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運命の人  作者: 喜多蔵子
15/25

15 噂話に盛り上がりました。

 王宮舞踏会当日。


 息子のリオネルは女中頭に預ける。リオネルは笑いながら女中頭の胸に顔を埋める。そして、きゃっきゃっと楽しそうな声。私もこのままここにいたい。


 侍女の手によって、お風呂に入れられ、オイルマッサージ。アレクシスが用意した若草色のドレスを身にまとい、化粧に髪を整える。

 クロエは普段はコルセットを身に付けない。しかし、舞踏会の時はコルセットを身に付け、腰の細いドレスを着る。

 コルセットを身に付けると浅い呼吸しか出来ない。

 なのに、舞踏会では踊らなくてはいけない。

 拷問だと思う。

 その為、クロエはダンスが苦手だった。だが、今回の王宮舞踏会では、誰に、何を、言われるのか分からない。アレクシスにお願いをし、毎日ダンスの練習をした。

 付き合ってくれたアレクシスには感謝の気持ちでいっぱいだった。


 馬車に揺られて王宮に向かう。緊張で意識がなくなりそうなうなクロエを心配したアレクシスはずっと馬車の中で手を握っていてくれた。

 父も同じ馬車。正直恥ずかしい。


 王宮に到着後、早速、王族への挨拶。

 その後、コルベール領近辺の貴族への挨拶。


 挨拶回りが終了後、アレクシスとダンス。

 今までクロエがウィリアムと踊っていても誰も見ていなかった。興味をもたれたことなど無かった。

 なのになぜか今回は視線を感じる。興味、悪意、品定め、まれに好意。

 アレクシスに対しては多分好意のみ。

 心の中では足を踏まないか不安になる。しかし、クロエも貴族の端くれ。中間貴族と言われようが、田舎貴族と言われようが、顔だけは優雅にアレクシスを微笑みながら見つめる。

「クロエ、大丈夫だよ。とても上手に踊れている。」

 小さな声でアレクシスが言ってくれる。

「顔、引き攣っていない?」

「クロエの仲の良い友人達なら気付くぐらいかな。」

「なら、大丈夫。友人達も嘘笑いは得意なのよ。ちなみに嘘笑いは『完璧なる微笑』て言っているのよ。」

「面白いね。確かに中央よりの貴族令嬢の笑顔は『完璧なる微笑』だ。でも腹の中はわからない。」

 小さな声でアレクシスと時折お喋りをする。

 心に少し余裕ができる。

 そうしているうちに、気付いたらダンスが終わっていた。 


 よし足を踏むことなく終了。今日の役目は果たした。

 緊張からの解放で自然の笑みがでる。

 父とアレクシスは男同士の挨拶回りをするため、クロエと一旦別行動。

「何かあったらいけないから、必ず友人達と一緒にいること。いいね。終わったら直ぐに迎えに行くからね。」

 アレクシスはクロエの両手を強く握って額にキスをする。

 そうして壁際で談笑している友人達のもとへ連れて行く。

 友人達に挨拶をしたあと、再びクロエの額にキスをして、離れていく。

 クロエの顔は真っ赤っか。




「待っていたのよ。色々聞きたいことがあるのよ。」

 パメラがニタニタ笑顔で言う。

「ウィリアム様のその後を聞きたくない?」

 黒い笑顔で楽しそうに言うのはエヴァ。

「あら、聞きたいことには答えるけど、その後のウィリアムって何?」

 

 ウィリアムは、自身こそがコルベール伯爵家の跡継ぎだと思い、結婚相手にローラン子爵令嬢を選んだ。二人は両思い。クロエも結婚の申し込みを聞いたから間違いない。

 しかし、クロエの夫になる予定だったウィリアムに、もれなく伯爵家の跡継ぎがついてくるのが真実。クロエ以外を選んだことで、ウィリアムには『もれなく』ついてくるものがなくなった。

 結果どうなったか?

 父親からは勘当。

 コルベール伯爵からは出禁。

 では、ローラン子爵令嬢は?


「『爵位を継ぐって嘘をつくなんて。私、嘘つきは大嫌い。』って言われて振られたそうよ。」

 エヴァの笑顔は黒い。心の底から他人の不幸を楽しんでいる。


 私達三人の回りには、伯爵夫人、子爵夫人、男爵夫人となった友人達、未来の伯爵夫人、未来の子爵夫人、未来の男爵夫人である友人達、一応まだ婚約中の伯爵令嬢、子爵令嬢、男爵令嬢などが十数人いる。もちろん全員、聞き耳をたてている。そうして楽しい噂話が始まる。

「ウィリアム様が伯爵位を継げないってわかってからのローラン子爵令嬢の行動力は見事よ。なんと、今現在進行中でデュラン侯爵家の跡継ぎと付き合っているんですって。」

「別れたのが2月で、デュラン侯爵家の跡継ぎと付き合いだしたのが6月かな。」

「すごい肉食令嬢だぁ。」



 まだ、王都では流行っていないが、地方では大人気の喜劇がある。

 劇の題は『肉食令嬢』。

 異国から来た旅芸人の一座の劇なのだが、この劇の中では男爵令嬢が身分の高い男性を次々と虜にしていく。

 最初に恋人になった子爵令息に紹介してもらった伯爵令息と次に付き合い、更に紹介してもらった・・・・・を繰り返し、最後は王子様の妃になる。

 実際は荒唐無稽な話だが、その男を虜にする手法が面白いのだ。

 本来、このような劇を親は子供に見せたがらないのだが、少しでも良い物件(結婚相手)を手に入れるために、この手法(男の落とし方)を学ばせようと地方では流行っている。



 もちろんクロエの友人達は全員地方出身。

 そのため、婚約者を次々変える令嬢や、恋人と別れたばかりなのにすぐ次の恋人ができる令嬢を、肉食令嬢と呼ぶのが流行っている。

 

「そのデュラン侯爵令息を落とす際のローラン子爵令嬢の言葉が『爵位を継げないのに、継げるって嘘を言って父母を騙したの。婚約は父母に言われて無理矢理。本当は嫌だった。だって、彼は野蛮で粗野で本当に怖かった。』ですって。」


 そうしてこの台詞も劇の一部。

 男爵令嬢が伯爵令息から侯爵令息に乗り換える際の台詞に似ている。『婚約は父の命令だから、私にはどうすることも出来ない。父は彼を男らしいと言ったけど違うわ。彼は野蛮で粗野で下品なだけ。』


 デュラン侯爵令息は、王都に住んでいるからまだ劇を知らないらしい。


「それでねウィリアム様がローラン子爵令嬢に『別れたくない。』て泣きついたタイミングが最悪なの。」

「某伯爵家主催の舞踏会で泣きついたのよね。招待されていないのに、勝手に伯爵家の内庭に現れて、面白かった。」

「で、その場にデュラン侯爵令息もいたのよ。ローラン子爵令嬢を庇って二人で盛り上がっていたわよ。多分デュラン侯爵令息はナイト気取りね。か弱い彼女を守る俺かっこいいって感じかな。」

「更に更に、ローラン子爵令嬢がとどめをさしたの。『あなたみたいな野蛮な嘘つきと本当は婚約なんてしたくなかった』て。」

 小さい声できゃーっと叫ぶ。

 全員このような話は大好物。

 従兄には悪いが自業自得だ。

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