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運命の人  作者: 喜多蔵子
20/25

20 嫌味を言ってみました。

 1月に入り、再び王宮舞踏会。


 いつもの通り王族への挨拶。コルベール領近辺の貴族への挨拶。アレクシスとのダンス。そして、友人達の元へ。

「久しぶり。新しい情報はいかが?」

 エヴァが明るい声で言う。

「楽しそうね。何かしら?」

 うふふふふと微笑みながらエヴァはパメラとクロエを見て言う。

「フローラ様のことです。」

 勿体ぶって言う。

「実は内々なんですけど・・・」

 声が小さくなる。

「フローラ様の結婚が決まりました。」

 笑顔が黒色。

「グラニエ伯爵令息でしょう。ちょっと太った27歳。外見のせいで誰にも相手にされない。性格は大人しいを通り越して根暗。」

 パメラが答えるとエヴァは失望を全面にだした。

「古いわ。その情報。」

「違うの?」


 エヴァは咳払いをする。

「ほら、一昨年の社交シーズンに、フローラ様、何かやらかした見たいで急に舞踏会に来なくなったでしょう。」

「確かに。噂になったわね。詳しくは知らないけど、クロエとアレクシス様の婚約をフローラ様に知られて騒がれては不味いと思った国が手を回したって思っていたけど。

 あれ?そう言われてみれば、先月の王宮舞踏会が久しぶりの参加?」


 エヴァはパメラを一笑に付した。

 そうしてクロエを見てウインクをする。恐ろしい。何処から媚薬事件のことを知ったのだろう。秘密のはずなのに。

 エヴァの情報網おそるべし。

 友達で良かった。


「その時に侯爵がグラニエ伯爵令息との婚約を決めたの。今年の3月に結婚予定だったのよ。でも先月の騒ぎでグラニエ伯爵が怒って婚約が白紙に。」

 赤ワイン事件か。当然だろう。あれは酷すぎる。

 何故、上手く、立ち回らなかったのか。

 腹の探り合いも、誰かを蹴落とすのも、王都周辺の貴族なら常識のはずなのだが。


「慌てた侯爵が新しい婚約者を探したらしいわよ。けど、先月の件が広まっているでしょう。相手が見つからないの。侯爵は相当持参金を積んで探したらしいわよ。

 そうして、やっと、フローラ嬢に結婚の申し込みがあったのよ。」

 エヴァの笑顔は最高潮。


「相手はクレメール子爵よ。来月には結婚ですって。」


「でもクレメール子爵は既婚者じゃなかったかしら?」

 気付いたら周辺には、友人達十数人が囲んでいた。そうしてそれぞれが口を挟む。


「昨年クレメール子爵は離婚したのよ。」

「理由は妻が病気だって。でも実際は飽きたからでしょう。」

「若い女が好きで有名だもの。」

「御歳56歳なのにね。」

「妻がいても娼館通いが趣味だしね。」

「しかも妻に暴力を振るうらしいわ。」

「前前クレメール子爵夫人の顔に青アザができているのを、母が見たことあるって言っていた。」

「問題の物件(若い女)を嫁にして、飽きたら理由をつけて離婚をする、を繰り返しているらしいわよ。」

「「「「最低」」」」

「元クレメール子爵夫人は、今、修道院よ。」


 全員静かになる。

 一歩結婚相手を間違えると私達も同じ運命。既に結婚している人も、今後結婚する人も、明日は我が身に起きるかも知れないと思うと気持ちが沈んでしまう。






 そこで、聞き覚えのある声がする。

「お久しぶりです。今日は皆さま方、静かですのね。」

 エリザベートの登場である。


 再び友人達は『夫が』『父が』『母が』『弟が』『妹が』『兄が』『姉が』と口々に言って散っていく。


 残るはパメラとエヴァとクロエ。エリザベートの横には先日のフローラを除いた取り巻き三人がいる。

「「「ごきげんよう。」」」

 とりあえず挨拶。


「ごきげんよう。あら、コルベール夫人、お子様のご体調はよろしいのですか?」

  《病気はどうしたのかしら。それとも仮病。》


「はい、おかげさまで元気です。」

  《今日だけ治ったのよ。明日は知らないけど。》


エリザベートの取り巻きの一人が会話に加わる。

「でも、子供が病気で不参加なんて・・・・有り得ませんわ。」

  《非常識だわ。》


 他の取り巻き二人も扇子で口許を隠して冷笑している。


 パメラ参戦。

「あら、普通ですわよ。私達の親世代なら子供が病気なら不参加が常識。子供が心配で心配で社交どころじゃありませんもの。」

  《子供の心配より、自分の男漁りが大事な人間にはわかるまい。》


 エヴァがのんびりと参戦。

「皆様のお子様はご病気になりませんの?」

  《子供、産んでないじゃん。もうすぐ離縁?》


 取り巻きの一人が新たに参戦。

「あら、子供を理由に社交を断るなんて、そちらでは常識でも、こちらでは非常識ですわ。」

  《田舎貴族と私達洗練された貴族を一緒にしないで下さる。》


「そうなんですか?知りませんでした。

 じゃあ、一昨年の某侯爵家の3歳のご令息が、風邪を引いて調子が悪いのに看病は医者と侍女に任せて、自分は明け方まで仮面舞踏会に参加して遊びまくった侯爵夫人が、離縁させられたっていう噂話は、ただの嘘話だったんですね。」

 エヴァがのんびり言う。

 パメラが真面目な顔で答える。

「私もその噂話を聞いたわ。もう一昨年も前の話なのね。

 でも、こちらでは医者に任せて社交に行くのが常識なら、離縁させられるはずないのものね。嘘の噂に踊らされるなんて、私もまだまだね。」

 私ものってみよう。

「その侯爵夫人が、今は北のすっごく寒くて雪深い所にある修道院にいるっていう噂も嘘だったんだわ。今後は嘘の噂話には気を付けなければいけないわねぇ。」


 取り巻き全員の顔色が悪い。取り巻き達が小さな声で話し出す。

『嘘、あの北の修道院。』『まさか、本当だったの?』『二度と出ることが出来ないって噂の?』

 その離縁された元侯爵夫人はこの取り巻き集団のかっての仲間。

 嫌味としては完璧だ。自画自賛。





 パメラはそこでふと玉座を見ながらとどめのつもりで一言。

「そう言えば王太子妃様は本日、舞踏会に不参加と伺ったけどどうしてかしら?」

 取り巻き達が「「うっ」」と唸って黙る。

 エヴァが先程までののんびりとした態度を改め、神妙な面持ちで答える。

「確か姫君がご病気とか・・・。」

 取り巻き達の顔色は更に悪くなる。


 再びエリザベートに戻る。

「田舎の貴族の跡取りと王族の血を引く子供を一緒にするなんて・・・、流石、田舎育ちの方は常識がないわね。」

 取り巻き三人が息を吹き替えしたように元気になって同意する。


再びエヴァが一言。

「そうですね。田舎では子供を大事にするんです。病気になったら家族全員で看病するんですよ。因みにこちらでは、子供が病気になったら、どのようになさるんですか?」

  《子供を産んでないから知らないでしょう。》


「病気なら医者に任せるのが当然でしょう。」

  《そんなことも知らないなんて、流石、田舎者。》


「まぁ、そうですの。田舎には医者が少なくて。医者が領民を看にいっていると、後回しになりますの。その時は家族全員で看病するんです。」

  《冷めた夫婦生活を送っている可哀想な人達には出来ないでしょう?》


「貴族の治療を後回しにして領民を診るなんて、主が非常識なら医者も非常識ね。私の領地ならその医者は縛り首ですわね。」

 エリザベートが侮蔑の表情で言う。


 あぁ、胃に穴があく。勘弁してほしい。

 だが、私も参戦しよう。

「縛り首は5年前から国の規則で禁止ですわよ、エリザベート様。国に隠れて縛り首なんかしちゃったら貴族位剥奪されちゃいますわよ。」

 よし、エリザベートを黙らせることに成功。

 取り巻きが少し顔色を悪くした。よし、取り巻きへの一矢も報いた。


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