大学戦争勉強会
翌日、夜弦は律儀に戦争部の部室に訪れた。
逃げる意味がないと、内心諦めていたのだ。
というより、昨日に目撃したあの足運びからして、自身の逃げ足では到底敵わないと思っていた。
「遅いぞ夜弦。中間テストのためとは言え、予定の時間に遅れるのは褒めたものではない」
部室に入って開口一番、戦争部実行役部長の快から、そんな叱咤を浴びせられた。
「勉強は関係ありませんよ。というか、俺は無駄に勉強しないので、ガリ勉と一緒にしないでください」
「眼鏡をかけているのにか?」
「それも関係ないです」
全眼鏡着用者がそうとは限らない。大抵の人は、目が悪いからそうなっただけだ。
「まぁいい、今日来たのは他でもないのだ。貴様には昨日言った、大学戦争のことを詳細に説明する。貴様は我が戦争部の期待の星の一つなのだ」
「プレッシャー浴びせるような期待はやめてください」
仕切り直し、夜弦は部室にある黒板の前で正座し、黒板の傍らに快が立った。
手には白いチョークが握られている。
「では、『大学戦争』について詳しく説明する」
黒板にチョークを走らせながら、説明を始めた。
「『大学戦争』は、主に舞武器を用いて戦う。舞武器以外でも、本人が戦えるというのなら、刀剣や拳銃を使用しても構わない。
「(知っている)」
夜弦、鹿留夜弦は内心そうおもった。何故なら彼は、『大学戦争』を初めから知っているから知っていた。
しかし、それでも夜弦はそんな政策を受ける事を、心から拒んだ。
「夜弦、何か質問はあるか?」
ここで、快が夜弦に問いかけてきた。
ぼーっとしていたためか、夜弦は聞いていない。
「……え?あ、いや、特には……」
「そうか」
そうか。とは言うが、彼女が向けていた眼光は間違いなく『聞いているのか?』と言っているようにも見えた。
「ではこれより、舞武器について説明しよう。こっちに来てくれ」
黒板から移動して、部屋の隅にある扉を開ける。夜弦も快の後を追うように、部屋の中に入った。
部屋の中には、掃除道具、食器、調理器具、工具等、一歩間違えば凶器になりうる物ばかりである。
「ここは、舞武器となりうる物を収納している部屋、いわば武器庫だな」
壁にかけているバールを手に取る。
「舞武器は当人の腕によって違ってくる。例えばこのバールは、防御貫通に向いていて、使い方によってはフックにもなる。ちなみにわたしの場合、靴が舞武器だ」
「靴?」
そう言って、快の足元を見る。彼女が今履いているのは、運動に最適なバッシュだった(しかも夜弦が知っているメーカーだ)。
「……まぁ普段はこんな靴だが、本命は違うぞ?何のかは教えない」
何かともったいぶる快。
そうやって夜弦に興味を持たせようとしているのだろうか。
しかし当の本人は、そんな気は毛ほどに思っていなかった。