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運命の人  作者: 喜多蔵子
13/25

13 つまみ出してみました。

 クロエはウィリアムにどの様に説明しようか悩んでいた。


 ウィリアムは間違いなく自分が爵位を継げると思っている。

 子供の頃からウィリアムは何度も『将来はクロエと結婚して、僕がコルベール伯爵家を継ぐ。』と言っていたのにだ。



 本来なら、ウィリアムは領地運営を父から学ぶため領地で生活するのが基本なのだが、16歳の時、自身の父親に憧れて騎士になりたいと言い出した。

 確かに騎士でありながら貴族の当主という人はいる。ただ、それは領地がさほど広くない子爵家や男爵家のことであって、伯爵家以上では無い。

 だが、ウィリアムは言ったのである。騎士になりたいと。

 そうして王立騎士団に入隊したのである。

 騎士になり、人脈作りをしたあと、騎士を辞めて爵位を継いだ者なら前例もある。

 この時点では叔父も父も特に気にしていなかった。



 そして、昨年の恋人の登場である。叔父は姪のクロエには悪いとは思ったが

「伯爵という身分より、愛する人を選ぶ。騎士道精神溢れる息子に育って嬉しい。」

 と言って泣いて喜んでいた。

 手順を間違えたことについては、今後気を付けるように導きたいとも言っていた。

 恋愛結婚だったクロエの父も泣いていた。

「順番を間違えたのは腹立たしいが、やはり好いた女性との結婚生活は、なにものにも変えられない。好きな人に出会って良かった。」

 叔父も父も結婚式の日に二人で酒を飲みながら語っていた。


 そう、叔父も父も二人そろっての共通の認識は『クロエの夫が伯爵になる』である。

 つまり、ウィリアムはクロエの夫の地位はいらない。つまり伯爵の身分より愛する人を選んだ『素晴らしい男』になったのである。






 だが、本当は違う。




 ウィリアムはクロエ以外の愛する女性と結婚し、コルベール伯爵となって、クロエ以外のその女性とここで暮らすことが出来ると思っていたのだ。

 確かに、直系の男子がいない場合は、ウィリアムが爵位を継ぐこともできる。

 しかし、父も叔父もあくまで『クロエの夫が伯爵になる』という認識だった。


 悩むクロエ。


 どう説明するか。


 そもそも何故、そう思ったのだろう?

 子供の頃からクロエと結婚して伯爵家を継ぐと言っていたのに。


 とりあえず、紅茶を一口飲んだ。


「ウィリアム兄様、落ち着いて聞いてね。


 そもそも、私の夫になる人がコルベール伯爵を継ぐの。


 私以外の女性と結婚したいって叔父様に言ったでしょう?

 叔父様から聞いたから、父と私は、私の新しい婚約者を探して、偶然アレクシス様と出会って、婚約して、結婚したの。


 ここ大事ね。結婚したの。


 だから、次のコルベール伯爵はアレクシス様なの。

 だから、ここで二人で暮らしているの。アレクシス様は領地運営も勉強しなくてはならないから。


 わかりました?」



 ウィリアムは驚いてアレクシスを見る。そして、クロエを見る。そして、叫んだ。



「そんなのおかしい。僕がコルベール伯爵家の後継者だ。」



 ウィリアムは叫びながら席を立った。



 アレクシスはクロエの後ろから、ソファーの横に移動して座る。その際クロエの手をしっかり握る。

「でも、君はローラン子爵令嬢と恋仲で、既にローラン子爵へ令嬢との結婚の申し込みをしたんだろう。」


 クロエは子爵へ結婚の申し込みをしたことは知らなかったので驚いた。


「そもそも、現在のコルベール伯爵本人が爵位は『クロエの夫』に与えると明言している。更に、国の規則に則ってクロエの夫に与える手続きもした。

 つまり君がクロエ以外の女性に結婚を申し込んだ時点で、君にはコルベール伯爵家を継ぐ権利はない。」

 努めて冷静に話すアレクシス。


「でも、子供の頃から僕が継ぐって。」

 感情的になっているウィリアムはなおも続ける。


「それには『クロエと結婚する』という前提条件があるはずだが。」

 ウィリアムも急に思い出したのかはっとした表情になった。


 やっと思い出したのか。

 少し黙ったウィリアムは何かを考えたあと、頷きながら言葉を発した。


「なら、クロエと結婚する。」


 クロエ、家令、控えていた侍女が無表情になる。


 アレクシスから冷気ではなくドス黒い気配がし始める。


「ウィリアム兄様、さっきも言ったけど私は結婚したの。去年の8月に。」

「そんなの無効だ。婚約者である僕がいるのに結婚なんてできるはずない。」


 確かにウィリアムと正式に婚約をしていたら、国の規則に則りウィリアムと正式に婚約を解消しなければ、アレクシスと結婚はできない。

 しかし、クロエとウィリアムは従兄妹同士だったため、叔父も父も正式な婚約の届けを国にしていなかった。つまりただの従兄妹同士。婚約者でもなんでもない。


「正式に婚約していないから問題なく出来たのよ。」

 クロエは阿呆らしくなってきたので、自棄になって空笑いしながら答えた。


「正式な婚約ではなくても婚約は婚約だ。」

「じゃあ、私という婚約者がいるのにローラン子爵令嬢に結婚を申し込んだのはなぜ?

 私という婚約者がいるにも関わらず、令嬢の父親に正式に結婚を申し込んだのはなぜ?」


 ウィリアムは怒鳴る。


「俺のことは関係ない。大体、婚約者に等しい俺を置いて、他の男と結婚するなんておかしい。

 そうか、浮気をしていたんだろう。」

 呆れて言葉が出ない。なぜ『俺のことは関係ない』のだろう。しかも、浮気をしたのは、間違いなくウィリアムが先だ。


 クロエが黙ったのをいいことにウィリアムは怒鳴り続ける。


「そんなふしだらな人間にコルベール伯爵領を任せることは出来ない。

 そうだ、この地を守ることが出来るのは俺だけだ。」


 ウィリアムは自分の言葉に自分で納得するかのように頷く。

 両手で拳をつくり、何度も頷く。

 間違いなく自分に酔っている。

 最近はまったく領地に来ず、領地運営の勉強もさぼっていたのに何を言っているんだろう。


 あ、段々腹が立ってきた。

 



「俺のことは関係ない?


 仮とは言え婚約中に、舞踏会の参加者に、他の女性を、恋人だと紹介しているのに関係ない?

 その女性に結婚の申込みをしたのに関係ない?

 その恋人の父親にも結婚の申込みをしているのに関係ない?

 で、その女性から結婚の噂を聞いて泣きつかれたから、慌ててここに来て結婚を引き伸ばそうとしているのに関係ない?

 私と結婚しないと爵位が貰えないから私と結婚するということは、恋人への結婚の申込みは関係ない?

 領地運営の勉強もさぼっているのに関係ない?

 領地に近付きもしないのに関係ない?


 それで、この地を守ることが出来るのは僕だけだ?


 ふざけるな。

 そんな、いい加減な人間に領地を任されたら領民が可哀想よ。」


 怒っていいよね。

 おかげで一気に言ってしまった。

 まだまだ言いたりない。


「大体、仮とは言え婚約者だった私に一言もなく、勝手に舞踏会で堂々と他の女性を恋人だと紹介していたとはどういうことなの。

 関係ないではない。ちゃんとわかるように説明して。」





 よし!!!




 感情の高ぶりが抑えられず、ソファーから立って、人差し指でウィリアムを指しながら叫ぶ。


 ウィリアムが口許をひきつらせている。


 

 言い過ぎたかしら?

 人差し指を下ろしながら冷静になる。


 落ち着こうと思いクロエは部屋を見渡す。


 家令と侍女がクロエを尊敬の眼差しで見ている。

 そして、その後直ぐ、絶対零度の視線でウィリアムを見た。

 更に、アレクシスを見る。ドス黒い気配に完璧な微笑でウィリアムを見ている。


 ちょっと怖い。


 クロエが一瞬震えると、アレクシスはクロエをソファーに座らせ、優しく微笑んで見つめて額にキスをした。

 そして黒い気配を再び発しながらウィリアムに向けて言う。


「クロエの質問に答えられないようですね。

 改めて言いますが、私とクロエの結婚は、私の父が許可し、教会で正式に神の名の元に誓い合って成立いたしました。

 それに対して正式に抗議をするのでしたら、私の『父』と神に抗議してください。

 それから、クロエの名誉を守るために言いますが、私とクロエが出会ったのは、君が子爵令嬢を恋人だと紹介し始めた12月のテナール子爵の舞踏会より後です。

 嘘だと思うのでしたら、君の父親かコルベール伯爵に確認したらいい。」



 黙っていたウィリアムが、突然捲し立て出した。

「嘘だ。嘘だ。だって、結婚が早すぎる。絶体やましいことがあるはずだ。」

「婚約して結婚するまで6ヶ月よ。私の父と母は。」

「うっ。」

「ちなみに叔父様と叔母様は5ヶ月。」

「うっ。」

「親友のエヴァは4ヶ月。パメラは8ヶ月かな。

 それで、私という婚約者がいるのに他の女性と恋人になった説明がまだだけど。」



 ウィリアムは再び口許をひきつらせて黙る。

 都合が悪くなると黙る。



 子供か。



 更に問い詰めようと思って言葉を発しようとしたら、アレクシスに遮られる。


「これ以上の話し合いは不愉快だ。今すぐこの屋敷から出ていってくれ。」


 そう言って家令に玄関まで連れていくように指示を出した。

 家令は嬉々として、部屋の前にいつの間にか待機させていた我が家の護衛二人と共にウィリアムを部屋から追い出そうとした。


「触るな。俺は未来のコルベール伯爵だぞ。」

「未来のコルベール伯爵はこちらにいらっしゃるアレクシス様です。旦那様からもその様に言われております。」

 無表情に答える家令。

「嘘だ。」

「旦那様を嘘つき呼ばわりするのですか?

 では、やむを得ません、牢屋に入って貰いましょう。よろしいでしょうかアレクシス様。そうして王都の騎士団に狼藉者の引き取りを依頼しましょう。」

 無表情だった家令は、自分の主人であるコルベール伯爵を嘘つき呼ばわりされたことに立腹したのか、途中から、視線で人が殺せるほどの雰囲気を醸し出した。

 ウィリアムは恐怖の余り立ちすくんでいる。

 その隙に護衛がウィリアムの右と左に立って、腕を持ち上げて強制的に部屋から連れ出した。家令は部屋から一礼して出ていく。



 クロエはアレクシスを見て言う。

「大丈夫ですか?つまみ出したりして。」

「ウィリアムが王都で僕の悪口を一言でも言えると思いますか?元王子さまにつまみ出されたって。」

 クロエは考えてみた。そして、納得した。

 無理だな。

 王都でそんなこと言ったら王族から目をつけられるし、仕事も失うかもしれない。

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