ダイス=トリガー
――――2050年夏、人類の100人に一人が〈才能〉という、何故、どういう原理で、などが一切解明されていない、原因不明の超常能力に目覚めた。
火を出したり空を飛んだり、人知を遥かに凌駕する圧倒的な力。
そんな中で兎月 迅こと俺も才能に目覚めた。
ただそれが、中学二年……暗黒の時代と呼ばれる学年だったため、色々とやらかしてしまった。
見せびらかしたり調子に乗りまくってしまった結果、友達と呼べるものはほとんどいなくなり、僻まれたり妬まれたりしていた。
俺の才能は〈ダイス〉という、サイコロを振って出た目の数が多いほど強力な才能を使えるというもの。
効果は10分間で、10分経つとその才能は使えなくなる。もちろんもう一度振れば別の才能が使える。
けど、才能は強力なほど扱いが難しい。
もちろん強力なものでもずっと使い続けていれば使いこなすことは出来るだろうが、なにせ〈ダイス〉じゃ10分間だけしか同じ才能は使えない。たまに二回連続同じのとか来るけど。
ちなみに才能を取得すると、はっきりと「取得した」とは確認できないけど、何となくなにか特別な力が宿った、こんな感じの才能だ、って薄ぼんやり認識はできる。
「じーんおーはよーっ!」
ふと目の前に見知った顔の少年がひらひらと舞い降りてくる。
小柄な体型に童顔、天然かどうか定かではない水色のふわふわ髪。
コイツは幼馴染で同級生の犬嵐刃。
今見たようにコイツも才能持ちである。
刃の能力は〈エアー〉で、半径1メートル以内の空気なら自由に操れる。
空気を凝固した弾丸を飛ばしたり、不可視の斬撃波を飛ばしたり……と汎用性に長けたかなり強力な才能だ。
しかし刃は俺と違い能力を見せびらかしたりしなかったため、普通の中学生活を送っていたただのいい奴だ。
それでも俺と親友で居てくれるのは幼馴染としてなのか同じ才能持ちだからなのか、真意は分からないが俺は結構コイツに支えられてる自覚はあるし感謝もしてる。
「一年生の教室ってどこだっけ?」
「あっちじゃなかったか?」
そんな俺達も今日から晴れて新高校一年生だ。
幸い俺を知る同級生は片手の指で数えても余るくらいしかいなかったし、同じクラスでも無かったのでちゃっかり高校デビューしたいと思う。
アレを機に俺は深く反省したからな。
◇
自分の席に座ると、俺の前の席は刃だった。
確かに名前が五十音順的にこうなるのは分かるが、中学から加算して4年連続はちょっとアレだな。
だが刃は変わらず嬉しそうだ。
先生が来るまでまだ十分くらいあるし、サイコロでも回しとくか、とポケットから取り出したサイコロを転がしたその時だった。
「突然で悪いが、兎月迅と犬嵐刃という生徒はいるか?」
前のドアから黒装束に身を包んだ男が教室にずかずかと入ってきた。
明らかに先生ではないその異質な雰囲気に、既に着席した生徒達は次々にコソコソと話し出す。
「おじさん、誰? 先生じゃないよね」
すぐさま刃が手元に空気を集めて凝縮し、渦を巻く空気の弾丸を作り出して俺を守るように立つと、それを見た生徒達はいっそう困惑する。
「こんな格好で言われても信じられないかもしれないが、別に怪しいものじゃない。少し話を聞きたいだけだ。付いてこい。教師には許可を取ってある」
刃はまだ半信半疑のようだが、俺が「話聞くだけならいいんじゃないか?」と言うと渋々了承してくれた。
まあ先生達にも許可を取ってあるなら、別にだい、じょ、う……ぶ…………。
◇
……ん……。……ん……?
誰かに揺さぶられる感覚で目が覚める。
パッと目を見開くと、俺を覗き込む刃の顔が飛び込んできた。
「あ、起きたね」
「……どこだ、ここ」
刃の手を借りて立ち上がる。
周りを見渡すと、どうやら才能を持った学生ばかりが、広めの体育館に幽閉されているようだ。
「集団で誘拐されたのかな?」
「さあな……。でも確かに、あの男に連れ去られたのは事実だよな」
くそう、騙された。
何で信じちまったんだ……。でも嘆いている暇は無い、とでも言うように、
「ま、要はぶっ壊して逃げればいいんだよね!」
そう言うなり刃は空気の弾丸を最寄りの壁に撃ち放つ。
前にこの技は見せてもらったことはあるが、普通に放てば大岩を砕くこともできる威力の技で、そこまで厚くなさそうなこの壁なら壊すことなんて容易だろ、と2秒前の俺は思っていた。
壁は弾丸を防ぐどころか跳ね返し、刃は驚きつつ空気の障壁を作り出して相殺し、どちらの空気も飛散した。
どうなってんだこの壁。物理攻撃を跳ね返すなんて、特殊な金属か何かか?
試しに触ってみると、なんだか不思議な触り心地だ。ツルツルでザラザラ。
そんな不思議な壁だが、まあ色々な方法を試せば抜け穴は見つかるだろう。弱点の無い存在なんて無いのだから。
何せ俺はこのサイコロを……サイコロ……ん? あれれ? あれれれれれ??
ポケットに手を突っ込んでも、あるはずのブツが無い。
「無い……俺のサイコロが無い……」
「あ、確かにティッシュとかそういう所持品全部奪われてるっぽいねー」
「嘘だろ、俺アレが無いと……」
サイコロが無ければ俺は、文字通り何も出来ない一般人と変わらない。
最後に振ったのは教室で誘拐される直前、出た目は二の〈ナイフ〉を生み出せる才能。
しかし既に効力は切れていた。
「使えねー……」
頭を抱えて絶望していると、俺の思いとは裏腹に薄暗かった館内が急に明るくなり、周りがざわざわし始めた。
「お集まりいただきありがとな」
テレビでよく見るあのスポットライトが壇上に当てられ、そこにちっちゃい小学生くらいの男の子が立っていた。
集まったっていうか強制収用されただけだし、敬語滅茶苦茶だし、熊の着ぐるみみたいな服ダサくねとか色々突っ込みたいけど、下手に目立って処刑とかされたら嫌だからグッと我慢する。
だが俺の隣には我慢出来ず空気の弾丸をやけくそにぶっ放す刃の姿が。っていうかアレ直撃したらあの小学生死ぬだろ。
刃が放った弾丸は放物線を描いて綺麗に少年に直撃する。
「ぐあっ! 何だよいきなり!! 誰だ今の!!」
だがモザイクがかかるレベルの予想図は消え去り、代わりにどう見ても瀕死とは言えないステージでただ転がるその小学生の姿が映っていた。
いや本当は一瞬身体に風穴出来てたの見ちゃったけどさ。
まあ今のであの子供の才能は大体想像は付く。
「今のは許してやるけど、次はねーからな! ちなみにこの治癒力は俺の才能のタマモノだ!!」
と、自ら物理攻撃ほぼ無効の宣言をしてしまった小学生は、宣言通りいきなり眠らされた憂さ晴らしに燃やされたり切り裂かれたりしていった。
「ぐわっ! や、やめろバカ!! くそー!!」
結局彼はダメージ(精神的な意味の)に堪えられず、どこかへ逃亡してしまった。何がしたかったのだろう。
それはさておき、今度は見覚えのある顔の奴がステージに出てきた。
あ、アイツ俺らのこと眠らした奴だ。
思い出したらなんかムカついてきたな。
「はぁ……」
刃含める生徒達が一斉攻撃を仕掛けると、わざわざマイクに大きく溜め息をした後、どこからか取り出した刃物で自らの腕をピッと切った。
途端に傷口から吹き出た血液が莫大な体積に膨張し、その場にいた異能力者達を取り込んで拘束した。
俺は咄嗟に拘束を免れた左腕で、血だったモノを触る。なんかこう、陸上競技用の地面みたいな固まり方だな……。
ていうかてっきり眠らせる才能だと思ってたんだが。
「若いやつは血の気が多いなぁ……」
気怠そうに首をしかめる男だが、目の下の大きい隈を除けば老けて見えないしコイツも20代前半かいっても後半くらいだろ。十分若くないか?
いや、余計な疑問を膨らませてる場合じゃないか。
「んじゃ、取り敢えずお前らには……いわゆる〈バトルロワイヤル〉を行ってもらう」
おうおう、やけに物騒な単語出すなオイ。
というか普通状況説明が先だろ……。予想通り皆若干パニくってるし。
「ふざけんじゃねえ」
いつの間に捕縛を解いたのか、突然一人の男子生徒が、文字通りの血の海の上で堂々と立ち上がり、血男を指差す。まあ海っていっても固まってるけどな。
「誰がこんなクソ茶番に付き合うかよ。そんな下らねえことやらねえし、とっとと俺は帰らせてもらう」
そいつは指した中指を立ててくるりと後ろを向く。
うわっ、こんな大勢がいる中であんな大胆な事よくできるな。
「別に参加はしなくてもいいが、この完全密室にお前だけ残ることになるぞ。まあ普通に生きてりゃ三日くらいで死ぬだろうな」
「……チッ」
男はイラついた表情を見せ、踵を返して戻ってきた。
いや今はあんな男に構ってる場合じゃないな。
バトルロワイヤルとやらには参加しないと死ぬらしいし、途中で負けたらマジで何されるか分からないからこの才能で生き残らなくちゃな。
……この才能で?
……あれ、これ詰んでね??




