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しにガミ  作者: 夢邑 ひつじ
序章
2/48

♯0-2



 さびれた街の片隅で、私はじっと目をこらした。

 このあたりは昼夜を問わず、深い霧に包まれている。雨上がりの湿った石畳……夜明けを待つばかりの市街地には、ぽつり、ぽつりと点在する外灯の他に、目立った灯りはない。しかし、私の鋭敏えいびんな感覚は、その姿をはっきりととらえていた。

 どっぷりとれた暗灰色。

 その向こうから現れた、ひとつの影。

 颯爽さっそうとレンガ造りの街並みをぬけ、まっすぐに私のほうへ近づいてくる、“ヤツ”の姿を――。


「やはり、な」


 あれは【カラス便】にちがいない。

 くちばしにくわえている、こぶりの封筒――あれは、仕事の依頼である。ヤツがになっているのは、指定された封筒を【死神】に届けること。

 ただ、それだけだ。


 私のはるか頭上を滑空しながら、ヤツは無造作むぞうさに封筒を落とした。ひらり、ひらりと舞い降りるそれは、石畳の床をすべるようにして、私の足もとでぴたりと止まる。

 宛名はない。

 まあ、これを受け取る者は、私でなくてもよいわけだが……残念ながら、周囲には死神どころか、人間の姿さえ見あたらない。まだ早朝とはいえ、街は墓場のように静まり返っている。


 やれやれ、だ。

 今しがた、仕事をひとつ片づけたばかりだというのに。

 せわしなく飛び去っていく【カラス便】を見送ったあと、私はため息を押し殺しつつ、封筒に手をのばした。



「12月16日3時15分……む。日本?」


 私は、ふと手もとから視線をあげた。


 遠くにそびえるのは、この国の象徴的シンボリックな建築物らしい。おもむきのある時計塔――それは、静かにこう告げている。

 午前6時12分。

 目的地との時差は、たしか……私の記憶にまちがいがなければ、あちらでは、もうじき “コト” が起こるはずだ。


 私は内容をざっと読み返し、封筒をローブのふところに突っ込んだ。今回に限って “死因” が不明なのは気がかりだったが、もはや、考えている猶予ゆうよはない。

 これだから厄介なのだ、時差というやつは。


「…………日本、か」


 私は深まる霧のなかを一歩、踏みだした。



 まあ、“上層部うえ” の連中が理不尽なのは、今に始まったことではない。

 仕事は、仕事。

 私はいつものように、与えられた任務をこなす。


 ただ、それだけだ。




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