事象反転天罰ゲーム;零
「先手、好きな様に引けばいいさ」
返答の間もなく、私の目前でリトマス試験紙大の紐くじ紅白2本が混ぜられ、その一端が差し出された。未来の未来さんこと過去さん、彼女は予めこうなる事を見越していたのだろうか? 不敵な笑み、鋭い眼光からは敵意にも近い警戒しか感じる事は出来ない。《ルナシェルコール》、確かに彼女はそう呼んだ。私を、或いは私の中の何かを。
拭いきれない不安、目前で混ぜられたくじと言えどもどこか打ち払えない怪しさが残っていた。多分それは、この学校まで来る間に駆使した反則技のせいだ。自分がした事が返って来ている、相手が同じ策略を練っているとすれば、私の取れる手は全て見破られているのではないのだろうか。不安が色濃くなる、早く引けと突き出されたくじ、それを私は睨む様に観察した。
「どうした? 紙は唯の紙だろう、そんなに見ても紅白なんざは分からんぞー?」
にやり、相手の過去さんがほくそ笑む。やはり怪しいが、逃げようにも膝の上に頭を乗せて寝込んでいる青髪の少女、西園寺百合香さんがどうしようもなく邪魔なのだ。いや、仮に彼女が居なかったとしても逃げ切れる見込みは薄い。未来さんの運動神経は過去でも数度目の当たりにしているし、恐らく腿などの細かい箇所が引き締まっている事から推測するに彼女の方が運動能力も伸びている。学生と青年期の大人だと、明らかに後者の方が肉付きが良いのだから、此処で逃げに出るのは愚策でしょうね。
「さあ、私は待たされるのが嫌いだ、早く引いてはくれないだろうか?」
「勝手に始めておいて随分な物言いですね。では……」
天罰ゲーム、彼女“は”そう呼んだこのゲーム、これはゲームという口約束を巧妙に利用した尋問に近い何かだ。どちらかが黙秘すれば、ゲームはそこで破綻する。ゲーム自体にくじ運というランダム要素を絡めて、それの旨みで相手を惹きつけ続ける。自分と相手、互いに秘密と興味とが存在しえねば成立こそしないが、成立さえすればまず抜け出すのは容易ではない。
非常に厄介ですね、彼女は恐らく口が上手いですから。このゲーム、負けたら質問に答えるといっても、“嘘さえ言わなければ、必要以上に語らずとも良い”だなんていう理不尽が成立していますから尚更です。出来れば秘密は秘密のままで、そう願いたいものですけどね……。
「白です」
「そうか、なら……私だな?」
私はつい、安堵の息を漏らしてしまった。私はどうやらついてるらしい。私は手渡させたくじが紅白である事、その細部に目印が無いかを確認してから握り直し、更に数度ばかり位置をずらしたり入れ替えたりした。意味が有るかは分からない、彼女の指先が迷い無く此方へと伸びてきたからだ。その先は白、そして彼女はそれを真っ先に引き抜いた。
「白だな、残念か?」
「そうですね……」
「はぁー……、惜しいなぁ?」
さも残念そうに肩を竦める過去さん。何か有ったのだろうか一瞬フラリとふらついた彼女はテーブルへと重心を預けた、器用にも彼女は右手の内でくじを捏ねくる様に混ぜつつ言った。背後にあった左手を目前へと突き出した彼女は、そこに右手を重ねてキチンと握り直した。そしてにこりと彼女は笑う。私の背筋を冷や汗が伝った。
「なあ、提案だ。攻守の関係性を入れ替えないか?」
「はあ……? どういう了見でしょうか?」
私は質問する。この提案が持つ意味、それが孕み得る危険性とチャンスとを思慮する為に疑問を呈した。すると過去さんは、唐突の提案にしてはあまりにも饒舌に答えてみせた。厄介な人だ、とてもじゃないが意図が読めない。読める意図、それは策略が有るという大雑把な物だけで、まさしく手の内自体は一片たりとも想像が付かない。
「簡単な話だ、チャンスは自分の手で掴み取りたくは無いか? 私はどうも待つのが苦手だ。おっとこれは先にも述べたな? とにかく、赤を引いたら質問を受けなければいけないルールから、赤を引いたら質問できるルールに変えてはどうかという訳だよ。どうかね?」
「…………」
これは、一体どうするべきなのだろうか。彼女のくじ、仕掛けがあるにしても素人目には分からない物なのだろうか。だとすればこの提案は危険、彼女に“赤を確実に引く自信”があるという事実を、暗示しているどころか明示している様な物だからだ。やはり細工がある。だとすれば先に赤を引かなかった事はつまり、なんらかの“紅白を区別する手段”を用いている事が確定する。
彼女はズルをしている、私よりも遥かに狡猾なズルをだ。
なんとい事でしょうか。これは提案を飲むべきでは無い、しかし細工がくじに対する物ならばまだ抗う手段が有るには有る。それはくじを取り替える事、私の手中にあるちり紙製の安っぽい紐くじへと変えることだ。ただ、私のズルは自分にも相応の対価が返ってくるものばかりだ。一体どうすれば、一体どうすればこの場を切り抜けられるのだろうか。
「さあ、どうだね? それとも……君には、それが不可能な理由でもあるのかな? ふふっ、だとすれば卑怯者だな。どだい無理な話だ、私には君の手の内がエッジワース・カイパーベルトの向こうにも、或いはエピック・オールトの雲そのものの様にさえ思えてくるよ。人が知り得ぬ神秘の世界だ、くくっ……素晴らしくエキサイティングだとは思わんかね? なんて言ったり、な……ふふっ」
「っ!? 何をいきなり!」
彼女は今、確かに言った。人の考えをさも一般解釈における宇宙の深淵みたいに形容し、そして何より自らを差し置いて人を卑怯者呼ばわりしたのだ。彼女は考えている、錯覚しているのだろうか……未だにズルの存在がバレて居ないと、或いはそれがズルじゃないと証明できるとさえ自負しているのだろうか?
どちらにしても、こうして私側が疑われてしまった以上、答えなければ相手に追求の口実を与える事になる。残念ながら最後の手段であるボディーランゲージも彼女には通用しないだろう、さてどうしたものか。私が思案を始めた時、過去さんは穏やかに笑みを零した。
「ふふっ……迷えばいいさ、悩む事が大事だからな。くくっ」
どうすれば、私は一体どうすればいいのでしょうか?
こんにちばんは、おはようざんすでござもりごべす! さて皆様、どこかで聞いた『ござもりごべす』(?)なるワードが気になって仕方がありません作者です。クリスマスに、母が子猫のクッションくれたよやったねたえちゃん家族(ペット的な意味で)が増えるよ(おいやめろ!!
と、雪国ながらも元気にしてます作者です。年末年始のこの時期、急に訪れた休みに気怠さマックスな私ですが、とりあえずは遅れてしまい申し訳有りません(ぺこり)。やたらと括弧は多いですね、今回のあとがき。最後までこの調子ですよ、これは忠告ならぬ警告です。
さて、お待ちかねの言い訳タイムですが、理由は簡単ですね。気怠さと『詮無き一夜物語』シリーズ第一作の仕業ですよね、作者の作品はタライといいコレといい基本完結しない事が知られているかと思いますが、今回はそれを無理やり打ち切る形で達成しちゃいました。完結は完結です、あの明晰夢(以下略)は完結したのです。完結したと言ったら完結したんだってば!!
……こほん、後書きみたいな頭使わない方が賑やかになる癖は考えものですよね。さて、話題にもならない問題作でありますかのスアール、こっそりと此方で解説しましょうか。いや、別に見なくても良いんですよ? 見てくれたら少しは報われるというだけです、別にギャルゲとかergとかを作りたい訳では無いですし、まあライターには興味がありますけど。
バスタオルだけのスアールさん解説【興味があります】
※以降ネタバレ注意。
まず、あれは世界観自体から解説せねばなりませんよね。
あの作品世界は、水槽の中の脳味噌から着想を得ていて、元より全世界の生命体は1つの巨大な精神体結合群の一部に過ぎなかったという設定で、なおかつ人間を代表する一部精神体が明晰夢という形の固有世界を連結帯内で共有していたという設定です。
つまり、知らない内に人々は繋がった夢世界を現実と呼称し、さもそこに肉体や物体文明が存在するかの様に“想像”していたと言う訳なのです。ただ、それはスアール達の様な高次の精神生命体との夢空間を経由した意思疎通という形に後押しされた構造だったという事。
スアール達は、いつか拡充した人間の夢へと進出する事を目標に人間の夢世界に現実味を付与する切っ掛け、連結体内での整合性である人間同士の相互関係を取り持っていた訳です。予め文明へと、自分達のヒントをそこはかとなく暗示したまま。
そして、その種が弾けたのが2012年。世界週末がある種の共通認識としてピークを迎え、それが自分達参入の隙間を生み出したとしてスアール達は世界へと真の意味で割り込むわけです。精神体だった彼女達には、肉体という概念が素晴らしい物に見えたのでしょうね。今の我々にとっては精神体となるとより高次な存在の様に見えますが、この作品ではそれが夢世界と言えども肉体を持つ形へ“進化”する訳です。通常の進化論とは真逆、しかしこれは人間が優秀な精神体だったらという仮定あるいは確信の下でなりたつストーリーな訳です。つまりは、現行の一般論とは真逆を行く奇説でしょうかね?
とにかく、これがスアールの全容です。実は夢世界の住人といっても過言ではない人間その1である主人公が見る夢、それも結局夢世界の延長線上でしか無いのですから、各個に出会えるという点では優秀なファーストコンタクト地点となった訳です。難しいですね、というか整理がついていませんね。解説が必要な辺り、私の未熟さを痛感してしまいます。心苦しいですねやっぱり、ですがくじけません。作者は未来を目指して頑張りますから! 何をしでかすかは分かりませんけど!?
では、また次回にでも逢いましょう。さよなら、さよなら?
P.S.め、メリークリスマスだなんて言わないんだからね……期待しないでよね!! ……ぁぅ、うぅ、め……メリー、クリスマス///




