表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

薬草狩りのバーサーカーはポーションを作りたい

 いつものように目の前の邪魔するモンスター達をひたすらに愛用の採取用ナイフで切り捨てて、フィールド上の薬草という薬草を全て摘み尽くした俺はいつもよりも軽い足取りでアトリエへと戻る。


  「ただいま!」

 誰もいないと分かりつつも声を上げ、勢いよくドアを開けた先にあるのは現在公開されている中で最上級の錬成釜である。

 これで錬成すれば成功確率も1.5倍に跳ね上がる!という謳い文句の、Aランク鍛冶師の中でも一握りの者にしか製作できないとされる、超一流の品を手に入れたと商人である幼馴染のソラから連絡が入り、早速自宅に送ってもらったのだ。

 

 まさか1週間ほど前遭遇した、フィールド上の薬草を焼き尽くそうとする我が宿敵、ファイヤードラゴンを狩った際になんとなく尻尾を採取したはいいが、アイテムボックスを圧迫するからという理由でおすそ分けした結果、手が届かないと思って諦めていた品を迎えることができるとは……!


 その時の気まぐれを起こした俺、グッジョブ!

 その上、ソラは後で仕入れた大量の薬草も持ってきてくれるという。

 

 やはり持つべきものは太っ腹な幼馴染である。

 


 見るからに不純物の一切を含んでいないスベスベのボディを指で撫で、興奮した俺はソラと薬草の到着を待つことなく、早速今日採取してきた薬草を細かく千切り始めることにした。

 

 この半年で何度となく繰り返し作ったHPポーションの作り方はしっかりと頭に入っている。初級ポーションだけあって元々そう難しい作業は要求されないが、油断は禁物である。

 

『初級』なんて頭についていながら、ポーション作りは器用さが鍵を握るのだ。

 器用さSを持っている者なら薬品生成スキルレベルが1であろうが、ほぼ100パーセントの確率でポーションが生成され、薬草のランクによってポーションのランクが決まる。

 だが器用さE−の俺が初心者用錬成釜を使ってポーションを作ろうとした結果、この3カ月で成功したことはたったの1回もなかった。

 その代わり薬品Xの生成確率は堂々の100パーセントを記録していたけどな。

 


 薬草は最上級のSランクのものを使って、作り方には忠実に従っているのに。

 失敗を繰り返した結果、薬品生成スキルレベルはすでに50を越えているのに。


 理不尽すぎるだろ!


 薬品Xなんていらんわ!!

 ポーションを作らせろ、ポーションを!!

 こちとらそのためにゲームやっとるんじゃい!!

 

 ――と取り乱したのは一度や二度ではない。

 だが最上級の錬成釜を手にした俺にはもはやその悩みは過去のことである。

 

 油断さえしなければEランクポーション生成も夢じゃない!

 そう意気込んで細かく千切った薬草をコトコトと煮詰めること10分――出来たのは薬品Yであった。

 

「確かに薬品Xではないけども!!」

「リク、今度はどした?」

 

 運営から馬鹿にされているのではなかろうかという悔しさから思い切り床をドンドンドンと叩きつける俺の頭に、いつものようにノックなしで入って来たソラの声が落ちる。

 

「ああなんだ、また失敗したのか、って何これ? 薬品Y? 初めて見た……」

 

 いつものことかと適当に受け流すソラは俺の手の中にある薬品Yを抜き取って、マジマジと眺める。

 そしてうーんと少し考え事をした後、どこから取り出したのかわからないソロバンをパチパチと弾き始め、導き出した数値にニンマリと口角を上げる。

 

「これは絶対高く売れるぞ! リク、これ持って行っていいか? いいよな? いい以外の言葉は受け付けないが、代わりにお礼ならいつも通り薬草で払うぞ」

「ああ、いいぞ。持ってけ、持ってけ。どうせそんな失敗作売っても二束三文にしかならんだろうがな」

「失敗作ってお前な、『薬草狩りのバーサーカー』が作った薬品Xって言ったら今、冒険者が喉から手が出るほど欲しい商品ナンバー1だぞ? それの上位品が出たとなれば……今度も俺の独占市場だから儲かること間違いなし!」

 

 これを元手にSPポーション買い集めてザックザクのぼろ儲けだぜ!と親指と人差し指をくっつけてニヤけるソラはいつにも増して幸せそうである。

 

「あれが金になってるとはなぁ」

 まさか処分に困っていた薬品Xを毎回持って行っては大量の薬草とビン、そしてたまに新しいレシピを持って来てくれるのにはそんな裏があったとは思いもしなかった。

 

 だが薬草の購入制限に日々苦しめられている俺と、ガッポリ儲けられるソラの関係はwin-winである。

 むしろ毎回処分品の引き取りをしてもらって悪いなと思っていたからその話を聞いてホッとしたくらいだ。

 今後とも是非よろしく頼みたい。


 もちろん収入が増えた分の薬草はマシマシで。

 


 それよりも気になるのは聞きなれない名前の方である。

 

「――というか薬草狩りのバーサーカーって何?」

「ん? お前のあだ名、というより通り名だな。今やVRMMO『エデン』の名物プレイヤーの1人になってるぞ? もしかして知らなかったのか?」

「はぁあああ? 知らねぇよ! なんで俺、そんな恥ずかしい名前で呼ばれてんの?!」

「お前が鬼の形相でフィールド上のありとあらゆるモンスターを狩り尽くした結果、生産職でありながらエデン初の『バーサーカー』の称号を手にしたプレイヤーだから、らしいぞ? 俺もそれに便乗して商売してるだけだからどういう経緯でその名前が付いたのか詳しくは知らん」

「バーサーカーの称号? なんだそれ?」

 

 そんなものあったか?と首を傾げると、ソラは「知らなかったのか?」とひどく驚いた顔をしてから自分のステータスを開いて教えてくれた。

 

「ここの称号のとこ。俺は『大商人』になってるだろ? そこがお前のステータスだと『バーサーカー』になってるから見てみろ」

 

 大商人って、こいつまだ初めて3カ月も経ってないのにもうそんなに出世したんだな……。

 それがどれだけ凄いことなのかはわからないが、少なくともソラはそこで満足するような男ではないことは確かである。気づいたら『億万長者』とかになっていそうだ。

 

 そんなソラのことはひとまずは置いといて、自分のステータスを表示してみると確かに称号の欄には『バーサーカー』と表示されていた。

 

「いつの間にこんなの出たんだ?」

「取得条件は確か1週間連続で1000体以上のモンスターを狩ることだから、初めて1ヶ月経った頃くらいじゃないか?」

「……俺ってそんなに狩りまくってるのか?」

「ああ」

「俺、生産職なのに?」

「生産職なのに」

 

「バーサーカーって前衛職のプレイヤーとかが取得することを想定して作られた称号だろうになあ」と呆れたように笑うソラに俺は主張したいことがある。

 

「俺が欲しいのは『ポーションマスター』であって、『バーサーカー』なんて欲しくもなかったし、それどころかそんな称号あることすら知らなかったんだが?」

「シークレット称号の1つだったらしいからな」

「それに称号獲得基準が1000なら俺、そのくらいのポーションは作ろうとしてるんだが? マスターとまではいかなくとも、駆け出し薬剤師の称号くらいはくれてもいいんじゃないか?!」

「その全部が失敗してるからポーション作成個数として換算されてないんじゃないか?」

「ぐっ……」

 

 そう言われると、このゲームを始めてから3カ月の間で一度たりともポーション生成を成功させたことのない俺はぐうの音も出ない。

 

「俺としては市場に溢れていて、価値が暴落してる低ランクHPポーションなんかよりも、未だに値段の伸びしろが見え続けている薬品Xとか、その上を行ってくれる薬品Yを作ってくれた方がありがたいけどな!」

「俺が作りたいのはポーションなんだ!」

「うん、知ってる。それにお前が昔から折り鶴すらまともに折れない不器用な奴だってこともよく知ってる。お前の代わりに提出用の鶴10体折ってやったのは俺だからな」

「その節はたいっへんお世話になりました。とりあえず俺、もっかい薬草採ってくる。成功確率は1.5倍に跳ね上がったんだ。数打ちゃそのうち当たるだろ!」

「元の成功確率が0でさえなければ、な。それまでに出来た薬品系は全部俺んとこでもらってくからな!」

「りょうかい」

「ああそれと、行くならミラリンディアの森にしとけ。初心者用のフィールドだけあって薬草の自生数が多い上に、今日は初心者用のスタートダッシュイベントが他のエリアで開催してる関係で人、少ないだろうから」




「――ってなんでゲリライベント発生してんだよ!」

 ソラの助言通り、ミラリンディアの森に足を運んだ俺が目にしたのは大量の薬草……ではなく、ゲリライベント『スタンピート』だった。

 せめて植物系のモンスターならポーションの材料になる物がドロップすることもあるが、よりによって辺りを見回してもいるのは俺の嫌いなドラゴンである。

 こんなの経験値と強化素材にしかなりはしない。



 仕方ない。採取量は落ちるが、セレンディーナ峠に場所を変えるか……と身体を反転させるとそこには暗い表情を浮かべたNPCキャラクターのエルフが佇んでいた。

 彼女が今回のイベントの説明キャラなのだろう。

 俺には関係ないとその隣を過ぎ去ろうとすると小さな手は思いの外、力強く俺の腕を掴んだ。



「リク様、どうかこの森をお救いください」

「は?」

 その言葉に俺は思わず耳を疑った。

 なぜならこのゲームにおいて、特定のプレイヤーのみにイベントが発現することなんてあり得ないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ