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運命の人  作者: 喜多蔵子
14/25

14 丸投げされました。

 クロエは8月に元気な男の子を出産した。


 出産前には伯爵も領地に戻ってきた。

 やはり王都の社交より我が子が大事。生まれてくる孫が大事。

 祖父になった伯爵は毎朝孫を抱き締めキスをする。父親になったアレクシスは負けずと息子を抱き締めキスをする。

 領地の見回りをいつも以上に早く終わらせ、『私の孫』『僕の息子』と言って二人で取り合いをする日々。

「髪の色は可愛いクロエと同じ。顔は義息子に似ている。将来が楽しみだ。」

「笑った顔は義父様にそっくりです。人懐っこい性格も義父様に似たのですね。」

「そうかぁ。色々あったがアレクシスと結婚して良かったなぁ。クロエ。

 ウィリアムの子供ならこんなに可愛くは産まれないぞぉ。」


 父が嫌味を言うなんて。よっぽど腹に据えかねているらしい。


 あの後ウィリアムは王都に戻り、父がいるタウンハウスに向かい、結婚無効について訴えたそうだ。

 だが、同席した叔父がことの顛末を聞いて、ウィリアムを殴ったそうだ。

 暴力は良くないと思うが、自分の浮気を棚に上げて、クロエの浮気を疑う。

 コルベール伯爵位欲しさにクロエを貶める発言をする。

 これでは叔父が誉め称えた騎士道精神はどこにもない。

 ウィリアムは叔父に勘当を言い渡された。

 父もウィリアムに対して二度と領地に来ることもタウンハウスへ来ることも認めないと怒鳴ったそうだ。


 当然の結果だろう。


 ウィリアムは現在王都の騎士団の寮にいる。仕事は続けることができているのだから生きては行けるだろう。ただ、後ろ盾である近衛隊所属の叔父と縁を切ったのだから今後どのような場所に配属されるかわからない。



+++++



 12月には社交シーズンが始まるため、タウンハウスへ向かわなくてはいけない。王都にいるアナ側妃からも、早く孫の顔を見せなさいと言う督促状が何通も来ている。

 しかし子供を理由にして王都に行くのを断ることは出来ないだろうか。

 ぐずります。

 夜泣きが酷いです。

 我が儘をいいます。


 無理だな。


 でも、行きたくない。


 何故なら絶対面倒臭いことが起きる予感がする。式の時にアナトール王子に言われた言葉もあったので、父と夫に相談してみる。

「「無理だな。」」

 二人同時に即答。

 アレクシスは息子を抱き締めながら言う。

「母も父も孫の顔を見たがっているんだ。」

 クロエの願いはため息と共に消えていった。


 馬車に揺られて護送犯の気分で王都に向かう。

 帰りたい。

 行きたくない。 


 でも無情にも何事もなくタウンハウスに到着。


 数日ゆっくり過ごしてから、アレクシスと息子と共に、アナ側妃が待つ王宮の奥に行く。

 前回と同じ庭がよく見える部屋でお茶会。今回は庭に面している窓は全て閉まっていた。


 部屋には前回同様アナ側妃が既に待っていた。

「いらっしゃい。さぁ、赤ちゃんを見せて。私の初孫を見せて。見せて。」

 アナ側妃が子供に見える。

 息子ーリオネルーをアナ側妃に託す。アナ側妃はリオネルを抱き締めた。

 リオネルはにっこり笑っている。

「可愛い。赤ちゃんの頃のアレクシスにそっくり。」

 アナ側妃がリオネルをあやしていると、お茶会の部屋の扉が開く。


「私の孫はどこだぁ。」

 叫びながら国王陛下が入ってきた。その後ろには王妃、第一側妃、アルフレッド王太子、エレオノーラ王太子妃、王太子の二人の子供、アナトール王子。

 あぁ手が震える。緊張で息が出来ない。

 可愛い息子は、王族の方々に粗相をしないかしら。

 息子の様子を見守るが『きゃっきゃっ』と笑い声を発している。

 全く人見知りをしない我が子に畏敬と尊敬の気持ちになる。

 今は国王陛下が抱っこをしている。


 用心のため持ってきたアーモンドクッキーはすでに第一側妃の前に置かれている。

 胡桃のケーキは侍女が切り分けアナ側妃の前に置かれている。

 よし、任務は果たしたはず。

 不安と緊張で何処かに逃げたくなる。

 よし、逃げようと思い、後ろを振り返るといつのまにかアナトール王子がいた。


「あいかわらず馬鹿面だね。」

 軽い口調。クロエは少し落ち着いて、同じような軽い口調で答える。

「でも、学習能力はあるでしょう?口は閉じてますから。」

「面白いね。アレクシスは本当に良いお嫁さんをもらったねぇ。あ、この間の忠告覚えている?」

 エリザベートに気を付けろでしょうか?もちろん覚えています。

 そして、今この部屋にいるエレオノーラ王太子妃は、エリザベートの姉。グレゴリー侯爵家の至宝、三姉妹の長女。

 クロエはエレオノーラを見ながら、黙って頷く。

「目の前にいるエレオノーラはいい人だから、怖がらなくていいよ。彼女も妹のエリザベートには手を焼いているんだ。

 あと、子育てに何か悩んでいるならエレオノーラは最高の相談相手だよ。彼女は二人の子供を産んで育てたんだから。」

 恐れ多いことを言う。クロエが黙ったままいると、アナトールは、そのままエレオノーラの元に。エレオノーラはアナトールと共に笑顔でクロエの元に来て、気付いたら子育て談義が始まった。

 夜泣きが始まったら、離乳食は、歩きだしたら、等など。


 エレオノーラ王太子妃は大変優しい素晴らしい女性だった。






 一通り子育て談義が終わった頃、少し言いにくそうにエレオノーラが言う。

「クロエ様、妹のエリザベートには気をつけてね。姉の私が言うのもどうかと思うけど、あの子は変なの。

 いえ、変ではないわ。そう、不思議なの。おかしいの。まるで・・・物語にでてくる魔女みたい。あの子はベルトワーズ公爵家に嫁いだのに、アレクシスは自分の物だと言うのよ。

 何度も言ったの。『貴女はベルトワーズ公爵家に嫁いだのだから、未来のベルトワーズ公爵夫人なのよ。だから、慎みなさい。』って。でも、『私の物を盗んだ泥棒猫にお仕置きをしなくては。』って言うの。もう、私が何を言っても駄目。

 もし、何か困ったことがあったら、何時でも私の所に来て。私のそばにいればあの子も何も出来ないから。」

 本当に優しい女性。




 でも、考えてみる。

 公爵家に嫁いだエリザベートに何かされたからといって、王太子妃の元に駆け込むことは出来るのだろうか。

 いや、無理だろう。

 だから、笑顔で答える。

「その時はどうかよろしくお願い致します。」

 あぁ、社交って大変。


 シーズンの始まりを知らせる王宮舞踏会に参加したくない。

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