#10ー5
エルを見送った二人は、情報屋の外に出た。
路地には膝丈ほどに雪が積もっている。二人は、空から舞い降りる白い粒を眺めながら、じっと押し黙っていた。ゆっくりと流れる静寂。それは、彼らにとって心地よいものだった。しばらくのあいだ、不規則に落ちる雪だけが時を刻んでいた。
「あの日と同じだね」
最初に口をひらいたのは恭助だ。
ああ、と死神は短く答える。彼は鎌を肩に担がせながら、ふと小さくため息をもらした。
「もう答えは決まっているのだろう」
「え?」
恭助はどきりとした。
まるで心の内を見透かされたかのような気がしたからだ。
「うん……僕、生まれ変わるよ」
死神は表情ひとつ変えなかったが、「そうだろうと思っていた」
その声には若干の寂しさのようなものが滲んでいた。
「ここでお別れだな」
死神は鎌の柄で地面を軽く突いた。
降り積もった雪の中から、音もなくそれは姿をあらわした。劇場の舞台下からせり上がってくるように、彼らの前にあらわれた青銅の扉――それは、“あの世”と“この世”をつなぐ扉だ。
「また、会えるよね?」
恭助は名残惜しそうに口をひらいた。
「ああ――この世に“死”というものが存在する限り、我々も存在しつづける。お前が次の人生で死んだら、会えるかもしれないな」
「そのときになったら、迎えにきてよ」
死神は少し困惑したような表情をしたが、「可能なかぎり……上層部にかけあってみよう」
「ありがとう、約束だよ」
「ああ」
恭助は死神に背を向けようとして、「あの時、助けてくれて……ありがとう」
「あの時?」
「ほら、10年前――」
「あ、ああ……あの事故か」
死神はそのことを完全に思い出したようだった。
「私も他人のとこをお人好しなどとは言えないな」
「え?」
恭助は目を疑った。
死神がやさしく微笑んでいたからだ。
「何がおかしい?」
急に真顔になった死神に、なんでもない、と恭助はあわてて首を横にふった。
「時間だ」
死神は懐中時計を確認しながら、「早く行ったほうがいい――“あの世”にも面倒な手続きがあるようだからな」
「うん……僕、行くよ」
恭助は意を決して扉の前に立ち、両手で扉を押し開けた。
中から暖かみのある白い光があふれだし、恭助の身体を包み込んでいく。どこか懐かしい声が恭助の名を呼んだ。幼少時、事故で亡くなった両親だ。彼はそう直感して嬉しくなった。恭助は彼らに手を引かれるようにして、扉の中へと吸い込まれていく。
振り返るとそこに、死神がいた。
「ありがとう、しにガミ……」
恭助はやさしい光の中へと飲み込まれていった。




