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運命の人  作者: 喜多蔵子
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2  婚約者に女の影をみつけました。

 クロエはコルベール伯爵家の一人娘として生まれた。

 コルベール伯爵領は、王都から近くもなく、かといって辺境ほど離れてもいない。

 ちょうど、中間に位置する場所にある。

 その6割が農地で、1割が酪農地、3割が森で構成されている。

 豊かすぎることもないが、かといって貧乏でもない。

 伯爵家は歴史はそこそこあるが、特に大きな功績もなければ、歴史に名を残すような偉大なご先祖もいない。

 まさに絵に描いたような中間貴族。


 クロエ自身も、また、可もなく不可もない容姿。

 実際、美人の条件は髪の色はナチュラルブロンドかプラチナブロンド、瞳の色は王族に多い空色か高位貴族に多い青色なのだが、クロエの髪の色は亜麻色、瞳は青碧色。

 どちらとも微妙に違う。

 そう、クロエの容姿は100人いれば100人全員が絵に描いたような平凡顔と答えるのである。


 家族構成は父とクロエの二人のみ。親戚は父の弟つまり叔父、叔父の妻、叔父の子供つまり従兄、合計3人のみ。

 母はクロエが7歳の時に病気で他界した。

 父親は後妻を娶ることもなかったため、兄弟はいない。

 その為、子供の頃から叔父の息子、つまり従兄のウィリアムが伯爵位を継ぎ、自身は妻として伯爵夫人になると思っていた。


 国の規則で女性は爵位を継ぐことができない。

 しかし、父である伯爵は一人娘のクロエを溺愛しており、子供の頃から『他家に嫁にいくなら死んでやる』と言う具合で、手放す気は毛頭ない。

 更にウィリアム自身も『将来はクロエと結婚して、コルベール伯爵領は僕が継ぐ』と言っていたので、クロエは他家に嫁に行くなど考えていなかった。

 ウィリアムはクロエより5歳年上で、年齢的にも調度良く、今まで問題なく二人の婚約期間は過ぎていった。

 

 



++++++++++





 ところが、社交シーズンが始まってからウィリアムがいつも『とある女性』と一緒にいる姿を、舞踏会、晩餐会などで目撃されるようになる。


 通常、舞踏会では同じ相手とは1回しか踊ってはいけないという暗黙の決まりがある。もちろん、婚約者や恋人は例外である。

 しかし、ウィリアムはその『とある女性』と舞踏会で3回以上踊っているのである。

 これでは、ウィリアムが『とある女性』は恋人ですと宣言してるようなもの。

 


 クロエ自身は目撃したことはない。

 だが、仲が良い友人達が何人も目撃している。

 最近では友人達の挨拶の言葉が『婚約破棄されたの?』で始まる。勘弁して欲しい。


 本当のことなのか、冗談なのか、確認するためクロエは父親であるコルベール伯爵に『とある女性』について聞くことにした。


 寝耳に水である。話を聞いて驚いた父親は自身の弟であり、現在近衛隊に所属しているウィリアムの父親に慌てて連絡をとって『とある女性』の確認をすることにした。





++++++++++





 翌日には叔父は王都にあるコルベール伯爵家のタウンハウスに来た。


 社交シーズンの時期は警備が忙しくて大変なのか、少しやつれた顔をしている。

 クロエと父、叔父は応接室のソファーに座る。執事がお茶を準備し、部屋の隅に控える。

 叔父は頭を下げながら、申し訳なさそうに言う。


「恋人がいるのは間違いない。昨日確認したら、今度紹介すると言われた。」


「そうか。まぁ仕方ない。最近は領地運営の勉強も少しおろそかになっていたし、この前のオフシーズンには領地に来なかった。」

 父が静かに答える。


「兄様、本当に申し訳ない。もっと早く気付けばよかった。今回の社交シーズンもすでに始まって2ヶ月もたっている。クロエも迷惑をかけてすまない。」


「気にしないで叔父様。

 たしかにウィリアム兄様には腹が立ちます。もっと早く言っていただければ、私も社交シーズン始まりの舞踏会からもっと気合の入ったドレスを準備できましたもの。

 今度会ったときにウィリアム兄様に文句を言います。」

 クロエが笑って言ったことで叔父もつられて笑う。


 父も笑って言ってくれた。

「とりあえず、顔ではなくお腹を殴れ。顔は傷跡が残ったら噂になる。それはまずい。」

 傷跡が残るとは、どういうことだ。私をどういう風にみているのだ。お父様。

 クロエは父を軽く睨む。父はまったく気にしていない。


「1週間後には王宮舞踏会がある。婚約者を探そう。私も友人達に声をかけてみるよ。」


 そこで叔父がため息をつきながら言う。

「とにかく正式に王族に許可をもらった婚約でなくてよかった。そうなると後々手続きが面倒だったからな。」

 父もうなずきながら答えた。

「そうだな。親戚ということもあって正式な婚約の許可は結婚の前でいいだろうと先延ばしにしていたのが功を奏した。これで婚約解消という事態はまぬがれたしな。」


 驚いてクロエは父親と叔父を見る。

「あれ?クロエには言ってなかったかな?婚約の許可は結婚の3ヶ月前でいいかなぁと思って何もしていないんだよ。」

 父はあっけらかんとしている。


 叔父は何度もクロエに謝罪をしながら、屋敷を出て行った。



 クロエは婚約者としてウィリアムを認識していたが、どうも違ったらしい。

 まぁそんなことはどうでも良い。

 とにかく1週間しかない。

 次の王宮舞踏会では、気合の入ったドレスを着ていかなくてはいけない。

 売れ残りの男性の情報も友人達から手に入れなくてはいけない。

 ついでにウィリアムを見つけたら、一言、言わなくては気がすまない。



 そう、考えてみよう。


 結婚しよう(仮予約)・・・13年後・・・・他に好きな人できたから、さようなら。


 冗談ではない。


 すでにクロエは18歳。

 この国の暗黙の規則『20歳までには結婚しよう』まであと2年しかない。

 『20歳を過ぎたら行き遅れ』

 『20歳を過ぎたら資産家(貴族)の小父様の元(後妻)へ』

 『20歳を過ぎたら資産家(平民)の小父様の元(初婚の可能性もある)へ』

 『20歳を過ぎたら修道院へ』

 『20歳を過ぎたら高位貴族のガヴァネスへ』

 『20歳を過ぎたらひきこもりへ』

 数えだしたらきりがない屈辱の格言。


 『20歳を過ぎたら王宮の侍女へ』

 中には出世するための格言もあるが、王宮の侍女で出世する人は幼いころから出仕して、その地位を揺るがないものにしている。

 20歳以上だと、侍女とういより未来の愛妾ねらい。


 クロエは、早速、洋服ダンスの中にある全てのドレスを部屋の中で広げた。

 18歳で出会って婚約。19歳で結婚。ぎりぎり間に合う。

 戦場に着て行くドレスと言う名の戦闘服の準備に余念はない。


 これは戦いだ。

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