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女禁の竜騎士隊で、俺の相棒は王女様?

「これから竜騎士隊入隊試験を始める」


 初老の試験官が、城門を開けるなり宣言する。


「試験会場は城の中庭だ。しっかりついて来い」


 城門前には少年たちが、太陽の日差しを浴びて長い列をなしていた。ウォルは列の前方だ。日の出前に城門にたどり着いた時には、自分が一番乗りだと思っていたのに、すでに何人も並んでいた。先頭は、貧しい身なりのひょろりとした長身の少年だ。目も眉も細くて下がっており、腰の曲がった様子から卑屈な印象を与える。竜騎士になりたくて、誰よりも早くから並んでいた様にはとても見えない。

 試験官の後について列が動き出そうとした時、エルフの美女がさす日傘が作る涼しい影に入りながら、太ってニキビ面の少年が、横柄な態度で列の先頭に入り込んだ。


(何だ! あいつは!?)


 ウォルだけではない。口には出さなくても、受験者はみんな非難の目をニキビ面の少年に向ける。しかし試験官は何も言わない。ところが――。


「待って!! 後から来たなら、後ろに並ぶべきだろ!!」


 声変わり前なのか、甲高い声がニキビ面を非難する。ニキビ面は、チラリと声の持ち主を見ると、フイッと顔をそむけて、何事もなかったように試験官の後ろを進み始めた。


「人の話を聞いてるの⁉」


 甲高い声の少年が列を離れ、ニキビ面に詰め寄る。ウォルの側を少年が通り過ぎようとした時に、ウォルはハッと気が付いた。


(女の子だ!!)


 竜騎士隊に女はいない。なぜなら、竜は女になつかないからだ。そんなわけで竜騎士隊の受験者には男子しかいないのだが……。

 なんで女の子が……。そんな疑問も、ニキビ面に突き飛ばされて尻もちをつく女の子を見れば吹き飛んだ。気が付いた時にはウォルも列を飛び出して、女の子を助け起こしていた。


 ――どんな時でも、女の子には優しく!!


 それは三人の姉と三人の妹を持つ七人姉弟妹(きょうだい)の真ん中として育ったウォルの魂に染みついている言葉だ。


「あ……ありがとう」


 助け起こした顔を見れば、金色の髪は短いが、やはり女の子の顔だ。同じ年頃には、ざらざらした肌にヒゲが生えてきている少年も少なくないというのに、真っ白いつるりとした肌。卵型の輪郭、輝くような紫の瞳にバラの蕾のようなピンクの唇をしている。


(こんな美少女見たことないぞ!!)


 ウォルの姉たちも妹たちも美女、美少女として界隈では有名だ。でもこの女の子はそんな姉たちとも妹たちとも一線を(かく)している。ぽおっと頬を赤らめたウォルに影が被さる。


「あの……。お怪我はありませんか?」


 見上げれば列の先頭に並んでいた、みすぼらしい身なりのひょろりとした少年だ。


「主人が……申し訳ありません」

「主人?」


 すでに列は試験会場に向けて動き出していた。その先頭のニキビ面に、ウォルが目をやれば、ひょろりとした少年が頷いた。


「私が主人の代わりに列に並んでおりました。ですので、皆様の順番が変わるわけではございません。ちゃんと説明もせずに、申し訳ありませんでした」


 この通りでございます。と深々と頭を下げられてしまえば、女の子も文句は言えなかった。しかしウォルは別の事に腹が立っていたのである。


「それはいいけど、君の主人は女の子をこんな風に突き飛ばすなんてひどいじゃないか!!」

「女の子……ですか?」


 ひょろりとした少年は、ウォルの隣の顔を見て首を傾げた。


「その……。『女の子』というのはどなた様の事でございましょうか?」

「は?」

「もしお隣の方を指しているのでしたら、その発言こそ失礼な気が……。出過ぎた事を言ってしまい申し訳ありませんが」


 そこへウォルの隣からも文句の声が上がる。


「君! 助けてくれたのはありがたいけれど、僕のことを『女の子』だなんて失礼だろ!」

「『僕』?」

「当たり前だろ。竜騎士隊の入隊試験を受けられるのは男だけなんだから!」


 そういえばその通りだ。列に並んでいたということは試験を受けに来たという事。試験を受けに来たという事は、男であるという事である。

 ウォルはまじまじと、隣の顔を見た。


(でもどう見ても女の子だ……)


 その時、それは七人姉弟の末っ子として育ったウォルの魂に染みついている言葉が脳裏に浮かぶ。

 ――女の子がいう事は全てYES!!


(もしかしたら、記念受験に来たのかな?)


 女の子である以上、試験に合格する事はない。しかし男でも合格率は異様に低いのだ。どのみち落ちるなら女の子が記念受験しても問題ないだろう。納得すると、ウォルは話を合わせる事にした。


「ごめん。勘違いしてしまったみたいだ」

「いいんだ。そういえば助けてくれてありがとう。僕の名前はリン」

「俺はウォル。それで君は?」


 ウォルはひょろりとした少年に目を向ける。


「私でございますか?」


 自分の名前を聞かれるとは思ってもいなかった、というような顔だ。少年は、下がった眉尻をさらに下げた。


「私はファルコでございます。あの……、ところでいいのでございますか? 受験者の皆さまはもう移動されておりますが」


 三人の脇を長い列がぞろぞろと移動している。


「「あ、そうだった!」」


 三人は列の先頭を追いかけて走った。追いついた時には、ちょうどファルコの主人の試験が始まるところだ。日傘をさしてニキビ面に影を作っているエルフの美女は、ファルコの顔を見るとほっとした表情を浮かべた。


 試験官の前のテーブルには、手のように五本の六角柱を上にした水晶の塊が鎮座している。大きさも成人男性の手のようだ。


「受験者はこの水晶に手を当てること。竜との相性があれば、水晶になんらかの変化が現れる。では列の先頭から……」


 ニキビ面とエルフの美女が前に出る。ニキビ面が水晶に手を当てた。一秒、十秒、三十秒……。


「失格。次の者」


 ニキビ面は呆然とした顔をさらす。


「ちょ、ちょっと待て! なんで俺が失格なんだ⁉」

「失格は失格だ。早くどけ」

「話を聞け! この俺が! ババリー子爵家の長男である俺が失格なんておかしいだろ! 知らないのか? 竜騎士隊の隊長に、我が子爵家から金をたんまり渡してるんだぞ!」


 その発言をみんなが聞きつけて、ざわめいた。

 竜騎士は名誉ある職業だ。ほんの数十人しかいない竜騎士隊が、人類と敵対する魔族との境界線を保っている。そのため全人類から尊敬される仕事なのだ。また竜騎士を輩出した家には名誉と大金がおくられ、貴族なら政界を駆け上ることもある。

 試験官は耳をかっぽじって、指についた耳垢をふうっとニキビ面に吹き飛ばした。


「知ってるさ。竜騎士になるには、何よりも竜との相性がなくては始まらないというのに、息子を竜騎士にしろと、少なくない賄賂を渡してきたバカな貴族のことはな」

「バカな貴族だと!」

「言ったはずだ。竜騎士になるには、竜との相性がなくちゃいけない。竜との相性がない者は、どんなに金を積んだって入隊はさせられん」

「な、な、なんだと! お前のような下っ端では話にならん!! 隊長を呼べ!」


 こんなのが主人ではファルコもエルフの美女も、毎日が大変だろうと、ウォルは心の底から同情した。

 試験官はさっきとは反対側の耳をかっぽじり、また耳垢をニキビ面に吹き飛ばした。


「隊長を呼ぶ必要はない。俺が隊長だ」

「な……、お前が隊長!?」

「そうだ。だから結果が覆ることはない。お前は失格だ。さっさとどけ!」


 ニキビ面は、ぐぬぬぬぬと唸りながら悔しそうに試験官に背中を向けた。そこへ「そうだ」と試験官が明るい声を投げかける。思わず振り向いたニキビ面に、試験官はニカリと笑いかけた。


「お前のオヤジからもらった金で、三日ほど思う存分酒が飲めたぞ。感謝する」


 さっき隊長は「少なくない」と言ったはずだが、それが酒代の三日分にしかならないとはどれだけ飲んだのか、とウォルが呆れた時に、リンが「あっ!!」と声を上げる。


「こんなの、認められるか! 水晶に触って何が分かるっていうんだ!」


 ニキビ面が水晶を掴み上げ、地面に投げつけた。思わずウォルは、目を閉じる。ところがどんなに待っても、水晶が割れる音がしてこない。

 風がぶわっと吹いた。


「合格!!」


 試験官の高らかな声が聞こえる。

 目を開けると、水晶はファルコが地面の寸前で受け止めていた。しかしその髪は逆立ち、衣服はバタバタと暴風にあおられている。風は水晶を中心に発生していたのだ。


「水晶を元の位置に戻せ」

「は……はい」


 隊長の命令通りファルコは水晶をテーブルの上に戻した。手を離すと風はやんだ。

 風の中心近くにいたニキビ面とエルフの美女は、吹き飛ばされて離れた場所で尻もちをつき、呆然とファルコを見ている。


「あいつが地面に投げつけた水晶を、すかさず受け止めるか……。なかなかいい反射神経だ。さすが風の竜との相性があるだけある」

「風の……竜?」


 ファルコは呆然としている。


「そうだ。その水晶からの風が吹いた。風の竜との相性がいい証だ。お前の竜騎士隊入隊を認める。精進するように!!」

「私が……、竜騎士?」


 訳が分からないと視線をさまよわせたファルコが、焦点を定めたのは日傘を持ったエルフの顔だった。つかの間二人の視線が絡み合う。ファルコはキッと唇を引き結んだ。そして――。


「入隊、拝命いたしまします」

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