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娯楽とは無縁だった自分がネトゲとやらの世界に転生させられてもな?

作者: ブーブママ

 自分の住んでいた町が都会ではないことは知っていた。

 だが、田舎でもない。ましてやこんな、道が整備されておらず、草や樹が生え放題で、周囲に建物が一切見当たらないような田舎では。


 まてまて、思い出そう。


 朝、いつものように家から学校へ向かって登校していた。

 前日の大雨が嘘のように空は青く晴れ渡り、空気も澄んでいた。


 異変を感じたのは公園の近くを通りがかった時。女性の悲鳴が聞こえた。

 見ると他校の男子生徒が道路の真ん中で座り込んでいた。何かを拾おうとして慌てている。あれは──そう、猫だった。

 そこへトラックが突っ込んできていた。減速の様子はない。

 とっさに足が動いていた。地面を蹴って、男子生徒を突き飛ばそうとし──


 で、ここだ。


 空は赤黒く、周りを囲む枯れた草木が苔に覆われ、ときおり生臭い風が吹いては気味の悪い音を立てている。

 そんな中にぽっかり開いたスペースで、自分は土と石を枕にして倒れていた。


 ──わからん。跳ね飛ばされてどこまでも飛んだとか、か?


 とりあえず身を起こす。すると草木にさえぎられて聞こえなかった音が聞こえてきた。


 人の怒鳴り声? 複数の男性だ。

 荒事に首を突っ込むのは良くない──が、こちらも事情が事情だ。せめてここがどこなのかぐらいは聞かなければ。


 ふらつく足で枯れ草を掻き分けて音のほうへ進むと、そこは──異様な光景だった。

 教科書で見たような中世の兵士たちのような装備をした男性らが、話を止めてこちらを見る。


「なっ、なんだ、お前は?」

「いえ、自分は──」


 答えようとして──愕然とした。

 なんだ、この声は。自分の声と全然違う、野太い男性の声。


「とにかく撤退だ! 第二陣が迫ってきている──援軍は間に合わなかったんだよ!」

「しかし、我々がここを引いたら、集落が──」


 よく見れば腕も脚も見慣れたものとは倍も太さが違った。

 発達した筋肉──誰もがうらやみそうな鍛え上げられた男の肉体。


 そして全裸だ。

 あ、いや、パンツは履いていた。

 パンツ一丁だ。


「どういうこと、だ?」


 聞きなれない声で、つぶやく。

 どうやら以前の自分の肉体ではないらしいが──


「来た! 来たぞーッ! 引けッ! 逃げろッ!」

「ちくしょう、援軍は何をしてるんだよ!」

「おい、そこのアンタも、早く逃げるんだ!」


「え」


 気がつけば兵士? たちは一目散に走り出していた。自分の背後の何かを恐れて。

 振り返る──すると、そこには化け物がいた。

 武装した骸骨だ。ものすごい数の。

 一人? だけならお化け感があって怖かったかもしれないが、もはや現実離れしている。


 もしや、あれか。ここは地獄か。


「何やってるんだ! 早く逃げろ!」

「ああ、だめだ! もう間に合わない!」


 などと考えている間に、すっかり包囲されてしまった。

 さすがに、まずい──とにかく脱出するために、手近な骨を殴りつける。


 ガッ! いい音がした──が、手ごたえがない。


「ああっ! 何やってるんだ!」

「殺されるぞ!」


 そうは言われても、こっちは必死に手足を振り回している。

 なのに骸骨どもは揺るぐ気配すらない。

 まずい──二度、そう思った時。


 1


 1 0 1 1  1  0


 0 1 1 1  0  0  1 1 1 1 0


 目の前が急に、数字で埋め尽くされた。──なんだこれは?


 正確には骸骨どもが叩きつけ切りつけてくる武器が、自分の体に当たったところから、数字が浮かんでは消えていっていた。


 ──いや、だからなんだ、これは?

 しかもわりと痛くないんだが。


「待て待てぇーい!」


 と、上空から女の子の声が聞こえてきた。上空? 見上げる。


「お待たせッ! ミラクル☆メーリンが来たからにはもう大丈夫だよ!」


 そこには少女が──浮いていた。子供向けのキャラクター商品の魔法少女のような格好で。


「数が多いねッ、まとめて吹き飛ばしちゃう☆」

「メーリンさん、逃げ遅れたやつがいます!」

「わかってるよぉー! 詠唱・スターライトボム! アド・エクスクルードターゲット!」


 メーリン? はおもちゃのようなステッキを空に掲げて叫んだ。

 するとどこからともなく、その足元に何か棒のようなものが現れて、徐々に黄色く染まっていく。


「アド・エクステンドエリア! アド・エクストラダメージⅠ! アド・アトリビュート:ホーリー!」


 そして棒が全て黄色になって──


「いっけぇー☆」


 メーリンがステッキを振り下ろすと──爆発した。

 すごく光って爆発して、あたりで数字が乱れ飛んで、骸骨が吹き飛んでいった。


「すげえ! さすがはメーリンさんだ!」

「見たか今の! 10万ダメージは突破してたぜ!」


 後方で兵士たちが歓声を上げる。


「さてさてぇ」


 得意げな顔をしながら、メーリンは空から降りてきて、自分の前に立った。

 小さい。この体の腹の辺りに顔がある。


「大男さん?」


 どうやら自分が平均より大きいらしい。


「大男さん、名前は? ステ提示してくれる?」

「自分は──」


 なんと、名乗ったらいいのだろう?


 どうやらここは地獄ではないようだし。

 しかし生まれ変わったのだとしたら、いきなり成人男性になっているのはおかしいし。


「──わからない。今、はじめて、ここに来たんだ」


 としか言いようがない。


「エェー」


 メーリンは首をかしげて──それから、ハッと気付いたような仕草をして(本当にこんな動きをする人がいたのか)、目を輝かせた(本当にキラキラしている?)。


「ははぁ~ん、なるほどね。うんうん。わかっちゃったなぁ。メーリンはねえ、現実主義者だから。いつかこういう日が来るってわかってたよ」


 ──?


「ズバリ☆ キミはメーリンと同じ、転生者だね!」


 ◇ ◇ ◇


 メーリンに連れられて、集落へと入っていった。

 集落とは言っても、複数のテントが寄せ集められたようなところだったが、人はそれなりにいた。皆、メーリンを見ては感謝の声を上げている。


「さてと」


 テントの一つに入って二人だけになると、メーリンは楽しそうに話し始めた。


「当てようか? 当てようか? キミ、日本人でしょ?」

「そうだが──この辺りの人たちはみなそうではないのか? 日本語を話しているし」

「あぐ」


 メーリンは盛大にずっこけた。


「あー、そう、そこからかー、キャラメイクの時に聞かなかったの?」

「キャラ──メイク?」

「……あれ?」


 メーリンは首をひねる。


「キャラメイクしてないの? 神様に会って、ステ振りしたりさ」

「何のことかさっぱりだが」

「で、でも日本人でしょ?」


 それはそうだ。──今はどうなのか知らないが。


「死んで転生したでしょ?」

「まあ──おそらく死んだとは思う。だが、転生とは? 輪廻転生するのであれば、いきなり大人になっているのはおかしいと思うのだが」

「あぁー……」


 メーリンは何かこう──得意げというか面倒くさげというか、実にムカつく表情をした。


「キミ、アニメとかラノベ読まない人?」

「ラノベ?」

「中高生向けエンターテイメント小説!」

「ならば、どちらもその通りだ。その類のものは見たことがない。家にテレビもないしな」

「どういう家よ」


 普通の家だと思うが。


「ふんふん。じゃあそこからね。あのねぇ、転生っていうのは、現世で死んで、異世界で別の人間としてあらわれることだよ! 赤ちゃんからじゃなく、大人としてね!」

「別の人間?」

「まあ今回はキャラメイクで新しくこの世界に作られた人間になる、って感じだったけどね」

「そのキャラメイクとは?」


 メーリンはまた、例のムカつく表情をした。


「キミ、ゲームも──ネトゲもしたことない?」

「親に禁止されていたし、そもそも触れる暇がなかったからな」

「どういう家よ」


 普通だろう?


「あのねえ、ここはネトゲの世界なの。正確に言えばネトゲっぽいというか。ネトゲ内でリアルに生きるボクらみたいな?」

「は?」

「わかんないならいーよ。とにかく、自分とは別の人間、アバターを作るのがキャラメイク。ほらほら、メーリン、かなりかわいいでしょ? 外見とかかなりこだわって設定したからね!」

「設定」

「外見からパラメータ──強さとかを転生の時に自由に決められたんだよ。みたでしょー、さっきの魔法! 超威力! どかーん! ああいうことができるのも、転生時のキャラメイクのおかげ!」

「──よく分からないが、身体能力や才能を自分で決めて生まれ変わった、と」

「おーむねそんなかんじ」


 ずいぶん贅沢な話だ。

 自分ときたら、ほぼ全裸の大男なわけだが、これも自分が決めたことなのだろうか?


「はぁー、がっかりだよー、メーリン以外の転生者がこんなだなんて」


 メーリンはぶうぶうと不満を言う。


「日本でさ? 平凡な学生だったじゃん? それが猫助けようとしてトラックに跳ねられて死んじゃったら、なんとキャラメイク可能なネトゲの世界に案内されて、無双生活! そこにあらわれた第二の転生者! 波乱の予感! ──が、コレ。なんか気が抜けたよ」

「第二……ということは、自分の他には転生者に会ったことはないのか?」

「ないねー、ないない。実際、キミが現れるまで、メーリンがこの世で唯一の転生者かも! って思ってたよ。神様もそんなこと言ってた気がするし」

「ふむ──」


 さっきの話──気になる。


「日本では学生だったのか?」

「そうだよ」

「猫を助けようとして?」

「そう。メーリン、ねこだいすきだから。道路に倒れてるの見捨てられないから。でもさー拾い上げたのに暴れてさー……」

「そこにトラックがきて通行人の女性が悲鳴を」

「そう。で顔を上げたらもうトラックが目前で、バーン!」


 ………。


「──悲鳴の話なんてしたっけ?」

「いや」

「じゃあ、なんで?」

「聞いたからな」


 間違いない。


「自分も人を助けようとしてトラックに跳ねられたんだ。猫を助けようとしている男子生徒を突き飛ばそうとしてな」

「………」


 メーリンの顔が、どんどん赤くなる。


「はっ、はう、あうあう」

「なんだ?」

「──めっ、めうっ──メーリンが女の子なのは、その、そうっ、キャラメイクで唯一しばり項目があって! 性別を逆じゃないといけないっていうっ!」

「ふむ──」

「だからその、め──僕は別に変態的な気持ちで転生したわけでは、断じてッ!」

「まあそこはいい」

「は?」

「いずれにしろ自分の体だろう。好きにしたらいい」


 男子が女子に興味があるのは仕方ないことだしな。


「それよりせっかく同郷の士に会えたんだ。この世界のことも詳しそうだし、いろいろ教えて欲しい」

「……切り替えはやいね」


 顔を真っ赤にしたまま、メーリンがため息を吐く。


「いいよ、分かったよ──その代わり、転生前のことは他の人には秘密だからね」


 ◇ ◇ ◇


「じゃ、まずは名前を教えてほしいんだけど」

「今の名前か? 何も分からないんだが」

「ステータス表示すれば出てくるでしょ」


 何の話だ。


「ほら左上に出てるUIからさ」

「UI?」

「ああ、非表示モードかぁ。じゃあこう言って、表示・ヘッドアップディスプレイ」

「……ひょうじ・へっどあっぷでぃすぷれい。……おっ?」


 目の前に──というより、目に張り付いて、と言うべきだろうか。

 視界にいくつかの不思議なものがあらわれた。左上には何本かの色違いの棒と、丸に何かの記号が書かれたものがある。


「そこに視線を合わせるとメニューが開かれるから。ちょっとコツがいるけどね」

「こうか……む」


 丸が開いてずらずらと文字が表示された。ステータス、インベントリー、スキル、スペル……なんのことだかさっぱりだが……。


「視線じゃなくて指でつつくようにしても操作できるよ。かっこわるいけど。とにかく、ステータスを選んで?」


 不恰好だが、視線よりは分かりやすい。ステータスと出ている部分を──空中だが──指でつつく。

 するとまた良く分からない表記がずらずらと並んだ。


「メーリンが読んであげるから、その中の提示、っていうのを押して」

「……えーと」

「右下のほう!」

「これか」


 押すと、ずらずらした表記は反転した。どうやらメーリンから見えるようになったらしい。


「えーと、名前は……モルバドだね。悪そうな名前。種族……えっ、何コレ」

「どうした?」

「種族もクラスもレベルも能力値も、全部???で埋まってるじゃん。こんなの見たことないよ!」

「普通じゃないのか?」

「ステータス提示では嘘はつけないよ。ていうか、キミの方からも???になってるの?」

「──どうやらそのようだ」


 どこがどうというのはさっぱりだったが、確かに大部分に「???」と書かれている。


「はあ、そう……じゃあもういーよ。次、次、インベントリを開いて。さっきのメニュー」

「……開いたぞ」

「よかった。じゃ、中に服とか入ってない? 装備しておこうよ、さすがに裸はねー」

「何もないようだが」

「そっかーそうかー初期装備なしかー、うんうん、そんな気してたなー」


 その後、スキルやスペルなどの項目を調べられたのだが、結果は


「なーんも、わからないね!」


 ということだった。


「クラスもわかんないし、スキルもスペルも何があるのか不明とか! おかしいよ? この世界の人たちはみんな分かるからね?」

「そうなのか?」

「そう! ネトゲ的世界ではさ、いわゆるPCとNPCがやっぱりいて、できることもそれぞれ違ったりするんだけど、この世界は違う! 全員PCみたいなものっていうか、こういうUIが生活に根付いているんだよ。荷物は全部インベントリにしまえるし、レベルアップしてステ振りも決められるし……」

「すまん、まったく理解できないのだが」

「ああーもう! この世界じゃ子供だって理解してるっていうのに!」


 じたばたされてもな。


「こうなったらとにかく、いろいろ試して探っていくしかないね。とりあえず装備からかな……」

「面倒見がいいのだな」

「は、はァ!? なにが!?」

「いや、見ず知らずの人間にここまで親切にしてくれるとは、なかなかできることではない」


 しかもほぼ全裸の男にな。


「さすがは猫を助けに死にに行ける男だ」

「……うー、よしてよ、前の世界の話は。もうボクはメーリンとして生きてるんだから」

「そうか。すまない、メーリン」


 自分はまだそこまで割り切れていない。死んだという記憶もないし、可能なら日本へ戻りたい。

 とはいえまるでどうしたらいいかわからないし、しばらくはこの世界でメーリンに頼らざるをえないだろう。


「とにかく、そうと決まったら! 外でちょっと買い物をしよう!」


 メーリンは、ぴょこっと立ち上がり、テントのドアを開いた。


「クラスによって装備できる武器は決まってるから、まずは──」


「敵襲! 敵襲!」


 張り詰めた声があたりに響く。


「モンスターが群れを成してこちらに向かってきている! はやく避難するんだ!」

「エリートモンスターだ! とてもじゃないけどかなわない! はやく逃げろ!」

「うわああっ──! ダメだ……! ほ、包囲されてる……!」


 絶望の響きが。


 ◇ ◇ ◇


 事態は急を告げていた。

 先ほどの骸骨の兵士に加えて、見たこともない獣や、それに乗った骸骨、そういった化け物どもが大群となって集落に押し寄せ、テントを踏み倒し、人々を切り倒し、その輪を縮めていた。


「そんな、偵察兵はなにやってたのさ!」

「ど、どうするんだ、メーリン」

「ふ、ふふん。こんなのチート魔法のメーリンにかかれば……うひゃあ!」


 メキメキと音を立てて倒れたテントから、骸骨が顔を出す。


「すっ、スピアブレイカーッ!」


 ドガッ


 メーリンの突き出したステッキの一撃で、そいつは彼方まで吹き飛んでいった。


「ダメだ、地上じゃ詠唱時間がとれない。起動・フライングブーツ!」


 メーリンの靴が光ると、その体がふわりと浮き上がり、あっという間に三階ぐらいまでの高さに移動した。


「よし、それじゃ詠唱・メテ……ッ!?」


 だがメーリンは顔色を変える。


「ミサイルプロテクション!」


 メーリンが叫び終わるとほぼ同時に、彼女? に矢の雨が降り注いだ。串刺しのできあがりか……と思ったら、何か半透明の緑色の球体がメーリンの周囲に出現して、矢を弾いている。


「あああ、まずいよまずいよ」

「どうした」

「これやってる間は魔法が詠唱できないんだよ! あと足元にバーでてるでしょ! これがいっぱいになるとバリアが消えるの!」


 確かにメーリンの足元に棒が出現して、それが徐々に赤くなっていた。


「射手をどうにかしないと!」

「射手……」


 ぐるりと辺りを見回すと──いた。ひときわ大きい獣の背に乗っている冠をかぶった骸骨──の横にいる軽装の骸骨が、矢を放っている。

 驚くべきことに、次々に放たれた矢が、空中でいくつにも分裂していた。


「あいつか」


 どうやら他に射手はいない。一人だけなら羽交い絞めにでもすればなんとかなるだろう。

 先ほど骸骨に囲まれた時も、特に怪我をすることもなかったしな。よし。


「待ってろ、なんとかする」

「え、ちょっと」


 そして自分は足を踏み出して──


 ──骸骨の群れに囲まれて身動きが取れなくなった。


「おかしいな」

「ああもう!」


 好きなように殴られ、視界にはまた数字が溢れている。痛くはないがうっとうしい。

 なんとか掻き分けて先へ進もうとするのだが、相手に触っても全く動く気配がない。


「通常モードじゃモンスターの押しのけはできないから! 戦闘モードにして!」

「せ、戦闘モード?」

「スケルトンソルジャーをタゲって……ああー、えーと見つめると! UIがでてくるでしょ!」

「こう……か?」


 確かにさっきからちらちら、何か出たり消えたりしていた。集中して一体の骸骨を見つめる。


 たたかう

 スキル

 スペル

 アイテム

 にげる


「これか」


 先ほどの要領で「たたかう」をつつく──が、反応がない。

 試しに骸骨を押しのけようとしたが、やはりできない。


「できないんだが!」

「ウソでしょ!? ッああああもうバリアもたない! いいからはやくなんとかしてえええ!」

「クッ」


 押し方か? 押す場所か? こうか? こうか?

 とにかく適当におしまくって──



 ──ドクン



 ── L I M I T  B R E A K ──


「……ォ?」


 体の感覚が、変わった。

 直感的に、いける、と分かる──

 手近な骸骨を掴み、引きずり倒そうとして──


 ガリッッ!


 引っ掻いた。指先からほとばしる銀色の光で。

 すると引っ掻いた部分が、砕けて消えた。


「えっ、何?」


 上空からメーリンの声がする。


「何、今の。ダメージ表示もなしに……!?」


 よく分からないが、今なら先へ進める!


「なっ、なに、あれ!? 削ってる……構造体を!? オブジェクト自体を破壊して!?」


 なぎ倒す、なぎ倒す、なぎ倒す。

 立ちはだかる敵を掴み、削り消して、投げ捨てる。

 いつの間にか雄たけびを上げていた。獣のような咆哮を。


 オオオオォォォォオオオオオオオオオ!


「ひッ──」


 ついに射手にたどり着き、その頭を消し飛ばす。

 隣の巨大な獣の腹を掻き消し、冠をかぶった骸骨を引き摺り下ろす。

 思いがけず素早く、手にした槍で突かれる──



 1



 槍を握り消し、骸骨の眼窩を爪で穿ち、消す。


「あっ、うあ……ハッ! そ、そだっ」


 メーリンが慌ててステッキを構える。


「詠唱・メテオストライク! アド・エクスクルードターゲット! アド・エクストラエリア! アド──」


 長い長いセリフの後、空から火の玉が降ってきて──

 灼熱の大爆発が、周囲で吹き荒れた。


 ◇ ◇ ◇


「モルバド──モルバド、モルバドったら!」

「ん──ああ、すまない、考え事をしていた。モルバド……自分の名前だったな。どうした、メーリン」

「いや、ちゃんと聞いてよね? もうすぐ馬車、街についちゃうんだから」


 隣に座っているメーリンが、頬を膨らましながらこちらを覗いてくる。


「何度も言ったけど、おさらいだよ。まず、ステータスは絶対他の人には提示しないこと。公式な場面で必要になることもあるけど、そこはこのメーリンがなんとかするから」


 この世界に自分よりも早く来ることになったメーリンは、その卓越した──メーリンいわくチートな──魔法の技術で、かなりの地位を得ているらしい。人は見かけによらない。


「次、集落を救ったのはこのメーリンの魔法! モルバドは見てただけ!」

「うむ」

「不満かもしれないけど、仕方ないんだからね。この世界でダメージ表示なしにエネミーを傷つけるとか、ありえないんだから。そんな能力があるなんて知られたら、捕まえられて拷問されちゃうよ」

「気をつけよう」


 いまだにどうやってアレが発動したのか良く分からない。何もかもを削り消す銀の爪が。

 メーリンが巻き起こした爆発が収束したら、いつの間にか消えていたし。


「みっつ! 前世の話も絶対秘密!」

「わかった、わかった」


 そうとう、中身が男子だということを知られたくないらしい。


「と──、さあ、そろそろつくよ! クレイシェルの街に! ついたらまず買い物だね……たぶん、平服は装備できると思うし……」

「頼む」


 いまだに自分はパンツ一丁だった。肉体美的には問題ないのだが。


 集落を離れ、人の集まる大きな街へ。

 この世界の仕組みに、まだまだ戸惑うばかりだが──


「まぁ──なんとかなるだろう」


 ワクワクもしていた。

 なんといっても、娯楽とは無縁だった前世だ。

 第二の生がゲームの世界とはなかなか──刺激的ではないか。、


続きません。なんとなく、息抜きに。

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