なぜ加工できたのか、それは憶測の域を出ない。ちなみにそれは、魔力操作スキルの隠し要素。
「室長。もうすぐ、ジャイアントボアが見つかりそうです」
「そうか。意外に早かったな」
「ええ。確かにそうですね。………幼女ちゃんを見ますか?」
「…………ああ。頼む」
ふ
「え~と。何か装備と防具をつくるみたいですね」
「そうだな」
「あのレベルの素材を、現段階で加工可能なのですか?」
「普通に考えれば無理だな。だが、あのプレイヤーは防具生産職のなかでもトッププレイヤーだから、スキルランク引継ぎを行っているはずだ」
「なるほど。それならば、加工可能ですね」
「ああ。加工道具を大量に消耗すると思うがな」
「そうなんですか?」
「スキルランク的には可能でも、加工のための道具のランクが足りていない。だから、加工はできるが、道具は消耗する」
「そうなんですか」
「しかし、あれだな。僕っ娘は素晴らしいな」
「……………………」
「っと、すまなかった。つぎはドラゴン素材で武器と作るつもりのようだな」
「ドラゴン素材はさすがに」
「いや。このプレイヤーも武器生産職のなかでもトッププレイヤーだから、スキルランク引継ぎを行っているはずだ。どれに、たしかβテストでも下位蛇竜がいたから、加工方法もわかるだろう」
「加工方法は同じなんですか?」
「ああ。下位蛇竜は、赤竜の眷属的な種族だ。あのドラゴン差材は橙竜で、あれも赤竜の眷属竜だ。だから、おなじ加工方法でも加工ができる。これが緑竜や黄竜、青竜だったら、加工は不可能だったな」
「細かい設定があるのですね」
「それはそうだ。あの世界は“世界”だからな」
「そうですね。それに、あっちの世界で自然にできたものですから、設定というのは間違いですね」
「ああ。その通りだ。しかし、運がいいな。偶然とはいえ、唯一加工方法が分かっている赤竜の眷属竜を倒すとはな。しかも、スキルランク的にぎりぎりのランクのドラゴン素材だ。まあ、道具が合ってないから、消耗は半端ないだろうがな」
「なるほど」
「まあ、憶測の域を出ないが、実際に加工してからのお楽しみだな。生産職のほうも、加工道具に関しては気付いているだろうから、問題はないだろうし、加工方法もβから変更してないからな」
「加工方法は、あちらの世界を基にしてましたからね」
「ああ。それで、他のプレイヤーはどうしてるかな?」
「皆さん、順調のようですね。まあ、まだ大きな違いはありませんが、各プレイヤーのスキルにも、工夫が見られますね。それでも、ステータスの差は、ほぼない様です」
「これからか。精霊祭には間に合いそうか?」
「十分間に合いそうです」
「ならば、問題ないな。やはり、一人でも町に着いたら、“道”を解放できるようにしたのは大きかったか」
「そうかもしれません。エレスト以降も同じ仕様にしますか?」
「いや。エレスト以降は予定通りでいこう。そのほうが面白くなりそうだからな」
「その場合、生産特化のプレイヤーには厳しくなりませんか?」
「そのままではな。そのためにいくつかの道筋を、用意してある」
「道筋ですか?」
「そうだ。大きく分けると3つある。1つ目が、ギルドでギルドマスターを含む、ギルドの過半数が次の町に到達すること。2つ目が、ギルドで同盟を組み、同盟盟主と各加盟ギルドのギルドマスターが、次の町に到達すること。3つ目は、異世界人でなく、現地の住民が使う道で、時間をかけて次の町に行くこと。だな。その他にもクランでクランマスターが到達した町に、クランマスターの同行者というかたちで行けるな。まあ、クランはそう簡単につくれないけどな」
「そうなんですか。という事は、時間があればどこまでも行けるわけですね」
「そうだ。それに道中の敵も、あまり強くない。ある程度強い魔物や盗賊は、冒険者ギルドに討伐依頼が出たり、国の騎士団に討伐されるからな。ただし、身分証がないと、道中の検問を通れないがな」
「身分証っていうと?」
「定番はギルドカードだな。それ以外にもあるが、ギルドカードが一番簡単だな」
「なるほど」
「室長! 主任!」
「どうした!」
「どうしました!」
「幼女ちゃんの契約者が、未開拓地にいる明らかに格上なボスを討伐してます」
「中々やりますね」
「そうだな。中々やるな」
「何悠長なことを言っているのですか!?」
「そう言われても、あっちの世界の住人だからなぁ。彼女は少し違うが、まあ、似たようなもの。と、言うことにしよう。それにさ、向こうの住人が困ることをしたわけでもないしな。自然の脅威としてつくった魔物だから、問題ないよ」
「ですが、あのような強力な物が出回ったら、まずくないですか?」
「そこら辺は大丈夫だ。強力な武器や防具には、装備するための下限制限がついているからな」
「そういえば、そうね」
「下限制限とはなんですか?」
「下限制限は、文字通り、武器や防具を装備するために必要な最低限の能力値よ。プレイヤーメイドなど、人がつくったものにはないけれど、モンスタードロップには必ず存在するのよ」
「そうなんですか。知りませんでした」
「それはそうだろう。あちらの世界での常識と、こちらの世界の常識は、似てるところは多々あれど、同じなわけではないからな」
「地球であって、地球でないですからね」
「と、言っても、地球と倫理観はほとんど変わらない様だけどね」
「それが幸いだな。まあ、さすがに悪が蔓延り罷り通る世界じゃ、すぐに滅んでいただろうからな」
「確かにね。と、言っても政治の不正や賄賂なんかも存在するし、賊や詐欺師なんかの犯罪者もいるけどね。それに、実は奴隷制度がある国も存在するし。まあ、奴隷と言っても契約魔法によるもので、人権しっかりしてるし、条件満たせば即解放だけどね。それに契約魔法の原理上、賊に拐われて奴隷に堕ちるとかないからね。賊に殺されたりすることはあるけれどね」
「そう聞くと、あの世界は、こちらの世界とは異なる世界だと実感できますね」
「そうだな。実際に独自に進化した世界だからな。俺たちでも、すべての把握は不可能だ」
「室長! 主任!」
「今度はどうした!」
「今度はどうしました!」
「幼女ちゃんが、何かとんでもないモノを作ってます」
「「どういうこと!」」
「これです!」
「これは! ………室長。これはまずくないですか」
「いや。これは大丈夫だ」
「そうなんですか?」
「ああ。あの秘薬は、魔力操作があれば簡単にできる。魔力を大量に注ぎ、魔力過多状態でできるものだからね。こういう事が出来るのが、魔力操作スキルの隠し要素というか利点だよ。まあ、幼女ちゃんの魔力量が異常に多いのもあるな。あと、魔力を注ごうと考える柔軟な発想が必要だが」
「でも、あんな性能高くていいの? 他のポーションも効果が高いし。バランス崩れない?」
「大丈夫だ。まず、ポーションだが、他のポーションよりも魔力蓄積時間が長いからな。秘薬にいたっては、魔力蓄積時間が現実時間で300時間で、しかも魔力蓄積時間中にポーションなどを使用すると、重度の魔力酔いになる。2つ目を使ったら死亡するからな。簡単につくれる分、デメリットも大きいのだよ」
「なるほど。しかし、蘇生薬と万能薬はいいのですか?」
「蘇生薬は、デスペナルティが発生するし、ペナルティ時間も倍になるから。万能薬は、そもそもプレイヤーは病気にならないから、あれはNPC用アイテムだよ。状態異常を治すにしても、魔力蓄積時間の長さを見ると、割にあわないからね」
「それなら大丈夫そうですね」
「まあ、それでもポーションは、中々強いけどね」
「やっぱりそうなんですか?」
「魔力蓄積時間が長いと言っても、通常ポーションの倍くらいだから、日頃は回復魔法で、間に合わない場合にポーションって感じなら、十分だからね」
「なるほど。でも、そこまで出来るならプレイヤーなら、問題ないわね」
「その通りだ。だから、結局問題ない。ってことだ。補則すると、調合系で作成できるもので、アイテム名にプレイヤー名が入っているモノは、基本的に魔力を大量に注ぐことでつくれる。強力なモノが出来やすいが、一度しか使えない様なモノがほとんどだな。と言うか、絶対安全に使えるのは、始めの一回限りだな」
「そういえば、調薬スキル持ちは今いるのかな?」
「調薬持ちはいません。探している人もいないようです」
「そうですか。調薬スキルの価値を知るのは、もう少し先かな」
スキルの可能性を思いつつ、今日も時計の針は進む。
ちなみに室長も主任も、時計はアナログ派である。