枝垂れた福音、女神の角笛。δ
「俺には、その手を取れません……ごめんなさい、未来の姉さん」
友人Aは俯きがちに弱々しい声で答えた。奴も混乱しているのだろう、視線を斜めに反らしたり頭を掻いたりと落ち着きが無い。
どうにか体裁を繕いながら言った友人Aに対して、これまた真摯な瞳で過去さんが聞き返す。本気の目線が奴を射抜いた。
「もう一度だけ、私は君へと訊ねよう。お前はそれで良いのか? 消えるんだぞ、お前の居場所も何もかも」
「ああ、分からないけどこれで良いんだ。いや……むしろ此処が良くなっちまってたんだよ、俺にはな」
苦笑い、断言しつつもばつの悪そうな顔を浮かべて友人Aは答えた。それにまた、過去さんが口を開いたその時だった。
「何度も言わせるな、友人A……私は!」
「往生際が悪いぞ、私は未来じゃ駄駄っ子か? それとも、発言ひとつで人が動くと過信でもしているのか? ……いい加減にしてくれ、私よ」
その時、未来さんは白銀のアンカーを右の手に構えていた。冷たく照り返す光、磨き抜かれた銀食器の様な光沢は未来さん専用《鋼索アンカーKASUGAI》、忘れもしない未来ガジェット初号機だった。
だが、対する過去さんもため息混じりにそれを取り出す。色は黒、いつかのループで貰った物だ。未来ガジェット初号機《鋼索アンカーKASUGAI》が向き合い、白と黒とが睨みを効かせた。
「姉さんっ!!?」
「皮肉な物だな。自分を殺す過去の夢、それが不遇にも今叶いそうだよ……」
どちらへ向けたとも知れない声を上げた友人A。それを無視して過去さんが紡いだ言葉、それもこれまた残酷な物だった。そして、未来さんの回答も。
「ああ、皮肉だ。未来の自分と握手、そんな夢は要らないな? 未来なんぞ醜さしか残っとらんな、なぁ……過去よ?」
「ふふっ、過去は貴様だろう? 違うか、私?」
「ああ、さようならだな……私」
「そうだな、さよならしようか。なあ私?」
そして、2人はくすりと笑う。向き合う銃に笑い合う2人、異様な空気は唯流れて場を凍らす。
鋼の質感、銀の光沢に黒の暗黒。矛盾を抱えて2人は出逢い、矛盾を抱えて2人は向き合う。
それはとても皮肉な形、どうしようもない状況に動けなくなる。さながら向き合う龍と虎、似ては居るのに全く違う姿を持って2人は相対していた。
標本にされた蝶の気分だ。抜け出したいのに抜け出せない、そんなもどかしさが胸を刺す痛みへと変わった。
2人の指先が、トリガーを今引き絞る。
カシュン。
虚しい音が、今静寂を塗り潰した。
こんばんは、作者です。体調が悪いので仮更新、明日大丈夫なら直します。
おやすみなさい、良い夢を貴方に。せめて貴方には幸せを。
P.S.血肉が重い、視界が暗い。




