歯車と君と。
「あ……」
「どうした、少年?」
閃いた僕へと、袖で頬を拭った過去さんが尋ねてくる。ふわりと、白い髪が雫を撒き散らし羽ばたく。
そうだ、まだ希望は残されていたんだ。絶望的だけど、頼れる手段はそれしかなかった。
「葉月だよ。葉月達の世界……七ヶ崎乃々葉が何度も繰り返して復活した様に、何かしらの手段で友人Aを直せる……かも、知れない!」
「希望的観測だな」
「ああ、希望的観測に過ぎない。でも僕達は、諦めなかったから生き残れたんだ。前回みたいに死なずに済んでる。コイツも、ちゃんと助かる筈なんだ!」
友人Aを背に担いだ僕へと、過去さんが無駄を匂わせて呟く。しかし、諦める訳にも行かなかった。
そう、僕達はまだ諦めたくない。この8月8日を、そしてこのヒーローをだ。誰かを守る、唯それだけを役目に生き永らえてきたスーパーマン、いやターミネーターである友人A。彼を、奴を僕達は諦めたくないのだ。
未来さんが立ち上がる、友人Aの腕を抱き抱える様にして僕へと続いた。
しかし、だ。旧理科室を飛び出そうとした僕へと、新たな問題が突き付けられてしまった。いや、忘れていただけなのだろう。
「過去さんは、どうして拳銃なんかを? そして乃々葉、《ルナシェルコール》とはどういう意味だ……? 乃々葉、お前は……」
背中に背負った友人A――右の肩から先が無い為バランスが取れない――奴の具合を確認しつつ、僕の背後で立ち上がった過去さんとその脇に座る乃々葉へと尋ねた。
すると、
「話は後だ。肩を貸そう四十九院、青髪も運ぶぞ」
案の定、過去さんは話題を遮る様にして乃々葉へとそう命令した。
青い髪の少女、未だに目覚めない西園寺百合香の脇へと腕を滑らせて過去さんは言った。
それに対して、乃々葉は疲れた様に呟きながら同調する。
「…………はあ」
さっきの会話はどういう意味が込められていたのだろうか。気にはなるが、確かに余裕が無いというのも揺るぎ無い事実だった。
僕は、今すぐにでも問い詰めたいと焦る気持ちを抑えて校舎入口を目指した。
「おい七ヶ崎」
未来さんが、友人Aを担いで走る僕を軽く追い越して話し掛けてきた。何処と無い違和感。
日が暮れた薄暗闇だ、月明かりがまだ差さない分景色はどこか薄暗く思えた。
未来さんの額には、汗や飛び散った涙の性で前髪が張り付いていた。だから表情全ては伺えない。しかし、声はとても優しかった。
「いや一喜憂よ……ありがとうな」
「どうして――?」
僕には不思議だった。まだ奴を助けていない、そう――まだ、終わっていないというのに――僕がそう付け足そうとしたその時だった。
未来は即座に答えた。あっさりと、そして確かにはっきりと言葉にした。
「――諦めないで、居てくれたからだよ少年A。投げ出したくなかった、諦めたくなかったその時に、傾き掛けた私のリブラを正してくれたのは君自身だ。心の底から有り難う、君は私の恩人だ」
僕に向けられた『有り難う』、その言葉を素直に僕は飲み込めずに居た。
「……いいや、違うね。偶然だよ。全部の原因も、そして結果も、全部が運悪く僕自身の未来と繋がっちゃった偶然なんだ。だから、僕はむしろ……謝らなくちゃいけない」
「いいや、違うね」
遠くに見える正面玄関、ガラス片が散らばるそこを見詰めながらも未来さんは否定した。首も振らずに、言葉だけできっぱりとだ。
「何……?」
僕には、未来の言う『違う』が理解できなかった。
きっと、悪いのは全部が全部、未来の僕と僕自身の性なんだと、そう思っていたから。
まず、何があったか未来の僕が《タイムスリップ》を行った。だから、葉月達の様な未来人がやって来た。そして、僕らは戦い傷付いたんだ。何度も苦しみ、何度も死んだ。
ただでさえ凄惨なそれに加え、未来の僕までもがこの時代に来てしまったらしい。その性で、今度はクラスメイトまでもが傷付いてしまった。
確証は無いが、話の筋道から察するとそうなってしまう。未来の僕か《アバターエヴァン》以外に、仮セツ型でも《アバターエヴァン》を作り出せる技術は無いであろうその筈だからだ。
だから――悪いのは全部僕だと――僕は、そう考え続けていた。しかし、未来さんから返ってきたのは見当違いな言葉だった。
「私は、お前の事も嫌いじゃあない」
「そうか……って、ええ――!?」
「わりかし好きって事だよ、言わせんな恥ずかしい。まあ友人Aには劣っているがな、満更でもないと思うぞ」
「あ、ああ……」
戸惑う、これは困ってしまった。まさかの告白である。いやまあ、優先順位が友人Aの下とも伝えられた訳だが。
そして、そこから未来さんは力説を始めた。
「つまりだな、私はお前自身が気に入ったからこうしている。信頼、とか信用っていう奴だな。……分かるか? つまり、私はきちんと私として考えているんだ。それを『偶然』だなんて糞詰まらない言葉で片付けんな勿体無い! 私達は生きている、息しているし悩んだりもする!! 迷い苦しみ、挙げ句の果てには疲れて死にたくなったりもするだろうさ! ああするね、するんだろうさ!!」
――そして――
「お前は何を望む? 生か死か、違う貴様は明日を望んだ! だから、だからこそ私達だって力を尽くした。ああ力だ、死力を尽くした。そう言っても過言であるまい!! つまりだな……?」
「ああ?」
相槌の声を漏らした僕、確かにそうだと納得する僕へと、未来さんは畳み掛ける様に声を荒げて理論を綴った。
「偶然でも、ましてや運命でもない! デウス・エクス・マキーナ、コペンハーゲン解釈ぅ? そんなん今はどうだって良い!! 私が、私達みんなが選びとった唯一無二の道……他には無い、意思決定で選んだその道こそが最初で最後のの基点世界だ!!」
恐らく既知の理論さ、と未来さんは小さく笑った。それは――《未来取捨選択・基点世界解釈論》なる独自の、或いは出尽くした理論――1人の少女、自称《歩く残念》によって完成を迎えた。
「少年、一喜憂。少なくとも、私はお前達が大好きだ。掛け替えの無い、愉快で素敵な超絶最強ファンタスティック集団だと期待している!! 今は、ファンタジーに巻き込んでも構わない――!!」
少なくとも、少女……天津風未来のその中では。
「――だから、必ず未来を“選び”取れっ!! 少年……! 私が愛した第2の盟友っ……七ヶ崎一喜憂よ!!」
そして、校舎の闇へと僕達は飛び込む。
「ああ、やってみる……きっとね!」
はい、こんばんちはっすお久し振りです作者と申します〜!!
失踪かと思った? 残念、御隠居でしt――いや、本当に御免なさいマジすんませんでした!! いや、殴らないで虐めないでその角は、角はいやあああぁあああ――っ!!?
と、まあ御無沙汰であります作者の『にゃんと鳴く狐っ娘』で御座います。此度は皆様、長らくお待たせしてしまい申し訳が有りません。
理由? ああ理由ですか、多分多忙と気怠さですかね。なんというか、最近忘れっぽくて記憶がポカッと滑落するのですよ、ええそれはもう駄菓子屋の箱くじ丸買いした後みたいに。あーっと、頭の本棚で紙食い虫が暴れている感じ? 怖いです、いつ何を失うかが。
まあ、それでも取り敢えず、今回はトライアンドエラーを繰り返して失われしこの回を書き上げる事が出来ましたよ。これもひとえに、皆様のお陰に御座います♪ 有り難う御座いました。
ええと、今後の更新日程になりますが、いつぞやの様に2日〜3日に1話分を書けるかどうかです。ああ、期待しないでくださいね? 自分、結構心身共々ガタが来てますから、ええそれはもうお前本当に17歳かよって位に。
四月馬鹿じゃないです、信じてください。
私は、本日8時ちょぴっとをもって、今此処に8割がた復活致します!!(言い切らないのが私クオリティ)
これからも、皆様末永〜っくよろしくお願いいたします!! 以上、狐っ娘でした〜! にゃん♪
P.S.なんだこのキャラ、昔の後書き見るとヤバい位に大暴走じゃないですか。こんなんでいいの? こんなんで良かったの私!? いやまあ、取り敢えずは、また明日明後日にでも逢いましょう……ね?
逢えましたら、ですけれども。




