愚か者の十戒
一
私は巧妙に善人を装い、そっと貴方に近づきます。
そのことで貴方を不幸にするかも知れません。
私とお付き合いをする前にどうかそのことを考えて下さい。
二
私は「貴方が私に理解してほしいこと」を、溢れる涙や共感の言葉をもって受け止めます。
しかし、それは真実ではないのです。
いつか貴方の優しさを利用するための小芝居なのです。
三
貴方が私を叱りつけたとき、私は淡々と反省の弁を述べ、涙を浮かべながら子犬のような目で許しを請います。
しかし、全く反省などしていないのです。
心中では貴方のことを醜く罵っているのです。
四
貴方が私に優しい言葉をかけたとき、私は憂いのある目で「ありがとう」と答えます。
しかし、これは巧みな罠なのです。
蜘蛛が糸を張るように、見えない罠をそっと仕掛けているのです。
五
私が貴方に優しい言葉をかけるとき、私は暖かい微笑みを湛えて「心配ないよ」と囁きます。
しかし、その微笑みの意味を考えてみて下さい。
その目の奥には、偽りがそっと身を潜めているのです。
六
私が突然、涙を流したり、パニックを起こしても決して驚かないで下さい。
実際には何事もないのです。
精神的な不安定を装い、貴方の同情を引こうとしているだけなのです。
七
私の陰口は、私の耳には入らないように配慮して下さい。
実は気が小さく、疑心暗鬼になりやすいのです。
ひとたび私の耳に入れば、私は同じ手段をもって貴方に報復することでしょう。
八
私に何かを貸すときは、返ってこないと思って下さい。
返す気など毛頭ないのです。
その街を離れてでも、返すことを拒み続けるのです。
九
私が悩みを打ち明けるとき、話しは半分に聞いて下さい。
現実味のある切ない境遇を話しますが、どこかで辻褄が合わなくなります。
情に絆されるようなことがあれば、貴方の利益が損なわれます。
十
貴方が私のことを、嘘偽りなく信じるときは、私と過ごした時間をもう一度思い出して下さい。
貴方の心は穏やかだったでしょうか。貴方にとって様々な不利益は無かったでしょうか。
それでも私を信じてくれるならば、私は貴方の生涯の友となります。
でも…忘れないで下さい。私が貴方を欺き続けるということを。




