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裸天使にバスタオル、僕には生きる意味を下さい。  作者: にゃんと鳴く狐っ娘
Loop.1【送る言葉は薄荷味】
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歪んだアイの選択肢;零

「久遠、遅くなって悪かったな……チェーンソー、悲鳴聞いて置いて来ちまったよ……ごめん」


「な、なんで今更……っ!! もう未来姉が、未来姉が消えちゃったんだよ!?」


「…………」


 そうだろうとは思った、残念ながら友人Aも昏睡していたし最悪の結末だったと。そこで七ヶ崎乃々葉が僕へと語り始めた。


「そうね、最後の表情は素敵だったわ……硝子細工の乙女みたいだった。私と違って美しかった、あはっ、あははははっ!!」


「お前っ、許さない!!」


「元より許される訳ないのは知ってるから、あはは!! さて……王手飛車取り、かしら?」


 一直線に並ぶ俺と久遠、その直線上には銃を構えた七ヶ崎乃々葉。してやられた、感情ばかりに気をとられていた。


「一喜憂、逃げて!!」


「久遠、お前も行くぞ!!」


「あ……む、無っ……ひゃっ!!?」


 無理矢理に駆け寄って手を引く、しかし久遠は膝から崩れた。右ふくらはぎには欠けたダガーが刺さっていて、支えた僕も凭れ掛かられる様にして倒れてしまった。


 ピピピピ……とレールガンがけたたましく唸る、転んだ僕達に歩み寄って来て七ヶ崎乃々葉は言った。


「逃げられないわよ、どうせ。背を向ける位ならさ、いっその事諦めたら? 思いで作りの時間ならアゲル、その絶頂で殺したげますよ? きひっ」


「……どういう意味だ」


「だから……どうせ死ぬなら気持ち良い思い出作って良いって言ってるの、要らないなら撃つけど?」


 意味は分かった、七ヶ崎乃々葉なりの歪んだ情けだ。むしろそれが楽しみなのかもしれないが、どちらにしても非道な提案に変わりは無かった。


 狙われる前、動く事を止めていた。再会の高揚感と無念な気持ち、入り乱れるそれの仕業で僕は何も出来なくなっていた。正直、寄り道するべきで無かったのは明白だった。


「一喜憂……」


 もう手は無いのかと辺りを見回す、しかし何も見当たらないのだ。分からない、どうやっても助かれないのだ。


「一喜憂……ねぇ、一喜憂? 痛っ」


 ぐっと抱きつかれる感覚、仄かな酢橘みたいな香りがした。場違いな甘酸っぱさが鼻腔を擽る。


「久〜遠ちゃん、好きにしてなよ? 待ってアゲル、黙ってアゲル……ふふっ」


「あ、ありが……とう……」


「久遠、分かっているのか!? そいつは僕達を殺す気なんだぞ、しっかりしてくれ!!」


 静かに銃口を向け続ける七ヶ崎乃々葉に、震えた声で久遠は答えた。それも『ありがとう』と感謝の言葉を。


「良いんだよ一喜憂……もう、良いんだよ。昔みたいにさ、唯、こうして居ようよ?」


「久遠、お前久遠なんだよな……!?」


 すると、這い上られて首裏を擦られた。吐息が、亜麻色の髪が首筋を撫でた。可笑しい、それこそ狂っている気がした。その狂気に呑まれていく気がした。


 どこか遠くを、或いは瞳の深奥を見詰める様に久遠は言った。その瞳には涙が溢れ、今にも壊れそうな程に儚げだった。


「変わったのは君だよ、一喜憂だと思うんだ私。覚えてる? 学校裏のカルデラ、あそこの花畑を……ね?」


「…………」


 心当たりは有った。学校裏のカルデラ湖、いわば火山湖であるそこには何故か綺麗な花畑があった。日常から切り取られた様にカルデラの中だけは別世界だったのだ、今朝隕石が堕ちたと聞いた場所だ。


「『辛くなったら此処に来よう……ね?』って私は言ったんだよ? 君の両親が亡くなっちゃった時、彼処で2人で泣いたよね?」


「違う、泣いてたのは僕だけだよ。弱くて泣き虫な僕だけだ……久遠は強かったから、泣いてなかった筈だ」


 食い違い。曖昧模糊になって過去は薄れる、しかし久遠は首を横に振っていった。その背後には僕達を狙う銃口が有ると言うのに、久遠は笑って言った。


「違うよ、私……あの時もこうやって泣いてたんだよ? ずっと、ずっと前から弱虫で、ずっと前から変われないんだよ?」


「久遠……」


 ふと、死んだ時の事を思い出す。この暖かい温度も、どうしようも無い切なさも既知の物だった。いや、死ぬずっと前から知っていたんだ。


「ごめん、僕は……」


「ううん、いーよ? 大事なのは今、これからでしょ?」


 これから、しかしそれも七ヶ崎乃々葉の指次第なのだ。引き金を引かれたらそれでお仕舞い、未来もくそったれも意味が無くなる。


「私ね、まだ当主の座を継ぐのは怖いんだよ?」


「どうして、かな?」


「背負いたく無いから、家督も名誉も地位も要らない。なのに……応えられないのに周りの期待ばかりが膨らんで行くんだ。私の家、普通の家じゃないから……みんな」


 涙声、肩を震わせながら久遠は言った。1度も上がらせて貰えなかった御屋敷の後継ぎ、その癖何度も脱走して来たのが久遠だった。


 僕は、戸惑いながらも傷付けない言葉を返そうとする。気の効いた言葉、そんなの僕には分からなかった。


「耳が、可愛い尻尾が生えているから?」


「おだてなくても良いよ、これは素敵な物じゃないから。誰の役にも立たない存在なんだよ、私はね……?」


 今度は胸に頭を埋めてきた。どうしようもなく小さくて、どうしようもなく繊細なそれを僕は抱き締める。彼女を真似る様に優しく、彼女がそうした様に猿真似をする。


「違う、絶対にそれは違うよ。無意味な物も無価値な物もきっと、無いよ。久遠は僕を優しく励ましてくれたじゃないか、あれが無ければ、君が居なければ今頃僕は……今頃僕は死んでいたんだ」


「……好きだよ、一喜憂」


「え……」


 彼女の向こう側が見えた気がした。その告白になんと答えるべきか、僕には即座に分からなかった。歪んだ笑み、そう……終わりが来てしまうから――


「私は、ずっと好きだったんだよ一喜憂……貴方を、君だけを見てた」


 久遠は顔をあげて笑う、それはいつもの強がりの笑みだった。なあ久遠、吊り橋効果を知っているのか? そんなに軽く、言わないで欲しいよ……そう思った。


「一喜憂……」


「……久遠」


 続きは聞きたくなかった、少なくとも今は聞きたくなかった。出来ることならカルデラで、そう僕は夢想した。


 トンッと突き放される感覚――


「「――さようなら」」


「久遠、久遠っ!!?」


 目の前から消えていく、白い光と灰塵に呑まれて。最後に少女はまた笑う、恥ずかしそうに頬を染めて照れ笑いをしながら――消えて行く。


「クオオオオンッ!!」

 それは孤独な狼に似ていた気がする。唯それは、連なる内のひとつだと言うのに。


 どうも、作者です。


 テンプレ展開プラス読者ひやひやな路線かもしれません今回は。実際コレ、6週目くらいに予定してた展開だったり? いやまあ気紛れなんですが。


 初恋って、叶う事が有りますか? まず無いんじゃないかなって作者は思います。叶ったのなら幸せだとも、羨ましいとも妬ましいとさえも思います。あくまで私はですが。


 幼心とは何でしょう? 童心に帰ると言う言葉が有りますが、憧憬の“憧”の文字も似たような印象を抱いてしまいます。りっしんべんはどちらかと言うと“小さい”らしいのですが、それはそれで正しい気がしてしまいます。


 最後に、更新が遅れてしまい申し訳ありません。後、お気に入り登録やポイントすごく嬉しいです。


 ではまた次回、続きから逢いましょう。


PS.あ、今日またかくのかな? 後部活の泊まり掛けがあるから土日付近は更新厳しいかも知れません。ではまた(≧ω≦)ノシ

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