希望の淵からコンニチハ。壱
「過去とは一縷の希望である。醜くも縋る事で人は優越を覚え、自信を得る事が出来る……そうでしょう? 人は過去に絶望し、未来を変えようと足掻く事が出来たのよ、以前まではね……分かりますかお馬鹿さん?」
ペッと食んでいた肉片を吐き出して七ヶ崎乃々葉は饒舌に語った。足元に散らばるそれを踏みしだく様にしながら進んでくる様、それが立てる夥しい不快音と肉汁の飛沫が肌を泡立てる。
最も僕に隣接した時、狂気のドッペルゲンガーは動けずに居た僕の目前に屈み込み、僕の顎を持ち上げて笑った。鉄を舐める感覚を臭気に置き変えた様な異様な香りが鼻を擽り、非現実的な現実を否応無しに僕へと叩き付けた。
「ふふふっ……貴方は沢山観たわね、沢山の事を知って来たわね? 安心しなさい、何度でも……何度でも何度でも何度でも、何度でも全部を奪い浚ってアゲルんだ・か・ら!! きゃはははは、きゃはははは!!」
「そんな事より……2人の質問に答えてはくれないか?」
僕は声を押し殺して、怒りを押し留めて言い返した。七ヶ崎乃々葉の目当ては僕だった、僕を憤慨させ、悲しませるのが彼女を満たす情欲への油と成っていた。
僕が問うたのと同時に、七ヶ崎乃々葉はスッと背後に跳躍して未來さんの頭を撫でた。相変わらずに棒立ちの未來さんは、ぴくぴくと戦慄く様に震えながらもなんとかそれを耐えている様に思えた。
「うぁ……」
「さあ、お行きなさい?」
何を思ったのか、七ヶ崎乃々葉が未來さんの背を軽く叩く。すると、力無くも未來さんは此方へとぐらつきながらにやって来る。
「くる姉っ!!」
「…………」
久遠が飛び付いてギュッと抱き締めるが反応が無い、心此処に有らずと言った様子で遠くを見ていた。四十九院乃々葉がは七ヶ崎乃々葉へと問い詰めた、鋭い声色で。
「貴女、一体何をしたのです? まるで廃人じゃあないですか、こんな事が許されるとお思いで?」
「人間は要らない物を持ち過ぎなのよ。宗教では許しを説いて、現実では罪を問い詰めるのだから。馬鹿みたいじゃない、信じれば与えられるだなんてさ、足元掬われるだけなのにね? 馬っ鹿みたい」
そう七ヶ崎乃々葉が答えると、ついに怒りを露にしたのか四十九院乃々葉が怒鳴った。それは冷静さとはまた違い、攻め立てる様な口調だった。
「質問に答えてください貴女は彼女に何をしたのですかと先程から申しているのですがそれを無視して挙げ句の果てには自己陶酔的な思想を語らないでください鬱陶しいのですよ私はだからもう一度だけ訊ねますよ貴女は彼女に何をしましたか波多野を何処にやりましたか!!」
「貴方の後ろ、てか黙れ馬鹿」
七ヶ崎乃々葉は例のレールガンを腰から持ち出して四十九院乃々葉に向けた、しかし動じないと理解したのか久遠と未來さんへと矛先を変えた。
「え……?」
久遠は我に返ったのか驚愕する。何故なら七ヶ崎乃々葉はその銃口を瞬時に真横に向け、隣に棒立ちしていた少女の腹へと撃ち込んだのだ。
これまた虚ろな瞳のノッポな少女が声も無いままに弾け飛び、五臓六腑を撒き散らす姿は死体の海より衝撃的だっただろう。何しろ、目の前で人間が四散したのだから。
「さて四十九院乃々葉、貴女は何周目だったかに私に言ったわよねえ? 『そんなに退屈ならゲームをしましょう』って……」
「まさか……!?」
僕の脳裏に浮かんだのは紐くじ、最後には2本両方の裾が血の赤で真っ赤に染まってしまったあのちり紙のくじだ。ループに入る前、記憶に有る限りでは僕も一度ならやった事がある。
「そう……『天罰ゲーム』、貴女は確かにそう呼んでいた。あれを賭け事にしましょう?」
「何を、賭けるの……?」
震えた声で久遠は訊ねた。唯ひたすらに放心状態の姉――客観的に見たら姉妹真逆な気もするが――未来を抱き締め、子を宥める様にしながら彼女は血溜まりの端に力無く座っていた。
「勿論、全員の命をよ」
「在り来たりだな」
七ヶ崎乃々葉がそれを言った瞬間に否定する声が響いた、男の声だが僕では無い。記憶を辿らずとも判明した声の主は、突如唸りを上げた駆動機系の爆音と共に事の渦中に飛び込んで来た。
突如現れた艶の無いダーグブラックの車体、それに跨がる男子生徒はすれ違い様に七ヶ崎乃々葉側に居た女子生徒を救出していた。6人もの女子生徒を、どうしたものか担ぎ上げている様子は中々に珍妙だった。さながら雑技団に思える。
そして女子を下ろし、眼鏡をクイッと持ち上げた少年。そう奴がニクい笑みを浮かべ、無駄に眩しい白い歯を見せてはにかんだ。
「待たせたな、お前ら!!」
「「「「「いや、誰も待ってないから」」」」」
さて、こんばんは。友人A不遇はコレで解消? 突っ込み処は次回で回収しますよ、作者です。
自転車じゃなくバイクだったら良いのに……学生で自転車通学だったなら、そう思う方も多いのではないのでしょうか? あと、自転車に痛い名前を付けたりとか、やたらと愛くるしいシールでデコレーションしたりとかした人も居たりするのでは?
まあ、だからどうしたって話ですけど。
何気に自転車って知性が付いて最初の頃に触れるのではと言いたいのです、三輪車の思い出よりは苦心して乗れた自転車の方が私は色濃いです。それから年を得て男子ならママチャリよりマウンテンバイクやロードレーサーに憧れたり、夢見がちな女子なら夢満載のファンシーなピンクや空色の自転車から控え目なシルバー塗装に乗り換えたりと。
ある意味、付き合いは長くてもいつか忘れちゃうんでしょうね。名前付けても思い出せませんよ今なら。
そんな相棒、思い出せるのなら思い出してあげてください。作者は物には心こそ無くても魂が有るとは信じてみたい、でも信じきれない残念な人なのです。
それでは、皆さんまた来週。……じゃなかったまた明日、ですね。
P.S.明日作者、試験頑張ってきますね。書いたら落ち着きました、また過去問でも解いてきますね?
【オマケ】『もしもAA面子が放送室を占拠したなら・放課後編1』
未来&A「「イエーイ!!」」(ドンドンパフパフ)
未来「始まりましたね、ラジオ放送ですよ!! 夢と浪漫のFMですよ!!」
友人「いや、校内放送ですけどね? 先生方来そうな予感が怖いですね、放課後とはいえ姉さんったら大胆な」
未来「やかましわぁい!! うちらはな、人の顔伺っとったらあきまへんのや、そんな事しとってんから時代に流され続けるんや!!」
友人「…………」
未来「ええと……てな訳で、本編はじまりまーすっ♪」
友人(切り替えおった、この人ったら数秒足らずで切り替えおったよホンマ!)
未来「……で、何する友人Aよ?」
友人「考えてなかったんっすか!!」
未来「ぶっちゃけノリで行けるかなって、バラエティーってそうでしょ?」
友人「放送業界に謝ってください……」
未来「どうも、すんませんっした!」
友人「うわぁ、分かりにくいネタですね姉さん……」
未来「…………」
友人「…………」
2人「…………」
未来「て、てっ……撤収――――っ!!」
友人「あいあいさー!!」
◆◇◆◇◆
何がしたかったんだ、コイツら……。




