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しにガミ  作者: 夢邑 ひつじ
第 10 章「再会」
46/48

#10ー4



 グロリアが連行されていくのを見送ったあと、恭助たちは情報屋の喫茶店に足を運んだ。店内には誰もいない。エルにうながされ、恭助と死神はカウンター席に腰かけた。

「またこうやって、恭助と一緒にお茶を飲むことが出来るなんて──“死神”であることに感謝しなくてはね」

 恭助も同じことを思っていた。

「伯父さん……いや、局長?」

 急にかしこまったような口調になる恭助に、「伯父さんでいいよ」

 と、エルはやさしく微笑んだ。

「伯父さん、僕……」

 何も出来なかった。

 恭助は泣きそうな表情で口ごもった。

 エルがその心中を察したのかどうかは定かではない。

「お前はよくやったよ、恭助」

「え? で、でも……」

 恭助の目の前にコーヒーの入ったカップが置かれた。香ばしいかおりが鼻をくすぐる。懐かしい、と恭助は思った。生前はよくこうして、二人でコーヒーを飲んだものだ。もっとも、今は二人だけではない。死神は眉をしかめながら、「私はもっぱら紅茶なのだが……」

 と、小声でぼそりともらした。

 何かかけようか、とエルはカウンターの隅に置かれた蓄音機に手をかけた。脇に積まれたレコードの中から適当なものを選んで、「これがいい」

 恭助が好きだった洋楽アーティストの曲だ。

 波打つように刻まれるピアノの旋律が耳に心地よい。

 しばらくのあいだ、そこには穏やかな時間が流れていた。恭助にとって、もう二度と戻れないと思っていた、しあわせな時間だ。彼らは音楽を聴きながら、ゆったりとコーヒーを楽しんだ。

 死神もそれを気にいったようで、「悪くはないな……」

 と、カップの中身を飲み干して息をついた。



「恭助はどうしたい?」

 曲が終わったところで、エルはおもむろに尋ねた。

「──“死神になる”か、“あの世へ行って転生する”か、好きな方を選ぶといい」

「ぼ、僕は……」

 恭助は口ごもった。

 あの時、グロリアと対峙した彼は、一度だけ決意していた。“死神になって、この悪夢を終わらせる”と──しかし、今。完全に悪夢は姿を消していた。

 これから先も、大好きな伯父や死神といっしょにいられたら、どれほどしあわせだろう。しかし、恭助が気がかりだったのは、“ちいちゃん”の存在だった。生まれ変わって、もう一度彼女に会いたい。その時こそ、伝えたい。自分の本当の気持ちを──恭助の心中を察したかのように、「──まあ、まだ時間はあるから」

 と、エルはにっこり微笑んだ。

「それにしても、驚かされたな。君が真っ赤な薔薇の花束をかかえて、僕の前に現れた時には」

「あ、あれは……」

 死神は恥ずかしそうに目を伏せた。

「本当は“禁則事項”なんだけど、今回だけは見逃してあげるよ。君の働きのおかげで、小林さんも恭助の死を乗り越えられたみたいだからね」

「きょ、恐縮だ」

 死神はぎこちなく答えた。

「何より、グロリアを逮捕できたのは君たちのおかげだ。死神局の局長として、感謝するよ。Au1208」

 エルは誇らしげにそう言った。



「伯父さん……」

 恭助は不安げに切り出した。

「“あの世”ってどんなところなの?」

「ああ、それは人それぞれだよ」

 エルは曖昧に答えたあと、「実際にはこの世界とあまり変わらない。ただ、奇麗なところだとは思う。“あの世”自体は死神の管轄じゃないから、何とも言えないんだけど……」

「そうなんだ」

 恭助は少し安堵したように息をもらした。

 エルは自分のコーヒーを飲み干したあと、「じゃあ、私はそろそろ死神局に戻るとしよう。面倒な手続きが待っているからね」

 そう言って苦笑をもらした。

「伯父さん、また会えるよね?」

「ああ、もちろんだ」

 彼はローブを羽織りながら、にっこりと微笑んだ。




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