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あの夏までの距離とアクセス  作者: 七海ニケ
沈黙エクスプレッション
2/2

解決編

=====================


 携帯の着信音が鳴った。

 西原は携帯を持ってないので私の、ということになる。

 ごめん、と西原に断って私は部屋を出た。



 五分もたたないうちに通話は終わった。

 「ごめんごめん」

 「まさか、純の親から?」

 言おうか言うまいか迷っているうちに彼が正解を言ってしまった。

 「うん。そうなんだ。純の母親から。すごいタイミングだよね」

 「何か言ってた?」

 「いや。昨日のお礼ぐらい」

 探りを入れてるような感じはなかった。

 「純とも少しだけ話せたよ。でも、遊んでくれてありがとうってことぐらいしか言われなかった。昨日のことについて私も触れにくかったから」

 「元気そうだった?」

 「うん、いつも通りだった」

 「とりあえず大丈夫、なのかな?」

 「そうだといいけどね。小学生女子に不審者がつきまとってるのを想像したくないし、あの子の親が不倫してるのももっと考えたくない」

 彼は私の言葉に目を見開いた。「ちょっと待って」

 「どうした?」

 「純って子、男じゃないの?」

 「言わなかったっけ?女の子だよ」

 「完全に男だと思ってた」

 「あ、そうか。純って男っぽい名前だもんね」

 完全に私の説明不足だった。

 「そうそう。でもたしかに女でもある名前だね」

 彼はそこで、突然奇声を上げた。

 「どうしたの?」ついにおかしくなったか。

 「一つ、最もあり得る可能性をすっとばしてたんだ。不倫よりも不審者よりも現実的なこと。男でも十分考えうることだけど女の子だったらほぼこれで間違いないかもしれない」と彼は一気にまくしたてた。

 「さっきの仮定の話?」

 うん、と彼は勢いよく頷いた。「悪いけど、純に電話をかけてほしいんだ」

 確かめたいことがある、と彼は言った。

 携帯で彼女の家に電話をかける。純の母親に純に代わってほしいと頼んだ。

 「もしもし?何度もごめんね」

 「茜お姉ちゃん、どうしたの?」

 「ちょっと聞きたいことがあったの忘れてて」

 と言ってもその内容を西原から教えてもらうのを忘れてた。

 「ちょっと私の友達に代わるね」と言って彼に携帯を渡した。

 「代わりました」と彼は言った。

 「藤井の同級生のものです、西原祐太と申します……怪しくないですよ……あ、ぼくのこと知ってるんだ。その人です」

 純が何を言ってるか聞こえないけど、さっそく打ち解けたらしい。

 「聞きたいことがあって、昨日のことなんだけど……プールの途中で黙り込んだよね?……いや、怒ってるわけじゃないんだ。藤井も全然怒ってないよ。むしろ心配してて」

 怒ってないよ、と私も声に出して言ってみる。

 「うんうん……で、そのときのことなんだけど……」

 彼は一呼吸置いて言った。

 「あのとき、前歯が抜けたからずっと黙ってたの?」




 「え、あ、やっぱそうなんだ……そうだよね、わかるわかる。ぼくもそうだったし……もう謝らなくていいよ……うんうん……え?いやそんなことないよ。違うって……そんなことないよ……期待されても困るって……じゃあお姉ちゃんに代わるね」

 と、彼はいきなり携帯を返してきた。

 「もしもし?」

 「あ、茜お姉ちゃん?」

 「うん」

 「今日二回目だね。昨日はゴメンね。黙ってるつもりだったんだけど実は、ウォータースライダーの衝撃で前歯がぬけちゃって」

 「え、言ってくれればよかったのに」

 「お母さんに口の中にものが入ってるときはしゃべるなって言われてたし」

 そうか。そういうことだったのか。

 「それに、抜けたのが前歯でちょっとマヌケに見えるかなって思っちゃって恥ずかしかったんだ」

 「マヌケ?」

 「前歯抜けた顔ってマヌケに見えるのかなって思っちゃって。それに血がでてるからプールにいられないし。ティッシュも持ってなかったから口開けなくて」

 「そうだったんだね」

 「うん。黙っててごめんなさい」

 「いいよいいよ、みんな歯は抜けるもんだよ」

 「それ、祐太先輩も言ってた」

 「うわ、被っちゃったか」

 「あの人、いい人だね」

 「うん、そうだよ」私は自信を持って言った。

 うふふ、と純が変な笑い声を出した。

 「じゃあ、前歯が生え変わったらまた遊びにいこう」

 「そうだね、ありがとうございます」

 そう言って、彼女は電話を切った。

 「西原、すごいね。よく気づけたよ」私は思わず彼の手を取った。

 「七割方合ってると思ってたけど、もし不正解で不倫が真実だったらどうしようって思ってた」

 「どうやって歯が抜けたからってわかったの?」

 「ずっと口を開かなかった、ってことに引っかかってたんだ。いくら精神的ダメージを食らっても、礼儀正しくて憧れのお姉さんの前なら会話ぐらいならするだろうって。口を物理的に開けたくないっていう理由があると考えたとき、小学二年生だしもしかしたら前歯が抜けたんじゃって思ったんだ」

 「口を開きたくないのは抜けた歯が外から見えやすい位置にあるからってことから、前歯って推測したのか」

 「そうだね。口の中にものが入ってるから話さないっていうのは意外な理由だったけど。やっぱり前歯が抜け落ちた自分の姿を、藤井に見られたり写真に撮られるのが嫌だったんじゃないかって」

 「そっか。言われてみれば辻褄が合うね」

 ガムなんて食べるわけがない。

 出血もあったろうし、心配されたくないならますます口を開けないだろう。

 そこまで考えが至らなかったな。

 「男より女の場合が確実だってさっきの発言は?」

 「やっぱり女の子の方が見た目に気を遣うだろうなって思って」

 そういう意味だったんだ。

 「なんにせよ、不倫じゃなくてよかった」

 「考えてみればあれはひどい憶測だったよ」

 ごめん、と彼は頭を下げた。

 「最後に聞きたいことがあるんだけど」と私は切り出した。「あの子と最後に何の会話してたの?」

 期待とかなんとか。

 「な、内緒だよ」と彼は珍しく慌てた声を出した。

 「変なこと吹き込まれなかった?」

 「全然」

 「ならいいけど」

 ……ほんとかなぁ?

 「もうそろそろ帰るね。今日はいろいろありがと」

 私は荷物を取って立ち上がった。

 「こちらこそ、今日は楽しかったよ。ケーキもノートもありがとね」

 そこで彼は一度下を向き、そして私と目を合わせて言った。

 「学校、早く頑張って登校するから」

 「無理しなくていいんだよ?」

 「してないって。藤井こそたまには学校休んでいいんだよ?」

 「そっか。私も学校サボりながら気長に待ってるよ」

 一つ、頼みたいことがあった。

 「その藤井って呼び方やめてくれない?」

 「え、なれなれしかったかな?ごめん」

 「うーんそんなことはないんだけど」

 「じゃあ藤井さん?」

 「距離置きすぎ」

 「藤井様」

 「絶対に尊敬してないだろ」

 「藤井殿」

 「それだけはやめてほしいでござる」

 彼はひとしきり笑ったあと、ひと呼吸を置いて言った。「じゃあ」

 「じゃあ?」

 「茜、とか?」

 「……うん、いいね。しっくりくる」

 何となく、その答えを二人とも待っている気がした。

 「じゃあまた今度ね、祐太」

 そう言って、彼の顔も見ずに部屋を飛び出した。


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読んでいただきありがとうございます

いかがだったでしょうか?

やってること推理でもなんでもねぇじゃん!というツッコミに関しては許してください


どうでもいい裏話をすると、藤井と西原が主要登場人物(主人公ではない)として出て来る長編を書いていたのですが、その長編に少し行きづまったので、気分転換に気に入ってたキャラで過去編みたいな形で書いてみました

スピンオフの方が先に出るというよくわからない状況ですが、本編を8月末に上げると思うのでそちらのほうもよろしくお願いします


こちらのほうはアイデアが思いつき次第、適当に投稿していくのでどーなるかわかりません

ショートケーキについて意味深に載せましたがそれに関しては未来の自分にまかせます 頑張れ


ではまた機会がありましたら、よろしくお願いします

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