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運命の人  作者: 喜多蔵子
16/25

16 ワインをかけられました。

 新しい噂話に花を咲かせようとしていると、突然見知らぬ声がした。


「とても楽しそうね。私達も混ぜて頂けます。」


 ベルトワーズ公爵家に嫁いだエリザベートが四人の取り巻きと共に姿を現した。

 エリザベートは口許を扇子で隠している。


 さすが我が親友パメラ、エヴァはそばにいるが、他の友人達は『夫が』『父が』『母が』『弟が』『妹が』『兄が』『姉が』と口々に言って、一斉に散っていった。

 全員巻き込まれたくないのだろう。当然だろう。

 私も一緒に紛れて散って行きたい。


 エリザベートの視線は真っ直ぐクロエを見ている。

 正直怖いので、クロエは目を逸らして周りを見る。

 大きな柱の近くで左側にパメラ、そして逆側大きな窓の近くで右側にクロエ、二人の間にエヴァ。

 取り巻きの二人がエリザベートの両脇におり、残りの二人は後ろに立っている。

 エリザベートの真向かいにエヴァがいる。

 にもかかわらず、エリザベートはクロエを見ている。



 後ろに立っていた取り巻き二人が『飲み物を持ってきますね。』とエリザベートに言って、その場を足早に去った。逃げたのかもしれない。


 結果的には残った6人が向かい合った状態になっている。

 三対三。


 ダンスフロアからは、柱があって、私達が向き合っているのは見えない。


 アレクシスに助けを求めたいが難しい。


 とりあえず、同じ伯爵家でも、少し格の上のパメラが最初に挨拶をし、クロエ、エヴァが続く。

 向かいの三人の挨拶も終わったところで、エリザベートが穏やかに話し始める。

「向こうのダンスフロアで友人達と談笑していましたら、とても楽しそうな笑い声が聞こえてきて、私達も混ぜていただきたいと思いました。」

 とても上品な声。しかし、よく見ると目は全く笑っていない。

 しかも『向こうのダンスフロア』と言った。暗にあんた達の笑い声がうるさいわよという嫌みだろうか。

 パメラが笑顔で答える。

「まぁお恥ずかしいですわ、かなり小さな声で笑っていたのですが。」

  《盗み聞きなんて、下品だわぁ》

「まぁまぁ」

「おほほほ。」

 二人の会話は胃に痛い。


「それで、何か楽しいことでもあったのですか。」

  《どうせ、どうでもいいことでしょう。》

「いえいえ、話すほどのことでもないので。」

  《興味も無いくせに。》

「あら、もったいぶらないで教えて下さいまし。」

  《本当に何もないのね。》

「そうですか。

 実は、こちらにいるコルベール夫人のご主人は彼女に対して『運命の人』って言うそうなんです。仲が良くて羨ましいなぁって言っていた、だけですわ。」


 ちょっと待て。パメラ。何故あなたがそのことを知っているの。

 いや、それ以前にウィリアムの話をしていたのであって、私とアレクの話はしていなかったはず。



 エリザベートが驚いてパメラを睨む。先ほどまでの穏やかな声と雰囲気は一切なくなった。




 怖い。でも、とりあえず会話を振られた以上は答えなくてはいけない。

「ええ。まだ新婚だもの。それくらい許してもらいたいわ。全員でひやかすのだから、私恥ずかしいわ。」

 可愛い新妻らしく見えるかしら。


「でも、元々子供の頃に私達会っていたのよ。彼はその時から私を運命の人だと思っていたんですって。

 私との最高の再会を演じるため、別の女性と事前に予行練習もしていたらしいから・・・。」


 すごい、自分の口とは思えないぐらい恥ずかしいことが言える。

 しかも一部嘘。でも嘘も大事よね。

 子供の頃会っていたのは事実。

 運命の人も事実。

 その頃からが嘘。

 ちょっと前の恋愛を予行練習っていうのが嘘。

 ちょうど嘘と真実がまざっているからいいでしょう。



 エリザベートが扇子で口元を隠しているが視線は人を殺せるぐらいの力がある。

 よく見ると、扇子も小刻みに震えている。すこしやりすぎたか。

 取り巻き達の表情は蒼白。

 でも、取り巻き達が一瞬だけ勝ち誇ったような表情をする。

 じっと見る。

 すると取り巻き達の視線が泳いだ。


 パメラは何か含みのある笑顔でクロエを見ている。その横で完璧なる微笑を浮かべるエヴァ。


 あとでいろいろ突っ込まれるがとりあえず、勢いよく、恥ずかしい台詞を言ったので気分を落ち着かせるため、外の景色でも見て、心を落ちすかせよう思い窓を見る。







 外は雪が降っていた。

 その為か窓ガラスが少し雲っている。

 特に考えず窓ガラスを見続ける。

 曇っていない部分の窓ガラスに色鮮やかな何かが映っている。

 それが何か知りたくてじっと見る。






 よく見ると窓ガラスには先程飲み物を取りに行った二人の女性が映っていた。私達の後ろに立っている。更に、一人は赤ワインが並々と入っているグラスを持っていた。




 納得した。だから先ほど取り巻きの二人の視線が泳いだのか。


 おかしいと思ったのだ。飲み物は会場にいる給仕に頼むのが普通なのに『持ってきますね』などと言うのが。逃げたのだろうと楽観的に考えすぎていた。

 気付かれないように隣にいるエヴァのドレスに触れて、その後視線を窓に移す。エヴァは窓ガラスに映る令嬢に気付き、パメラへ合図。


 クロエ達は窓ガラスに映る二人を窺いながら、嫌みの応酬を続けることにする。


「エリザベート様が身に着けているエメラルドのネックレス、素敵ですわね。しかも大きい。」

  《その若さでその大きさのネックレスを着けるなんて品が無い。》

「あら、ありがとう。パメラ様こそ素敵なネックレスを身に着けているのね。そのデザインは最近は珍しいわぁ。」

  《流行遅れのネックレスね。新しいのを買う金もないのね。》

「ドレスも素敵ね。その色の合わせかたは難しくて、着こなすのが大変なんですよ。」

  《その色の合わせ方はありえない。趣味悪い。》

「このドレスのデザインは最近有名になったデザイナーのデザインなの。」

  《あんたなんかには、あのデザイナーのドレスは購入出来ないでしょうね》

 すごい。エリザベートの復活した完璧なる微笑。

 でも、会話には着いていけない。エリザベートとパメラの会話は胃に穴が開く。


 エヴァが無邪気な子供のように、突然割り込んで話す。

「夫人のドレスも指輪も本当に素敵ですね。私のような身分の者には購入できませんわ。

 そう言えばこのドレスのデザイナーって有名なのパメラ?」

 前半はエリザベートに話しかけ、後半はパメラに質問をした。

「そうね。中々予約が取れないらしいわよ。」

「そうなの!!すごいわ、そんな有名なデザイナーのドレスを準備できるなんて、よっぽど旦那様に愛されているのね。」

 無邪気に微笑みながら感心して話すエヴァ。

 だが一瞬、エリザベートの表情が曇る。






 そして、その瞬間、後ろにいる赤ワインのグラスを持った女性が動く。



 パメラは何かに気付いた振りをしてエヴァを引っ張る。

 クロエは、今、気付いた振りをして窓に近付くため二歩ほど歩く。

 エヴァとクロエの間には隙間が出来る。


 グラスから飛び出た赤ワインはそのまま・・・・・エリザベートの顔面に・・・。



 何も知らない振りをしてパメラはエヴァに話しかける。

「ほら、あそこにいるのが有名なデザイナーのユベール子爵の弟君でマルコ様よ。」


 クロエも何も知らない振りをしてその場にいる全員に言う。

「雪が降っていますわ。とても綺麗。」



 パメラ、エヴァはクロエを見る。

 クロエは振り返って全員を見る。

 そして、そのまま大声で叫ぶ。


「「「きゃーっ。どうなさったんですか?」」」


「エリザベート様のドレスに・・・」


 そして、空のワイングラスを持っている令嬢ーーーデュラン侯爵令嬢フローラーーーに向かって叫ぶ。


「デュラン侯爵令嬢、どうなさったんですか?」


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