一歩前へ進みたい
はじめは右に曲がった。次は左。その次は直進で以降、右左右左右左右左だった。
そして現在、目の前には分かれ道がある。
焦りが募る。
残り時間、なんと後3分。
後ろには体育館の扉。
タイムリミットが近づいているのにも関わらず、俺は一歩も前に進めていなかった。
歩く度に道は変わっているが、完全にループしてしまっている。
この状況から抜け出す為に体育準備室に入ろうとするも、鍵がかかっており失敗。
閉鎖中であるはずの体育館にはかかっていなかったのにそりゃ無いぜ。
それならばと、がむしゃらに進み続けるも失敗。勿論、後ろは振り向かなかった。
しかし残念ながら結果は、ずっと体育準備室の扉が俺と併走しているという違和感に苛まれるだけという結果に終わった。
おかしいよな。俺、廊下を何度も曲がってるんだぜ?
苛々してきたので目を閉じて深呼吸をする。
静まれ俺、こういう時こそ落ち着いて行動するべきだ。分かってるだろう?
…………………………………さて、落ち着いたところで本題に戻ろう。
何をすれば脱却出来るのかを考えようではないかーーというのは違うな、前にやったゲームに同じ様な仕掛けが在った。その時に俺はどうやってこの難問から抜け出したのかを思い出そう! が、正解だ。
テンションがおかしいから落ち着いてないって? 気のせいだよ、お前疲れてんだよ。
実を言うと一つ頭に思い浮かんでいる。以前やったゲームで実際にあった攻略法だ。
足元や周りに何か他の道とは違う印を見つけ、その方向へと進むというものだ。
割とRPGとかでよく在る仕掛けなのかもしれない……が、しかし今は試せない。
何故なら前に進まないからな、俺が。
せっかく目の前には、その方法を試せと云わんばかりの分かれ道が在るのだが、残念だ。
「なんか他にあったような……」
思い出せそうで思い出せない。
無意識のうちに一歩前へと足を進める。
もう一歩、さらに一歩。
後ろにはやはり体育館の扉。
「……ん? もしかして振り向かないのが間違っていたのか?」
前にはいくら歩いても進めなかったのだが、後ろにならどうだろうか。
一度体育館の中へ戻ってみたら?
もしかしたら体育館に変化があるかもしれない。無かったとしてもまた廊下へ出れば違うかもしれない。
そう思いついた瞬間、もう俺の手は扉を開けていた。
タイムリミットが迫っているのも理由の一つだろうが、ループし続ける廊下に対しての苛立ちや、状況が変わらない事に対する不安も少なからずあったのだろう。
藁にもすがる想いとはこういうことなのだろうか。
ゆっくりとそんな事を考える頭とは裏腹に、俺の身体は勢い良く、扉の向こうへと駆け込んでいた。