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受付嬢のテッソクっ! ~ポニテ真面目受付嬢の奮闘業務記録~  作者: 空戦型
十一章 受付嬢ちゃんも!

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100.受付嬢ちゃんも決断する

今月の更新はここまでです。

投稿後に一部加筆、修正しました。

 その日、仕事終わりの逢魔時。


「な……何の集まり?」


 『泡沫の枕』の食堂までポニーに案内されたイイコは、そこに集結する面々に困惑した。そこにいるのは桜、アイドル、ゴールド、赤槍士、水槍学士、軽業師、タレ耳といったポニーと関わりの深い面々だけでなく、もうギルドを去った筈の銀刀と、その銀刀を無理やり自分の膝の上に座らせて上機嫌に頭にほおずりしている未来の軽業師のような姿をした美女、既に居眠りしている神腕、下半身が半透明の人間っぽいナニカ、更にその奥にはなんと歴王国十摂家が一角のシルバーと隣に寄り添う高貴そうな美女までいる。

 もちろん宿の人間である一角娘に古傷もだ。


 桜がポニーを見た。

 その眉間には険があり、普段の気だるげな雰囲気がない。


「おいポニー、悪いが緊急事態だ。コトが動いた。イイコに事情を話すのは聞いたが、それどころじゃなくなった。()()()()()()()()()かもしれん」

「え? ちょ、えっ……な、なに? ちょっとポニー、あんた何を私に説明する気だったの!? ていうか何が始まるの!?」

「おい、そこの……イイコだったな。こちらの話が終わるまで質問せずに黙って聞いていろ」


 銀刀が女性の膝の上に乗ったままこちらを向く。

 この暗殺者を膝にのせて愛でるとか頭ポニーかよ、と後ろの美女にツッコミたいイイコだったが、銀刀はギルド上層の人間なため逆らう訳にもいかず黙る。ちなみに彼を抱く後ろの人はポニーとイイコ二人がかりでも及ばない二つの戦闘力の塊を銀刀の後頭部にぶつけているが、銀刀は若干イラつきつつそのことには何も言わないようだ。


「――では、シルバー。二度目になりますが、説明を」

「はっ、女神様!」


 唐突に進行を始めたアイドルに「お前が仕切るんかいッ!!」と突っ込みかけたイイコだったが、誰も突っ込まないので段々自分がおかしいのではないかと感じるくらい場がシリアスだ。というかシルバーも偉い人なのに女神様とか呼んで従ってるけど年下の女の子相手に女神って……いや、悔しいことに女神レベルの美しさだが。それでいいんだろうか。


「先日、歴王国国王陛下が十賢円卓会議を開き、そこで賛成10、不参加1で『歴王国によるロータ・ロバリーの統一と反対勢力の無力化』という方針が決定されました。予定通りであれば三日後の昼十二時に……歴王国は全世界、全勢力に対し降伏勧告をし、従わぬ存在に宣戦布告するとのことです」

「……!!」

「何でそんなことに……!?」


 初耳の面子もいたのか、食堂がざわつく。

 え、待って、とイイコは思う。これはもしかして高度なドッキリであり、大変な手間と時間をかけてイイコをめくるめく異次元世界に取り込もうとしているのではないだろうか。だって常識的に考えて世界に宣戦布告など正気の沙汰ではない。歴王国を疎む国は多い。そんなことをすればあっという間に反歴王国の連合がギルド主導で編成され、この国は世界で初めて国際紛争を原因として姿を消した国になりかねない。


 と、桜が補足説明をする。


「昨日の夜のうちにシルバーから俺経由でゴールドに連絡があり事態が発覚した。流体が分裂、変化して今はシルバーとお隣……婚約者のプラチナのフリをして誤魔化してるが、いつバレるか分からん。何せ相手が相手だかんな……」

「桜殿。直接目撃した身としてはまだ信じられぬのですが……アレが、本当にあの小さな雪兎なのですか!? 確かに体の色合いは同じですが、あれは、なんというか、もっと……」

「見られなくて残念だが、状況的に彼女自身かあるいはその端末で間違いないだろう」

「疑問。アイドルはこの事態を想定していたのか?」

「マエスティーティアで本体を侵食された際にコードと権限の一部が奪取されました。その悪用方法として最悪の事態を想定していましたが、残念なことにその最悪が当たってしまう形に……」

「その、浅学な身で失礼ですがアイドル様。貴方はこの星の全てを掌握しているという話でしたが、件の遺跡を掌握できなかったのは何故ですか?」

「あそこには高度な自己防衛システムが働いています。下手に手を出して自己判断の為に攻撃ないし自爆を敢行されれば事態はコントロール不可能になる為、経年劣化による消失を選ばざるを得ませんでした。幸い他二つはこちらで説得出来ましたが、あそこだけは完全にこちらからの接触を断っていました。それが仇となり、ハイ・アイテールに機能を掌握されたのでしょう」


 全く状況が呑み込めないイイコはこいつら何言ってんだと言わんばかりに周囲を見回すが、誰も説明してくれない。真実を話すと言った張本人であるポニーは聞きに回っている。この女あとでくすぐり倒す、とイイコは内心でささやかな仕返しを決定した。


「それでも相手の力は絶大です。単純な戦力では残り二つを上回るあの力は旧文明に最も近い思想・文化を持つ彼らには馴染むでしょう。宣戦布告まで猶予があったのは、その間学習装置で体感時間を引き伸ばし、仮想訓練を行っているものと予想されます」

「……いよいよだね」


 ゴールドがそう呟き、周囲が頷く。

 でもイイコは頷けない。話が見えないので。

 桜が立ち上がり、並ぶようにアイドルが椅子の上に立った。お行儀が悪いと言おうと思ったらなんと接地しておらず術で浮いている。ポニーは気にしてない。只者じゃないことを知ってたなら早く言えよと思ったイイコは擽り罰をハードにしようと決めた。


「これより俺達は星の未来と大切な日常を取り戻す為の行動を開始する。以降の指示はアイドルを頂点に、俺、銀刀、白狼女帝が副官として動く。場合によっては説明を受けずに作戦に参加する場合もあるかもしれないが、俺達は誰も犠牲にしたくない。それは信じてくれ。必ずみんなで勝って、ハッピーエンドで終わらせるぞ!!」

「おう!」

「「はい!」」

「「「了解!」」」


 銀刀を膝上に乗せた美女が白狼女帝という名の時に「うむうむ、下士官になるとは得難き経験よ」と発言してイイコは「えっ」となる。つまりあれは国家元首、氷国連合の頂点ということだろうか。氷国連合の頂点が友達の家の宿で暗殺者を愛でながら脳みそポニー。訳が分からない事態がさらに悪化した。


 と――聞きに徹していたポニーがイイコの肩を叩く。


 ――イイコちゃん。


「ちょっと、ねぇポニー。何の話してるのこれ……貴方何を隠してるの!?」


 ――秘密を隠すなって言ったのはイイコちゃんですから、私は悪くないですよね!!


「は? ……はぁ?」


 ――という訳で、私は遠慮なくイイコちゃんを巻き込みたいと思います!! どうせ無関係でもないですし良いですよね!! 私たちが受諾したクエストの内容は簡単ですよ? その内容はですねぇ。


 ――古代兵器を手に入れた歴王国との戦争を女神や魔将と協力して犠牲者ゼロで完勝し、その背後にいるロータ・ロバリーの未来を支配しようとする反抗期の迷子さんを倒して叱って連れ帰ることですッ!!


「……………」


 若干自棄っぱち気味のポニーのカミングアウトにイイコはギギギ、と錆びた機械のような動きで首を回し、集まった面子を見る。


「女神です」と、アイドル。

「魔将です」と、下半身半透明マン。

「本当に戦争なんだ」と、ゴールド&シルバー。

「女神を超える存在との戦いとは血沸き肉躍るなぁ!!」と、神腕。

「雪兎……どんなに姿が変わっても、お前は俺の娘だからな……」と、こっちを見ていない桜。


 最後に軋む首をポニーに戻したイイコは、その両肩をあらんかぎりの握力で掴んでぐわしぐわしと揺さぶった。


「アンタ一体何抱え込んで何知らせようとしてんのぉぉぉぉーーーーーーッ!!?」


 ――運命共同体です!! 一蓮托生です!! わぁい、ポニー嬉しい!! 星の未来を懸けた戦いに友達と一緒に受付嬢として参加できるなんて!! これは人生最大のスペクタクルですよっ!!


「ワケを言えぇぇぇぇッ!! 唯のギルド受付嬢がどうしてこうなったのか訳を素直にゲロリアンしなさいよぉぉぉぉぉーーーーーーーーッ!!!」


 数分後、やけくそ気味に明るい笑顔で全ての事情を知ったイイコは涙目で頭を抱えながら「嫌い!! アンタ嫌いッ!!」としばらく叫び続けたという。ちなみに協力するか否かについては「逃げ道ないじゃない!!」とやけくそ気味に参加表明した。


 もう、この瞬間に引き返すことは出来ない。

 国境を超えた先に発生した怒涛の運命の流れは、星を覆う騒乱を呼ぶ。


 しかし、何を恐れることがあろうか。

 これだけ信じられる仲間を得ておいて、躊躇うことなど何もない。

 超えた先に未来はある。

 ならば手を取り合い、超えるだけだ。

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