辟易突き刺す霹靂と。壱
「友人Aよ、調査するぞ調査!! 未来ネットワークに電信来たれり!! 『宇宙に目映き星が燃ゆ、啄み落ちりて山小島』とか、なんか瀟洒で中二なスタイリッシュ投稿が来たぞ!!」
一喜憂が沈黙する中、視界の前方にはやたらと跳ね回る姉を中心に3人が雑談をしていた。そんな姉に、葉月はさも不思議そうに訊ねた。
「未来ネットワーク……?」
「姉さんの作った掲示板サイトだ、中々にクオリティーが高いんだなコレがさ。街のグルメからオカルト、裏事情から今晩のおかずまで総てを網羅しているとかしていないとか」
なんか聞いた事が有るキャッチーなフレーズ。やはりくる姉はパクリもといパロディが好きらしい、本人はパクリとは認めないんだけどね。
私が指摘する度に、くる姉は『リスペクト・オマージュ・パロディネタだ!! 作者と作品への愛だよコレは!!』と一切の聞く耳を持たないのだ。まあ、その駄々をこねる姿が、まるで子供みたいで愛くるしいというのはご愛嬌。
「グルメ……この町は何が美味しいんですかね? 私、気になります!」
葉月はまさかのまさかで、説明の内から食い付いて行く。どうやらあの子、食いしん坊なのだろうか。
私にそんな事を考えさせた彼女は、ハッと我に帰って付け足した。頬に人差し指を添え、夢見る様にトロリと頬を蕩けさせて葉月は呟く。
「あ……私、甘い物とか大好きなんですよ」
「そう言われたらさ〜、そんなチータン染みた言い方されたらさ、黒髪美少女大好きな私は答えない訳にはいかないじゃない?」
「甘い物なら、紅茶が美味しいお洒落なケーキ屋がカルデラ麓の展望台にあったりするぜ?」
「なっ、それ私が教えようとしたのに!!?」
そう言いながらキャッキャと戯れる一陣、彼女らと友人Aを見詰めながら一喜憂は呟く。
「嘘、吐いてた。ごめん……」
◆◇◆◇◆
「……ん?」
僕は、耐え切れなくてつい真実を吐露してしまった。それなのに、僕の顔を覗き込んだ久遠は眉1つ動かさずに僕を見詰めていた。
苦しくなった胸の内が、キューッと狭っ苦しい軋みを上げて僕を揺さぶる。目前で彼女が消える様、彼女が総てを告白する様を見ていた僕はどうやら、知らず知らずの間に感化されていたらしい。
目尻に溢れだしそうな涙を、隠し通せなかったんだ。そんな僕へと久遠は言った、ポンと頭に手を置いて彼女は微笑む。
「無理しないで、泣きたい時は泣いても良いんだよっ?」
「久遠っ……!」
涙腺が、遂に我慢を諦めた。決壊した感情の奔流は止めどなく流れ、先行く友人達を顧みる事も無く、僕は無様に噎び泣いてしまった。
女々しい。渇いていた涙腺が再び熱を取り戻した時、僕には自分がそう見えた。
「久遠、俺っ……俺!」
「君に“俺”は似合わないよ。誤魔化さなくて良いから、ね……?」
「うっ……く、久遠……」
気付いたのだ、守ろうとしていた物を守れずに居た事実に。僕は2度も彼女に助けられていた。それも、記憶に残っている限りでもだ。
いつか葉月に護ると言われ、未来さんに逃がして貰い、更に友人Aは身代わりにまでなってくれた。
「お願い、抱いて……良いかな? 私もね、辛いんだ……」
そうだ、そして久遠は僕を抱き締めてくれた。総てを滅ぼす光の中で、消え逝く手前の数秒前まで、最後の最後まで僕を庇ってくれていたんだ。
「うん……」
そう返して、僕は久遠に抱かれていた。暖かい微熱と香る刹那の温もりとが僕を包んだ、でも首筋が冷たい。感じたのだ、冷たい雫が皮膚で弾むのを身に染みて僕は味わう。
「僕は、明日に進めないんだ……」
身体は正直だった、既に口は喋り出すんだ。悲しみも苦しみも全部吐き出そうと、自制と自尊を擲って流す涙も止まらなかった。
泣きじゃくる僕を抱き締める久遠、そんな彼女がニコリと笑った。
「私も、おんなじだよ」
意味を知らないまま、合わせて笑みを浮かべて2人は頭を掻く。気付けばそんな僕らは囲まれて、葉月に未来さんに友人Aが僕達2人をまじまじと見ていた。
「一喜憂さん……」
憂う葉月、彼女が案ずるのは多分、三日前の今日の僕と同じ未来だ。平和を望む白鳥、白い翼の少女は呟く。その先で待つ未来さんは胸を張り、
「少年よ、明日に備えて今は泣くのだ。次、嘘吐いたら承知しないんだかんねっ!!」
吐き捨てる様に恥ながら、僕を後押ししてくれた未来さん。あの時も、僕らの為に希望をくれた。未来ガジェット初号機、その銀色を押し付けながら照れ臭そうに笑った。
「お前らな、2人で美味しい所や悲しい所、全部まとめて背負ってんじゃねえよ! 水臭せーなー、あーもう」
そう言いながら2人の肩を叩いた友人A、彼も1人で道を作ってくれていた。そんな頼りな頑丈男、彼は高らかと声をあげて笑った。
「一喜憂……私達は《タイムループ》の中に居る、だから貴方も泣くんだよね?」
「ああ……」
僕は瞳を擦り、涙を拭いながら言った。徐々に弛緩してきた頬が笑う、そんな声にみんなは答えた。
「話してみろ、真っ裸になるまでな!」
「私が力になれるならっ……!!」
「みんな君を信じている。不思議だな、何故か君とは初めましてな気がしない。これが機関の陰謀か……」
「くる姉、話をややこしくしないの!! もう……、とにかくね? みんな力を貸すからはなしてよ、制服濡れちゃうから2つの意味で!」
「みんな……」
そうして辺りを見渡すと、自信に満ちた顔が頷きを返してくれた。だから言うんだ、包み隠さず総てを明かそうと僕は決めた。
さようなら、ひとりぼっちの僕。
「ありがとう、本っ当にありがとう!!」
「行きましょう……?」
「お前が言った」
「君が望んだ」
「貴方がくれた……」
「「「「明日とやらを目指して!!」」」」
こうして前座は幕を取り去る、続く先の未来を目指して彼らは行くんだ。
きっと、そこに未来があると信じて。
はいこんばんは、打ち切り臭漂いますが続きますよ〜? と、言いますかやっと前向きな話になりそうですね。
今までは疑心暗鬼、気付かない内心がテーマでした。そして告白と信頼、些細な切っ掛けで気付いた仲間の存在が主人公を後押しします。
みんなで明日、8月9日を夢見て……彼らは手を取り進みます。幾世層の輪廻を越えて、少年少女は何を見るのか。
次回より物語は佳境、真実を暴く挑戦へと加速を益々増すのでしょう。何度くじけても、立ち上がれればチャンスはあるから。
諦めないで、今を、明日をずっと。
次回、『鏡合わせの天罰ゲーム』こうご期待!! なんてね!
P.S.朝投稿を目指そうかな。あと危険物の真情は怪しい、あまり進まないよ勉強が。




