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裸天使にバスタオル、僕には生きる意味を下さい。  作者: にゃんと鳴く狐っ娘
Loop.2#【jihad 明日を探して】
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過去か神かが仕組んだソナタ。

「あーあ、死体だなんて放置しちゃってくれちゃって……半分以上が持ってかれているじゃない」


「……こくん」


 ミンチよろしく細切れになるまで弾丸を浴びた少女の死体、七ヶ崎乃々葉だったそれを見下ろして栗色の長髪を裾で一部分編んだ少女が呟く。


 すると、赤茶けたツーテールの少女がオノマトペで反応を示した。微動だにせず口で頷きを表現する、おかしな奴だと誰もが思う筈だろう。


 だが、屋上に居る彼女らに一般生徒は気付きさえもしない。まるで元より居なかったかの様に無視する、それが居ないかの様に帰宅部達は家路につく。例え、垂れる血に濡れても弾痕残るコンクリを踏んでも、彼らは誰一人その存在には気付かないのだ。


「ふふっ、可笑しいね? ミイラ取りがミイラになって、別なミイラがミンチになってる……ね?」


 臓器と思わしき肉片を掬い上げ、問いかけながら栗色が笑みを浮かべた。整った顔立ちへと暗闇が差し、にこやかな笑みが似合うであろうその顔顔立ちへと空虚な表情を形作った。


「……はてな、かっくん?」


 擬態語を疑問系にして赤茶色が戸惑いを示した。眉を隠す程の前髪、それが僅かにだが揺れた気がする。ひょっとすると風かもしれない、それに対して栗色が答えた。


「如月葉月は裏切り、七ヶ崎乃々葉は敢え無く倒れた。いくら不確定要素が多いとはいえ無能、連中の雑さがさ……明らかだと感じない?」


 鬱陶しく顔にかかる髪を左手でふぁさりと払い、栗色はそう言った。地平線、その遥か彼方を見詰めながら少女が投げ掛けた疑問へと赤茶色が答える。此方は町並みをゆっくりと見渡しながら小さく、


「ぐー」


 そう簡潔に解答した。恐らくは肯定か自信の表れであろうか、憮然とした表情からは何一つとして読み取る事は出来ないだろう。


「ふふっ、楽勝よね。《パラダイム》も《アーティフィシャルアトラクタ》も、神様には勝てないんだから……さ」


「…………ぼそり」



◆◇◆◇◆



「あだだだだだだ――っ!!」


 未来さんの叫び、それが痛い程に反響する。そう、聞いている方でさえもその苦しさを痛感できる程にだ。まあ、あくまで例えの話ではある。


 一番辛いのはお説教(最早拷問)をされる本人だ、特に未来さんより箱が2つばかり多い過去さんだなんて特に堪え難い辛さなのであろう。しかし、俯いたまま震えるに彼女は留まっていた。


「どうかなダブルくる姉、私達としてあの馬鹿と“連中”の事を知りたいんだけどもなぁ〜? 教えてくれなきゃ、またまた缶箱足しちゃうよ?」


 正座した小さく華奢な膝へと積まれた段ボール2箱、脚に食い込む三角柱の座布団に身悶えする未来さんを見詰めて久遠が嗜虐的な笑みを浮かべていた。

 意外にもサディストなのか、不思議とそんな表情も似合っているのが恐ろしい。


 その笑みに対して、将来自分の身へも迫るであろう身の危険を危惧するが、暫く見ているとそんな久遠も普通に見えてくる。僕は自分を可笑しく思うよ、今は特にだ。


 出来れば錯覚だと信じたい光景に、自然と手足が震え始める。山ほど積まれたジョー●アの箱、そんな物に恐怖を覚える不自然さに身が凍える様な得意な感触を感じた。


 ふと、膝枕で青髪の少女を寝かせつつも四十九院乃々葉が呟いた。この前後での光景、余りにも顕著なその差が益々不自然さを際立たせていた。


「過去さん強いです……」


 なんとも言えない面持ちで、乃々葉が過去さんに対して呟く。憧れか尊敬か、感嘆とも見てとれる瞳の輝きが眩しい。


「洒落にならないけどね、アレ」


「だからこそですよ。攻撃にも信念を曲げない様、その強さは易々と手に入りませんからね」


「なるほど」


 そんな会話をしていた僕らの脇では、依然として久遠のお説教(どう見ても拷問)が続けられていた。


「……頃合いか」


 そして、黙りを続けていた過去さんが遂に口を開いた。ゆっくりと視線を持ち上げる過去さん、それに合わせて前髪が微かに揺れ、床と材木へと垂れた後ろ髪が小さく跳ねた。


 その言葉、それを紡いだ唇へとみんなの視線が集中する。同時に、過去さんが辛そうな声で語り始めた。


「私は未来から来た、それは述べた通りだと思う。私は過去、いわば君達にとっての未来だった時に過去を名乗る私に救われたのだよ。覚悟はしていたさ、こうなると」


「予定調和でしょうか? 《タイムパラドックス》を恐れるなら、過去に自己を救った未来の自分、つまる所は今の過去さんの様に自らの手前に現れなければいけない。そうして別な自分が《タイムスリップ》した事による矛盾を埋め立てる。という意味合いで……でしょうか?」


 葉月が訊ねる、押し殺した声で過去さんが答えた。今は未來さんも、なんとか堪えて耳を傾けていた。


「大体正解、それが答えだろうな恐らくは。それだけじゃない、私は君達に疑問をひとつ投げ掛けねばならない。時に葉月……君はどうして此処に居るんだ?」


「一喜憂さんを護る為……そして、みんなを護る為に此処に居ます」


 葉月は即答する。過去さんは過去さん自身の過去を再現に来たと言ったか、それが先に未来さんと交わした会話という事なのだろうか。


 “過去の自分相手に過去再現をする”だなんて……果たして、そんな事が可能なのだろうか? 僕には不可能にも思えた。


 幾度か今日を繰り返した僕、記憶の中には沢山の選択肢が存在していた。


 例えば、朝の発言ひとつで葉月の答えも変容したし、七ヶ崎乃々葉との争いだって……ん?


 七ヶ崎乃々葉、なながさきののは、ナナガサキノノハ。悪魔の様な未来人。僕を殺し、みんなを殺した張本人。僕を殺そうとし、友人Aに殺された張本人。


 だがしかしだ、僕たちは彼女の死亡を確認したであろうか? 例え死亡を確認したとして、放置しても良かったであろうか?


「気付いたか、少年」


 そんな訳が無い、僕たちは大事な事を怠っていたのだ。過去さん、友人Aの事に意識を奪われていた。倒れた七ヶ崎乃々葉、昏倒した西園寺百合香を見届けただけで、あろう事か総てを片付けたと勘違いしていたのでは無いだろうか?


「危険だな、少年。未来人は予想を越える、それが奴等の予定調和だ。それは災害、防ぐ術は過去に聞いてる私の中身だ。だがしかし、今は“まだ”言えない……!!」


 予定調和、その言葉に背中を押される。過去さんの声から力を感じた。数奇で不思議な凛々しい力、その声が続いて響いた。


「走れ少年!! 過去な未来の気遣いに、忘れた過去を片付ける為に!! これは予定調和……気付いた過ち、其処に行けば続きが在る!! 話は後だ、だから死なずに帰ってこい!!」


 僕は駆け出していた。七ヶ崎乃々葉、その安否を確認するべく資材小屋を飛び出していた。


 後ろに聞こえた過去さんの声、予定調和だと彼女は言った。まるで総てが繰り返されている様な、歪ながらも巨大な力の渦をそれに感じた。


 輪廻、そんな言葉が頭を過った。生死を繰り返す仏教的概念、それに近しい何かを感じた。


 過去さんは総てを見て来た、見ていたのであろうか? 不自然ばかり、不可思議ばかりなこの瞬間、それを僕たちは生き抜いていた。


 玄関前へと駆け出した僕へと久遠と葉月が駆け寄ってくる、どうやら友人Aや乃々葉は過去さんに引き留められたらしい。そこはかと無い嫌な予感が僕を苛む中、しかし不思議と不安は軽くなる様に感じていた。


 そんな時、着信鳴り響く電話を久遠が取り出してきた。久遠が僕へと携帯を向け、風吹き付ける最中に大声をあげた。


「一喜憂、連絡っ!!」


 久遠が開いた携帯、それから音声が流れ出てくる。僕へと向けられた画面、そこに移る過去さんが叫んだ。


『少年、お前は玄関前へと走れ!!』


 強く、凛々しく真っ直ぐな瞳で見詰めながら過去さんはそう言った。ビンゴだ、僕の予感は的中していた。


 赤い瞳に眩しい光が垣間見えた時、祈る様にそれ閉じて過去さんは続けた。後ろでは友人Aが苦笑いでピースしていた、乃々葉もにこりと笑っている。


『ふたたびみたびの最終決戦だ。過去に私は勝つ君を見て来た、だから君は負けない筈だ。此方も後程合流する、これは確定事項だから安心しろ。禁則事項は後に語ろう、私も1人の未来人としてな……』


 そんな声が響く中、日が照る空へと影が差し、直ぐ様それは白い翼へと変化した。未来人、そうだと僕は考えていた。しかし、


「かかっておいでよ。もう1人の、お・と・う・さ・ま♪」


 舞い散る羽根をばさりと増やして、誘う様に振り向く天使に見覚えがあった。むしろ、それが誰なのかさえも僕は知り得ていたのだ。


「行くよ、仮セツアバターエヴァン翌来瀬空遥あくるせ そなた……終末を奏でようよ! ふふっ、あはははっ!!」


 予想外だった、意外にも新たな敵は知り合いだった。器用にも進行方向とは真逆を振り向き飛ぶ天使、栗色の髪を踊らせるその少女は隣人。隣のクラスの委員長その人だったのだから!


「一喜憂、空遥ちゃんだよね……あの子!」


「うん、そうだね」


 事態を呑み込めないまま、取り敢えずそれを肯定した。彼女の存在を知ってか知らずか、未来さんは更に続けてこう言った。


『意外な敵に出逢うだろう……しかし大丈夫だ、大丈夫だからな!! これはフラグではない!!』


「過去さん……!」


『問題ないさ。君は負けない、絶対にだ!! どんな数奇な運命にも、どんなに不幸な境遇にもな……絶対に負けない、絶対にだ!!』


 遂に頷く、不意に画面が途切れてしまった。突如その携帯電話は爆発し、煙を吹いて亀裂から電光を翌来瀬へと吐き出していた。どうやら、能力はこれまた電気系らしかった。


 ふと見上げると笑う天使、翌来瀬空遥が其処に居る。僕たちは視線を交わして空を見上げる、そして小さく呟いた。


「行くよ、未来へ!!」

 こんばんは、作者です! 地震大丈夫でしたか?


 私は凄く不安です、何せ家族と離れてますから。読者の皆さんとも、こんなに彼方に離れておりますから寂しいです。


 取り敢えず、明日が修学旅行最終日です。私は食中毒でも無いし大丈夫です、余震に気を付けてくださいね。


 命あっての物種ですから、何かあったら逃げてくださいね? 私は貴方が心配ですから。何しろ私には貴方が見えませんから、アクセス数という数でしか今は。


 取り敢えずはお休みなさい。一応話は更なる佳境を迎えるでしょうか、作者にもそれは言えませんね残念ながらも。


 お休みなさい、良い夢を。願わば貴方に良き明日を、願わば世界に平穏をと彼方に。


 また次回、明日か明日か明後日か――また、此処で逢いましょう――ね?

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