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しにガミ  作者: 夢邑 ひつじ
第 5 章「距離」
22/48

♯5-1



 悲しみを告げる鐘が鳴る。

 街の中心から外れた場所に、ひっそりと佇(たたず)む小さな教会――礼拝堂には、死者を悼(いた)むためにつどった人々が、白い百合の花を手にささやかな列をなしていた。棺(ひつぎ)には、死化粧(しげしょう)をほどこされた恭助が横たえられている。

「恭助……」

 神宮司は思わず口もとを押さえた。まるで、死んだとは思えない。今にもムクリと起きあがって、寝ぼけ眼(まなこ)で笑いながら、自分に語りかけてくる――彼は、そんな錯覚をおぼえた。


 ――ああ。なんだ、伯父さんか。


 ――悪い夢でも見たのか?


 ――いや、全然。そういうんじゃないけどさ……よかったなあ、と思って。


 ――何が?


 ――ううん、なんでもないよ。たいしたことじゃないんだ……それより、なんかお腹すいちゃったな。


 他愛のないやりとりが脳裏(のうり)によみがえる。あの時、恭助は何を言おうとしたのだろう。今となってはわからない。神宮司は、彼の亡骸(なきがら)を見つめながら、ただただ茫然(ぼうぜん)とした。

 別れの時を惜しむかのように、礼拝堂は静かな涙に包まれる。パイプオルガンの音色だけがやさしい旋律を奏でていた。参列者の中に、彼女の姿は見あたらない。



 その頃、小林は公園のベンチでため息をもらしていた。そこは、高台にある城址(じょうし)公園だ。眼下(がんか)には、彼女の暮らしている街が一面に広がっている。そこから、小さな教会も見えた。弔(とむら)いの鐘が聞こえてくる。冷たい風が、彼女の頬(ほお)をなでた。目の前には転落防止のための、柵が設(もう)けられている。ちょうど、彼女の胸のあたりの高さだ。木製のそれは、あちらこちらが黴(か)びていて、少し力を加えたら折れるのではないかと心配になるほど、脆(もろ)さを感じさせる。乗り越えるのは、簡単だ。

 今にも泣き出しそうな曇り空。

 小林は何度目かのため息をもらした。

 彼女の傍(かたわ)らには、コンビニで買ってきたおにぎりやサンドイッチ、飲料水のペットボトルが入った袋が置かれている。昨日から家には帰っていない。といっても、彼女の家に帰りたくない事情があるわけではなかった。

「恭、ちゃん……」

 小林は、おもむろに呟いた。




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