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運命の人  作者: 喜多蔵子
17/25

17 騒いでみました。

 出来るだけ騒ぎになるように大きな声で叫ぶ。

 もちろん、周りには先程逃げていった友人達が、いつの間にか戻ってきていて、一緒に騒ぎ出す。

「「デュラン侯爵令嬢が赤ワインを溢したそうよ。」」

「「それがエリザベート様の顔面にかかったんですって。」」

「「やだ、ドレスも真っ赤。」」

「「エリザベート様の顔面に血のようなワインが。」」

「「エリザベート様の綺麗なブロンド髪が真っ赤。」」

「「デュラン侯爵令嬢の持っているグラスが空だわ。」」

「「デュラン侯爵令嬢のグラスの赤ワインが誤ってエリザベート様のお顔に。」」



 茫然自失となっていたフローラの時間が動き出した。

「違う。私じゃない。」


 エリザベートの時間は止まったまま。


 騒ぎに気付いた紳士や貴婦人の方々も集まりだす。


 フローラは叫び続ける。

「違うの。私、間違ったの。本当はそこにいる女にかけるつもりだったの。なのに、この女が避けるかから、間違ってエリザベート様にかかってしまったの。」

 そういってフローラは、クロエを憎しみを込めて指差す。


 普通は『手が滑って溢してしまいました。おほほほ。ごめんなさい。』と言って、ほくそ笑みながら、形だけの謝罪をする。


 気に入らない女性のドレスに、赤ワインを溢して汚すのは、いじめの定番。


 ちなみに白ワインを使うのは二流。


 話を戻すが、赤ワインを使うのはいじめの定番なのだから、普通ならフローラ嬢は『手が滑ってごめんなさい』のはずなのだが、何を思ったか『かける相手を間違えた』。

 動揺し過ぎて、頓珍漢な言い訳を始める。年配の淑女の皆様は眉をひそめ、紳士の皆様は微かに笑っている。


 そこでエリザベートが覚醒した。

 周囲の状況を見て、自身のドレスを見る。ぬれた両手、ドレスの胸元、そして、ウエストから下のフレア状に広がっているスカート部分をゆっくり見る。

 微かに震え出すエリザベート。顔を真っ赤にしてフローラではなく、クロエを睨み付ける。そして、一言。

「貴女が避けたせいでドレスが汚れたじゃない。どうしてくれるのよ。」

 金切り声で叫んだ。

 ダンスフロア中に聞こえるのではないかと思うほどの大きな声で。


 

 貴婦人、紳士、友人達、周辺に集まった人々が一瞬にして静まり返る。


 




 異様に静まり返った、その場に、穏やかで優しい声が響く。

「何の騒ぎですか。」

 王太子妃エレオノーラがアレクシスと第二王子アナトールと共に姿を現した。



「何がありましたの。」

 エレオノーラが空のワイングラスを持ったフローラに優しげに問う。

「ワインをその女にかけようとしたら避けたんです。」

 フローラが答える。


 誰に対しても等しく優しいと評判のエレオノーラ。フローラに対しても慈愛の表情で接していた。しかし、そのエレオノーラの表情が一瞬にして無表情になる。


 アナトールはもはやとりつく気もないのか肩を震わせて笑っている。


 アレクシスは直ぐにクロエの横に並び、手を繋ぎながら、心配顔で『大丈夫?』と小さな声で問う。クロエは笑顔で『大丈夫』という表情をしてアレクシスを見る。

 心が暖かくなる。

 お互いの目と目が見つめ合う。少し頬が赤くなる。

 世界に二人だけ。




 その二人の空気を、邪魔するかのような、耳障りな声がする。


「アレクシス様、この女が私を嵌めたのです。黙ってワインをかぶって恥をかけばいいのに、避けたせいでエリザベート様に間違ってワインがかかってしまって・・・・。」

 フローラは最初は怒鳴っていたが、途中からか弱い女性風の表情でアレクシスに近付き、腕に手を絡ませようとして、手を伸ばす。



 アレクシスはそれを左手ではたく。

「汚い手で触るな。」

 アレクシスはごみでも見るような冷たい目で見る。


 当然だろう。


 だが、フローラは解らない。

 驚いて、それから目を大きく見開いて大粒の涙を出す。

「どうして私を責めるのですか?悪いのは全てその女なのに。

 私とアレクシス様の仲を引き裂いたその女なのに。」

 アレクシスを見ながら言う。


「どうして?

 君は今、妻に対して『黙ってワインをかぶって恥をかけ』と言ったんだよ。そんな暴言を吐く人間に対して、何故僕か親切にするのが当然だと思うのかがわからない。

 更に、妻が運よくワインをかぶらなかったことに対して『よけた妻が悪い』という。

 あなたのその身勝手な性格には、がまんならない。

 もうひとつ、『私とアレクシス様の仲を引き裂いた』?

 いったい、いつ、どこで、私達がそのような関係になったと言うんだい?妄想も甚だしい。」

 アレクシスがゴミでも見るような視線を送る。



 正直嬉しい。かばってくれるのも守ってもらうのも。

 同時にフローラを見る。高位貴族の令嬢として蝶よ花よと育てられたのに、どうしてこんな残念な大人になったのだろうと思う。


 フローラは本気で嫌われていることに気付いたのか大粒の涙が止まる。


 だが、その後すぐクロエを悪鬼のごとく睨む。


「爵位をちらつかせて、アレクシス様に結婚を迫るなんて最低な女。

 しかも、婚約者がいたのに、アレクシス様にも秋風を送る二股女。

 更にその婚約者を捨ててアレクシス様に乗り換えるなんて酷い女。


 アレクシス様は騙されているんです。その女は見目のいい男なら誰にでも色目を使うんです。」


 大声で叫ぶ。


 両手で顔を覆ったまましゃがみ込む。

 肩が微かに震えている。

 泣いているのかもしれない。

 

 その様子に内心舌打ちをしそうになる。このままでは私が最低な二股女で誰にでも色目を使う淫乱女になってしまう。


 アレクシスが繋がっていた右手を更に強く握り締める。

「つまり君は、私が爵位欲しさに彼女の誘いに乗るような、最低な男だと言うんだね。」

 周辺の温度が確実に10度は下がるぐらい、冷たい低い声でアレクシスが話す。


 その声の冷たさに驚いて顔を上げるフローラ。

 よく見ると涙のあとがない。

 嘘泣きか。


「違う、違います。そうではなくて・・・」

 言葉に詰まるフローラ。


 更に冷たい声で続ける。

「私の妻は二股などしていない。ましてや誰にでも色目を使ったりもしていない。憶測で物事を言って私の妻を侮辱するのは止めろ。

 今回の、淑女にあるまじき行為については、デュラン侯爵家に正式に抗議する。」

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