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ラノベ作家の責任じゃありません!

今日僕は姉に勧められてとあるweb小説サイトに登録した。

HNはカッツェ。初めての事で慣れてないし、本名を書けるほど度胸もない。そういうと姉ちゃんは笑うんだけどね。まあいいや。


へえ、タダで色んな小説が読めるんだ。ふぅん。

SFや最近流行りのファンタジー

あ、童話や評論まであるのか。すげえ。


まずはどんな小説があるのだろう。読書は嫌いじゃない。どちらかというと好きだ。でもそんな事は外では言っていない。何故なら学校でバレたらいじられるかもしれない。それだけならまだしも、エスカレートすると苛められるようになる可能性すらあるんだ。僕はそんな事を避けながら生きてきた。


実際、僕は小学生の時にからかわれてその延長線上で虐めにもあったんだ。

あの頃は辛かったなぁ。何となく親に相談も出来ずボロボロだった。姉ちゃんが気づいてくれてから僕への虐めは無くなった。

でもそれからは誰も信用も信頼できなくなって、常に一人だったような気がする。

親の転勤もあって中学は違う県に入学、今の高校もその流れで今の家に近い所に通学している。

今のところは何事もなく平和に過ごしている。

姉ちゃんには感謝しているよ。


でも姉ちゃんはどうして僕に薦めてきたんだろう。姉ちゃんにはこんな趣味があるのかな? いや、今までそんな事は聞いた事がない。 確かに僕は小説を読むのが好きだけどさ。


ふうん。最近はこんなのが流行っているのかぁ。ファンタジーで冒険もの。あ、ダンジョンだって? まるでゲームみたいだ。



いろいろ読み進めていくと、お勧めのところに『プロローグを書いて異世界旅行を当てよう』という懸賞付きコンテストが開催されていた。



はぁっ? ええーっ?


異世界って旅行に行ける……ワケないじゃん!



でも面白い! 初めのとっかかりぐらいなら、僕も書けるかもしれない。

なになに……物語の最初を書いて見ませんか? 題材はなんでもOK。あ、締め切りは一ヶ月後かあ。

一ヶ月有ったら、書けるかもしれない。ちょうど夏休みだし。来年は三年だからこんなことしている暇はないだろうなあ。





そんな事を考えていた僕は何て馬鹿だったんだ!


今すごく後悔している。

何故だって?

君も僕と同じ状況になれば分かるさ。


あのコンテストにファンタジーを、特に異世界もの、転生ものを書いていたものは……

ワケの分からない空間に捕らわれているんだ!


真っ白い空間で、真っ黒な影に拘束されて座らされている。

僕を含めて50人ほど。


少し離れた所にある壇上らしきものの上から黒い影は言った。


──お前ら地球の物書きのために、我らのセカイに転生、召喚者が増えている。セカイは破綻しかけ、バランスは狂い、膨張が止まらなくなった。すべてはお前らのせいだ!何とかしろ。──



いや、そんな事を言われても?

文字どおり、文字をパソコンで打ち込んだだけだよ? 僕らがこのセカイをどうこうしようとしたわけじゃないんだけど。



うん、みんな戸惑うよね?



えっ? あれ? 君ら何興奮してんの?

嘘だろ? 元の世界に戻りたいよ、僕は!



うん。忘れてたけど異世界召喚や異世界転生、ゲームの世界に転生、小説の中に転生……そんなのを好きで書いてる人達だったんだ。僕を除いてね。



そっかあ、みんな頑張るんだ。でも何を頑張ればいいのだろう?

そして僕にどうしろと? 初めて書いた物語も最初の最初だけ。プロローグだけだと思ってたから書いて見ただけ、すべて試しでしか無かったんだけど。



集められた50人はよく分からない能力を遺憾なく発揮して、その空間に思い思いの机や椅子、パソコン等を作り上げた。

広い広い空間はそれぞれ切り取られ、自分だけの空間に作り替えられていく。

中にはキッチンやベッドルーム、風呂さえ完備した家を作ったものもいる。


家も食べ物も服も、全部この空間で作り上げるその創造力に感動したよ。


だが僕にはそんなものはない。

皆のソレをみて真似をしているだけ。何とか壁と炬燵とパソコンは造り上げたけど、ソレ以上はもう無理。はあ。どうしてこんなことになったんだ。




その白い空間で暮らしてみて分かったこともある。なぜか食べる事はできるんだけど、排泄をすることがない。身体がベタづくことも無ければ、フケもでない。汗はかいているんだけど、臭くならない。

どういうことだ?

ここは創造のセカイだからか?



皆は前からこのサイトで書いていて、その繋がりで知り合いだったらしいんだけど、僕は登録したばかりで知り合いは一人もいなかった。


でも数日たって(太陽の光も夜の闇もないからだいたいで)少し落ち着いた頃、僕にも知り合いができた。


一人はさみしく無かったけど不安があったから、話せる人ができてほっとしたよ。


「カッツェ、あっちのパン屋がお裾分けだってさ」


そう言ってパンを貰ってきてくれたのは、隣に部屋を作ったゴロンさんだった。

そうそう、ここでは皆HNで呼びあっているんだ。


僕はカッツェ、隣の男はゴロンさん、パン屋のCoCoちゃん、リーダーのシロップさん……

鏡で見た限りは僕の容姿は元の世界のまま。

ゴロンさんやCoCoちゃんは違うらしい。どうやらこのサイトでの皆のイメージからそう見えるらしいんだけど、なんで僕だけそのまんまなんだろう。



それから何日たったのか分からないけど、気がついた事がある。それはいつの間にか少しずつ人数が減ってきているのだ。

僕が気づいたのは偶然消えるところを目撃したから。

皆みたいに書くことに集中出来るわけでもなく、かといって仲の良い人がたくさんいるわけでもないから暇な時間が有りすぎる僕はこの白い空間を散歩していることが多い。

散歩しているとあちらこちらでいろいろな匂いがして面白いんだ。

CoCoちゃんみたいにパンを焼く香ばしい匂い。

栢さんみたいに色んな花を咲かせてほっとする優しい匂い。

柚子さんはいつも何かを作ってて美味しそうだ。

釣り師さんは焼き魚……

カンさんのカレーの匂いは腹が空いて感じる。



散歩で名前と特徴を知って少しずつ知り合いができた頃、珈琲館の近くで足を止めた。


違和感が僕を襲った。何かが分からなかった。

気づいたら目の前の珈琲館がぐずぐすに溶けて崩れていった。

マスターは大丈夫だろうか。


「マスター? 大丈夫ですか? カッツェです」


声をかけたが応答は無かった。マスターはどうしたんだろう。


そう言えばいつものコーヒーのいい香りがしなかったなぁ。崩れて更地になったその場所でそんなことを考えてた。


ぼけっと突っ立っていると声をかけてくれる人がいた。

僕が勝手にリーダーって読んでいるシロップさんだ。


「どうしたカッツェ。大丈夫か?」


背の高いシロップさんは身を屈めて僕に問いかけてきた。

僕は自分がみたことの理由が分からなくて、シロップさんに告げた。


「珈琲館が無くなったんです」


シロップさんは首をかしげながら言った。


「珈琲館? そんなものここにあったかなあ?」


えっ? シロップさんの言葉に僕の方がびっくりした。確かにここに珈琲館はあった。

ここには良い香りが漂っていたよ。マスターは話を書くのに疲れたらミルをごりごり回してコーヒーを淹れていた。たまにお相伴にあずかって、美味しいコーヒーを味わったんだ。


それから僕は周りの人の位置と特徴を、白い紙に書いていった。


どこがはしっこか分からなかったから、僕がいるこの場所を中心にして。

僕の右隣りはゴロンさん。戦闘ものを書くのが得意。でも人情ものも書いている。

ここにきて初めて話した恰幅のいい大人の男性。


ゴロンさんとこから三つか四つ向こうの可愛い建物はCoCoちゃん。女性のパン屋さんだ。腕が落ちたら困るって言って一日に二度はパンを焼く。ゴロンさんがよく貰ってきてお裾分けしてくれる。


その間にも建物はあるけど、中の住人とあれから会った事はない。ずっと一人で書き続けているのだろうか?


僕の左側に栢さんちがある。彼女は庭を作ってて花を咲かせている。土もある。この空間に土が有るのはここだけだ。彼女は転生令嬢ものが得意なんだって。


知り合った人の位置を書き込んでいると、後ろから声がかけられた。



ひぃっ!

黒い影の人だ!


「お前は何をしているんだ」


怖くて足が震えてきた。




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