19 怪しい招待状が届きました。
短いです。ごめんなさい。
楽しい楽しい王宮舞踏会から数日。
特にクロエが参加する予定の舞踏会も晩餐会もなかったのでゆっくり過ごす。
父もアレクシスも二人だけが参加する男だけのサロン以外は、10日後にある知人の伯爵主催の舞踏会まで大きな集まりは何もないので、ゆっくりタウンハウスで過ごしている。
幸せだなぁと思っていると執事が一通の招待状を持ってきた。
「お嬢様宛です。差出人はユベール子爵家からです。明後日の晩餐会への招待状です。」
知り合いにユベール子爵家のゆかりの者はいなかったと思うのだが。頭をひねっているとアレクシスが寄ってきた。
「多分エリザベートの差し金だよ。」
なんでも今王都で一番有名なドレスのデザイナーはユベール子爵の令息で次男のマルコ。エリザベートの取り巻きのひとりらしい。
それなら行きたくないので断ってもいいかしら。
「リオネルの体調が優れないからって断っていい?」
「子供の体調が優れなくても、関係無く社交には参加するね。」
アレクシスが答える。
でも横から父が一言。
「断っていいよ。王都周辺の貴族は子供が病気でも、ほっぽらかして社交に参加するするのが常識だし、そもそも乳母に任せっきりで、子供が病気かも知らないのが普通。
だけど、地方出身の貴族は子供が病気なら、普通不参加だね。
だって、いくら医者がいても女中がいても我が子が病気なら心配でそばを離れないのが家族だと思うよ。だから地方の慣習で断っていいよ。」
アレクシスは驚いて口を挟む。
「でも、そうしたら色々言われますよ。侮られたって。」
「そもそも、ユベール子爵家とコルベール伯爵家に繋がりはない。知り合いでもないのに勝手に招待状を送ってきて、来ないから文句を言う。おかしくない?」
「それがまかり通るのが貴族社会です。」
「では言い換えよう。子爵家が伯爵家に何を言うの?」
「確かに身分は伯爵家が上ですが・・・。」
「もうひとつ言うと、その侮られたとか言う文句はどこで広がる?王都周辺だけでしょう?僕達地方貴族の間では何の問題にもならないよ。むしろ子供が病気でも社交に参加する人間の方が色々言われるよ。」
アレクシスは少し考える。
「それは・・・・・そうですね。」
「では、リオネルが体調不良で不参加と返事を書きますね。」
クロエは笑顔でアレクシスを見る。適応力のある夫に感謝。
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更に別の日、執事が一通の招待状を持ってきた。
「お嬢様宛に舞踏会の招待状が届きました。ダボヴィル伯爵家からです。」
誰だ?
知らない。
クロエはアレクシスを見る。
「ダボヴィル伯爵の息子の妻がエリザベートの友人だよ。」
アレクシスは、少し考える仕草をする。
「その招待状貰っていい?僕が返事を書くよ。」
「良いけど、大丈夫?」
「ダボヴィル伯爵家はアナトール兄様が親しくしている家なんだ。だから僕も子供の頃から良く知っているから、お願いに行くよ。
エリザベートが妙な企みで招待状を送ることがないようにね。
それは舞踏会の招待状だろう。一人で参加してくるよ。多分アナトール兄様も参加しているだろうしね。」
アレクシスが穏やかに言う。
アナトール様の知り合い・・・・。
「お願いしても大丈夫なの?」
ちょっと不安。
「うん。それに王都周辺の中間貴族を取りまとめている重要人物だよ。ここでちょっとだけ、未来のコルベール伯爵としての繋がりをつくろう。」
アレクシスの満面の笑みに安心し、クロエは全面的に、この招待状を任せることにした。
こうして知人からの招待には普通に応じ、怪しい招待状には『誰かが体調不良』ということで、乗り切ることにした。




