それは甘く、たおやかな戦慄。
「辿り着いたぞ……!」
「にゃははっ、ご苦労様なんだな〜♪ 改めまして。笹檜垣八代、只今推参したなりよ〜!」
玄関前、僕たちが到着した反対側の二段プレハブの上には軽業を披露する少女が居た。人懐っこい笑みを浮かべながら彼女、八代は機械質な耳と尻尾を動かしていた。
「《アバターエヴァン》……ですね!」
葉月が言った。恐らくはそうであろう彼女が、これまた個性的な口調で答えた。
「ピンポンピンポーン♪ 大正解なんだにゃあ、意外と勘が鋭いのにゃねえ? うちは仮セツ型なりり〜♪」
「いや、分かるだろ普通……」
「にゃへ……?」
つい、真面目な突っ込みを入れてしまった。久々に出た悪癖な気がするが、それもあっさりと流されてしまった。
と、今更ながらに気付いたのだがコイツは馬鹿なんじゃないだろうか? 本人には失礼だが、猫みたいな口調といい今のとぼけ顔といい不安要素を束ねまくった様な人格の相手だと僕には思えた。
これはまさしく仮説だが、先に並ぶ西園寺百合香や翌来瀬空遥といい《アバターエヴァン》は人格の一部を犠牲にしているのでは無いだろうか。
翌来瀬空遥は倫理と現実を見る目。躊躇わずに無作為に暴れ、空を飛べば天国に行けると妄信していた本人いわく仮セツ型。
西園寺百合香は意思決定能力とアイデンティティーの欠如。七ヶ崎乃々葉に従い続けて抗えずに操られていた。弾圧にも似た強い力に虐げられていただけ、そう言われたらそれまでだがそんな気がした。
七ヶ崎乃々葉は簡単、常識と倫理加えて理性の欠落だろう。あの狂気的な笑みと共に繰り返される惨劇、それには未だに拭いきれない恐怖を感じていた。
そして、
「葉月に久遠、ありがとうな今までさ」
つい考えてしまった、そして何故か謝ってしまっていた。眉を潜めた2人へと、僕は言葉を紡ぎ続ける。
「未来の僕、そんな馬鹿野郎のせいでこんな戦いに巻き込んじゃってさ……本当にごめんな?」
「好きで居ますよ?」
「え……?」
唐突に葉月が答えた。途中交代しながら運んでいた翌来瀬空遥を壁際に寝かせた葉月は黒い大鎌を取り出して、それを大剣状へと変形させて構えた。
「言いましたよね、貴方を護りますって。私は待つのが嫌いですから、側に居たくて堪らないんですよ」
「葉月……」
優しいなと思った、だから言葉にはしなくても頭を撫でて厚意に答えた。背伸びは辛いが嬉しそうな葉月を見ると優しい気持ちになれる、見栄を張ってでも男らしくありたいと思えた。
そして、頬を冷たい感覚が突っついてきた。久遠が握る青い缶、色調を変えながらもうねるオレンジが朝焼けの様に僕には思えた。
「あはっ、私も居たくて居るんだから気遣いは無用だよ? それあげちゃうからファイトだよ!」
「起源に始祖……今の関係も原因あれば、かな?」
受け取った缶を眺めて呟く。感慨深い響きだった、徐々に近づく終末の予感を色濃く裏付ける名前に感じた。
「今は今を楽しみましょうよ。過ぎた事は過ぎた事、気にし始めたら進めなくなりますから」
葉月は言う、まさしくその通りだと思った。《タイムマシン》を使い始めれば、便利さに過去ばかりを気にしだすのだろうか。それこそ、まるで麻薬中毒者が麻薬無しでは生きられないみたいに延々と過去を書き換え続けるんだろうと。
そして、仕切り直すためにか久遠は言った。ぴょこんと跳ねて、僕らに向かって問い掛けてくる。
「さて、やらかしますか!」
「はい!!」「ああ!!」
それは1周前の缶珈琲だろうと内心に微笑む僕。向かい合う敵、無限と湧き続ける疑問に顔をつき合わせて僕は叫んだ。
「行くよ、みんな!」
「「はい!!」」
こんばんは、作者です!! おかわりありませんか、ご飯おかわり要りませんかっ? なんて♪
今回は短いですが、またまた新キャラクターの登場です。どうやら使い捨てとか思っていません?
ははっ、そんな馬鹿な……(困惑)
まあ、取り敢えず暫くは例の事件の仕業か沢山の新キャラが出てくるでしょう。それはもうレギュラー人数くらいに。
何かを訴えては消え去る彼女達、彼女達にも物語があるのだと察してくれれば有り難いですね。そうで有るのが難しいから有り難い、難しい話ですよね。
個人的には全員のエピソードを綴りたいですが間に合いますかね、ネタも尺も何もかも。割と長々と続きそうですが怖いです、作品との決別もですがね。
しかし、多分ですが誰かしら1人くらいは別作品にも登場するかも知れませんね。天王寺さんとか風見さまみたいに、時系列的に同じならそれもまた面白いかなと。
恐らく、次回作は結局予告とは違う系列になるかも知れませんね。例えば主人公側がタイムスリップしちゃうとかタイムトラベラーだとかは書いてみたいですし、ファンタジーなら剣と魔法の世界、戦国自隊みたいなif戦記物も面白いかも知れませんね。
素直に昔のゲーム案であった『童遊戯(仮)』を小説化するのも面白そうです。まあ主要キャラが天津風姉妹と似てますが、性格は違うので新鮮かも知れません。
少しオマケな『童遊戯(仮)』↓
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赤黒い火花、脳天目掛けて降り下ろされた櫂状の斬馬刀《辰三日月》がけたたましく咆哮した。肉を抉る為の物か、それこそ龍の歯列が如く刻まれた凹凸が刀の鍔を捉えた。
「知ってるかい? 君の母親、その刀で人間を切り刻んだそうな。それでも君は人の味方か?」
澄ました顔の烏天狗、人の表情で問い掛けてきた彼は笑った。
「滑稽だなあ狐の一族ぅ。九尾が不在な今、君達は君の母親であるオワカレ狐に依存しているらしいじゃあ無いか。違うか?」
「……違う!」
力を込める、途端に軽く感じた刃を弾いて跳躍する。すかさず追い縋って来た刃、鈍器としても優秀な《辰三日月》の剣先を受け流しつつ私は答えた。
ただ、それは彼への答えではない。私自身への問い掛け、自分は人か妖怪かという問い掛けへの自問自答だった。
しかし、それは今、確かに私の力となった。
「私は人と妖怪から産まれた。だけど私は諦めたくない! 2つを1つ、皆を1つに纏めあげて築いて見せるの……真なる平和の楽園を!!」
「お前がやると言うのか?」
ずらされた《辰三日月》の刃、それが横飛びをした私の脇腹近くを霞める。超重量の剣、当たらずともその衝撃はブローの様に効いていた。
「お前に出来るか、お前は総てを背負えるのか!? 虐げられた種族の街を、貶められた妖怪達の矜持を!!」
《辰三日月》がその長大な横幅で私を殴る軌道へ振り払われた。超重量の武器に振り回されがちな一撃。真上に跳んだ私を狙い僅かながらも傾いたそれが歪みとなって隙となる、遠心力に振り回されて無防備となった烏天狗の背中へとを峰打ちを撃ち込む。
しかし、途端に黒い翼がクナイの様な羽根を散らし、それを避けきれずに私は右腕に裂けたような切り傷を負った。
「やるしかないの! 道が無いなら作れば良い、私は私で道を開くの!! 瞬け……《無銘》の光、強欲過ぎたるその主因、捜索索明、我らが覇道を光と照らせ!!」
輝く刃、掬い上げる一閃が目映い流星として視界を過ぎる。眩しく溢れた光、視界を塗り潰す程の白亜に黒い羽根が降り注いだ。
「甘くは無いぞ……小娘! ぐああああっ!!」
「知ってるよ。だから任せて、私は諦めないから。みんなの事も、彼の事も……勿論、貴方の事も」
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と、まあ戦闘だけ即興ですがこんな感じ。所謂あれです。妖怪バトル物とでも言いましょうか、再び狐がヒロインなのです。
まあ、書くかは分かりませんがオマケって言うことで今回はこれまで! 次回は本編もバトルかな、こうご期待です!!
それではまた明日。さよなら、さよなら?
P.S.狐っ娘大好きにゃんと鳴く狐っ娘の提供でお送りしましたにゃ。次回も……サービスサービスぅ!




