ゴールドを乗せよう。金は特別な色故、半端者には務まらん」

「桜? 何で君が決めるみたいな口調なの?」


 桜が勝手にうんうん頷き決定してしまったが、ゴールドが乗ると言われると妙な納得感がある周囲であった。

 アルキミアはドラグノフに少し似ているものの、シンプル過ぎるドラグノフに比べて見栄えのする姿だ。無骨さはなく、かといって装飾過多でもない絶妙なバランスのデザインであり、心なしか緑のツインアイが強さと優しさを湛えているように感じた。


「次、ガルディータスⅣが3機。これはアトスに置いてるのと同じらしいんですが、ポルトスで見つかりました。ただ劣化やらショートが多くて、共食い整備で最初は10機あったのが残り3機ですよ」


 うんざりしたように格納庫の隅を顎で指す帽子くん。そこにはバラバラに分解されたガルディータスの山が転がっていた。どうもこの巨人は動くためにたくさんの機械を寄せ集めているらしく、その取り換えの末にこうなったようだ。

 ちなみに小麦が先ほどまで整備していたのがこのガルディータスだ。


「アルキミアより太いけど太過ぎず、鎧も堅牢そうでバランスがいい体格ですね」

「まぁ、話聞く限りじゃ当時の主戦力だったみたいですしね。扱いやすさは多分こいつらが一番です。ナガトが二番目かな。で、最後の一つが奥にあるアレ――ニヒロです」


 そこには、手足に統一感がないことが逆に『そういうデザイン』と思わせるような不思議な機体が鎮座していた。トロイメライほどではないが、一回り周囲の機体より大きな形状になっている。


「ニヒロはポルトスの最深層のコンテナに詰めてあったのを引っ張り出したものですが、メインシステムは全部生きてるのに肝心の手足や頭が全くない状態だったもんで、とにかく使えそうなものを掻き集めて、足りない部分はうちの国の機械で補ってます」


 そこに居たのは、周囲の巨人と比べて一際異質な形状。

 左右対称だったこれまでの機体と違い、左右の腕が違う形状であったり、頭部の鋭利なパーツが右にしか装着されていなかったりとアンバランスにも見えるが、不思議と最初からそういった形状であったかのような印象も覚えさせる。

 一際目を引くのは、胸部と左腕部に埋め込まれた翡翠色の球体のようなパーツだ。

 桜が興味深そうに遠見の神秘術で嘗め回すように見つめる。

 若干の恍惚の表情が入っているのは気のせいか。

 

「足のパーツはあれ、ナガトのものに似てるな。右腕はアルキミアの予備パーツか? 左は純正パーツと見た。頭は……組み上げきれなかったタイプの別の機体から?」

「ええ、その通り。その他内部も部分部分で足りないパーツを付け足してます。あと――操縦席にシートが二つあるんですよ、あれ。恐らく二人乗りなんでしょうね」

「いい……急ごしらえなのにロボロボしててしかも複座! とてもいい……!」


 完全に乗りたがっている。こんなに童心剥き出しの桜を見たことがない周囲が若干引いているが、そんな中で一人だけ――アイドルだけは積極的だった。


「ではユーザー、私が補助席に座りますのでユーザーが操縦しましょう。ニヒロは遊ばせておくには惜しい機体です」

「アイドルぅ!! 愛してるぞぉ二人目の娘よっ!!」

「いえ、あくまで私はユーザーを補助することが目的……あっ、あっ、背中を撫でないでください。こそばゆさと心地よさで思考効率が低下していきます……!」


 満更でもなさそうな女神の姿に、その場の全員が飽きれつつも暖かな瞳で見守った。

 今だけは、桜の心底楽しそうな笑顔を邪魔しないであげたかったから。

 全員が――きっと桜自身も感じているのだ。

 これから始まる最後の戦いが、身も心も削る激戦になることを。

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