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しにガミ  作者: 夢邑 ひつじ
第 9 章「捨て駒」
39/48

#9ー1



 喫茶店【memento moriメメント・モリ】を飛びだした彼らは、真夜中の商店街をひたすらに駆けた。シャッターの下ろされた店を通り過ぎ、薄暗い路地を抜け、静まり返った住宅街へ――角をまがったとたん、彼らはどちらともなく足を止めた。

 正面の外灯の下に、すらりとした人物が立っている。

 誰だろう。

 もしかしたら、【亡魂ロスト】の残党かも知れない。

 死神は恭助を背後にかばいながら、その人影に目をこらした。



「お、お前は……」

 彼らの前に姿をあらわしたのは、シュヴァルツだった。

「後始末はもう済んだのか?」

「ええ、おかげさまで」

 シュヴァルツはにっこりと微笑んだ。その手には、長い剣が握られている。彼はそれを肩に担がせながら、小さくため息をもらした。

「たいしたものです、Au1208」

「何の話だ?」

 シュヴァルツは小さく笑ったあと、質問には答えず、「ひとつ、良いことを教えてさしあげましょう……ゼロは、【死神くずれ】ではありません」

 恭助は小さく息を飲んだ。

「なんだと?」

 死神も心なしか動揺しているようだった。



「何故、お前がそんなことを……」

「愚問ですね。わたくしが何百年この仕事をしているとお思いです?」

 ゆっくりとした足取りで近づいてくるシュヴァルツに、死神はいぶかしげな視線を向けた。灰色の瞳に緊迫の色が浮かぶ。蒼白い月明かりのもと、不気味な沈黙が漂った。シュヴァルツは、相変わらず取ってつけたような笑みを浮かべながら、

「それは、さておき……」



 次の瞬間、鋭い風が飛んだ。

 刃の切っ先が死神の鼻先をかすめる――反射的に身をらした死神は、恭助の腕をひいて飛び退すさった。

「Au1208……あなたには、ここで消えていただきます」

 死神は瞬時に、振りおろされた刃を両手で受け止めた。白い肌に血がにじむ。彼は少し表情をゆがめながら、

「逃げろ、恭助!」

「で、でも……」

「私のことは心配するな!」

 恭助は慌ててうなずき、勢いよく駆けだした。



「──まったく、無茶をなさいますね」

 シュヴァルツはあざけるように笑った。恭助の姿が闇に消えたのを確かめてから、死神はようやく刃から手を離した。蒼白く映しだされた地面に、ぽたり、ぽたりと赤黒い血が落ちる。

「何故、こんなことを……」

「あなたが知る必要はありません」

 シュヴァルツは冷たく言い放って、再び剣を死神に向けた。

 鋭い一閃――間一髪、それをけた彼は、宙を舞いながら鎌を拾い、勢いよく横ざまにふった。シュヴァルツはそれを軽々とかわし、相手の胴体を蹴る。死神は一瞬、苦痛に表情をゆがめ、よろめきながら次の一撃を避けた。

 シュヴァルツは容赦なく剣をふり下ろす。刃の切っ先が、何度も何度も死神の頬をかすめた。地面を転がりながら回避した彼は、素早く身をひるがえし、シュヴァルツの背後に回った。重い金属音とともに、剣が天高く弾き飛ばされる。それは空中で何度か回転したのち、からんと地面に転がった。



「そこまでだ」

 剣を拾おうと身をかがめたシュヴァルツの首筋には、すでに死神の鎌があてがわれていた。

「さすがですね……」

 シュヴァルツは諦めたように両手をひろげた。

「やはり、“あの方”に見込まれただけあります」

「あの方?」

「わたくしの口からは申し上げられません」

「お前、自分の立場がわかっているのか」

 死神は怒りをにじませながら声を落とした。

「立場?」

 シュヴァルツは小さく肩をふるわせながら、込み上げる笑いをこらえもせずに、「立場をわきまえるべきは、あなたの方ですよ……Au1208!」

 その刹那、死神は絶句した。彼のまわりを異形の者達が取り囲んでいる――【亡魂ロスト】だ。その瞬間をシュヴァルツは逃さなかった。身をかがめ、刃の切っ先から逃れた彼は、自らの剣を拾い上げ、「わたくしが何の策もなしに、あなたと対峙するとでも?」

「お前が……お前が、【死神くずれ】だったのか!」

「さあ、それはどうでしょうね」

姑息こそくな!」

 死神はまわりの亡魂を相手に鎌をふるいながら、苦々しく吐き捨てた。

「何とでも仰ってください……どうせ、あなたはもうじき消えるのですからね」

 シュヴァルツは不適の笑みを浮かべた。




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