Chain Thaumaturgy:零
かつかつと駆ける足音が2つ、響く音は遠くなかった。普段ならコイツ、僕なんかよりも遥かに遅いのに。
「一喜憂、右から来るぞ!!」
「は!? 何がだよ!?」
「敵がだよ!!」
行く手に視線を戻す。すると目前を濁流が過ぎ去り、巻き戻る様にして渦巻き始める。そこには青髪の少女が乗っかっていた、百合香とか言う娘だ。
彼女は虚ろな瞳で此方を見詰め、感情も抑揚も無い声で呟いた。それは操り人形の様で、気味悪くて僕は少し後ずさった。
「一喜憂、行けっ!! ここは俺に任せて、そのロープを使って先に行け!!」
そうだ、僕には未来ガジェットが有るじゃないか。僕は次弾装填を終えていた未来ガジェット初号機《鋼索アンカーKASUGAI》で、百合香が塞ぎきれていない背後を狙った。
引いたトリガを伝わる振動。途端に伸びるワイヤーが張り詰め、壁にぐさりとアンカーが突き刺さった。ぐっと引き寄せられる感覚の中、僕は友人Aに叫んだ。
「ありがとう友人A、君の事は忘れないっ!!」
「おいこらテメェ!!」
◆◇◆◇◆
さて、と俺は口周りの唾を腕で拭った。まったく騒がしい連中だ、その分楽しいんだけどな。
と、まあ浸るのはそれ位にしとかないと溺れちまいそうだ。既に目前には激流が渦巻いている、さながらリヴァイアサンじゃねえか?
「ま、そんじゃあ始めるとすっか!!」
「……ラ」
意気込む俺を前に、少女が口を開いた。空っぽな瞳が真っ直ぐにこちらを見詰め、その深海みたいな闇が木の虚みたいに気味悪かった。
「起動、暴虐の蛇龍。命令、喰らい尽くせ」
水が渦巻く。逆巻きのたうつそれは、制御を失ったのか日常を演じる一般生徒の群れへと飛び込んだ。
軍隊でもなしに整列して購買へと向かうそれは、水に呑まれても猶歩き続けた。しかし、唯でさえ異常な光景は更なる異常をきたした。
「「「「あ、あああ、あ……、ぼああぁ……」」」」
生徒が一様に声を漏らし、歩きながら枯れていくのだ。喘ぎ咽ぶ姿も、零れる涙すら無く萎んでいく男女入り雑じった隊列。
「う、嘘だろおい……?」
屈強な身体の男子も干物になり、豊満な美しい身体を見せ付ける女子もみるみるうちに痩せこけてミイラになる。手足は枝に、腹は骸に頭は髑髏に、足掻きもなずにそうなる様はまさしく亡者の行進みたいだった。
せめて足掻いて欲しい、逃げて欲しいと俺は思った。なんで連中が死ななければならない? それもドールみたいに操られたまま、自分の全てを奪われたままでだ。
人ってなんなんだよ、人ってなんで生きるんだよ、俺ってなんで泣いてんだよ? だから俺は慟哭しつつ叫んだ。無様かもしれないし無意味かもしれない、だけど報われない奴等の為にも叫びたかった。
「お、お前らあああああ!! お前らはなんで、なんの為に生きてるんだよ!!? 地球人も宇宙人も関係無いだろ!? なんで誰かを殺すんだよおおおおおっ!!」
答えは返ってこない、あるのは立ち塞がる少女と龍だ。命を食らう水の龍、まさしくそれは悪魔リヴァイアサンの形容に俺は思った。
「う……ぐぁ、がっ! コロ……セ? ころせ、殺せ? 殺せ、殺せ……ころ、殺す? 殺せ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……殺す!」
「くそっ!!」
苦しんでいるのか急に膝から崩れて青髪は倒れ、ひくひくしながら起き上がる。少しばかり情が湧いてしまった、これでは確実にしくじってしまうだろう。
「落ち着け、俺……」
俺は、自分に言い聞かせる様に呟いた。そうだ、感情に任せて失敗した過去があるだろう? あの時を繰り返すな、これ以上の被害者を増やすなと。
「すうっ……はあーっ……」
そうだ、なんの為に此処に来た? 左遷とは言え誰かを守る為だろう? わざわざ生体サイボーグ化手術まで受けたんだ、信念をないがしろにして良い訳が無い。どうやら過去ボケ、平和ボケしちまっていたらしい。
「宇宙人、いや……知ってるぜ未来人、何せ臭いが似ているからな。遥々別世界線からご苦労なこったが、その狼藉……俺達は許さねえ」
ズボンの尻ポケットに偽装した四次元ポケットこと未来ガジェット伍千弐拾八号機《NーOrbitalポケット青狸AYATORI》から銃を取り出す。6本の銃身を持つガトリングは重く、それをしまい込める異次元ちっくな摩訶不思議ポケットを開発した未来姉さんも凄いと俺は思った。
この時代のゼネラル・エレクトリック社製M134、本来は軍用ヘリの地上制圧射撃用武装や軍の特殊車両に用いられていたそれは、到底生身の人間には扱えない代物だ。携行用にこんな骨董品を改造した技術連中も相変わらず馬鹿な物だと、俺はジャラジャラ弾丸を突っ込みながらもほくそ笑む。
そんな連中を取り仕切るあの人、未来姉さんの未来を知っている事には優越感を覚えていた。過去に俺のドッペルに逢ったと笑っていたが、まさかそれが本当に俺だったとは吃驚である。
昔見た映画で人型アンドロイドがこれを両手でぶっ放していたのには正直吹き出してしまった、技師連中が笑いながらこれ差し出したのはこの仕業かよと俺も笑った。
無論アニメで猫型ロボットを見ても俺は笑う、子供時代の未来さんに逢いに来れて良かったと俺は思う。歴史の因果とはそれこそ摩訶不思議な異次元だと俺は感じた。だから、俺は叫んだ。
「通称ことArtificial Attractorの21世紀α特異点監視員! 友人A改めユージーン・アイザック、これより歴史改編犯罪恐竜殺し誘発罪で青髪、貴様を拘束及び銃殺する!!」
遂に明かされました友人Aの真実!!
はい、自称SF初級者な作者です。まさかまさかの友人A回です、しかも彼も何気に人間やめてます。ターミネートしちゃってます。
ちなみに彼の名字なのか名前なのかのアイザック、ロボット3原則の発案者でありますアイザック・アシモフ様に擬えさせて頂きました。ファンの皆様ごめんなさい。
いやでも、考えてみてください。一般的にサイボーグ、脳が電子化されていたのであればアンドロイドである彼の名前にそれですよ? メッセージ性を感じやしませんか?
ああしませんか、そうですか……(しょぼーん)
さて、やたらと駆け足な2週目ですが今回はArtificial Attractor勢がメインです。風邪引き天使な葉月さんと四十九院乃々葉さんが空気です、何せ2人共空気です。後、用務員の波多野玄三郎さん。
ちなみに丹波の戦国大名が由来です、波多野さん。親族の皆様には悪いですがなんか語呂が良くてつい、まあ某戦国シュミレーションゲームでの最弱デフォルト設定よりはマシでしょう。あれは素直に虐めだと思います、敢えてそこから頑張り折れたのが作者ですが、てかあれ勝てる人居るんですか?
さて、読者様によっては矛盾に気付いたでしょうか?
パッと見ると、この設定にはいくつかの矛盾があります。それは《タイムパトロール》がやって来た未来と《アバターエヴァン》がやって来た未来が別物な事だったり、未来ガジェットと《姫九里滸黄泉》が現代に共存していたりと様々です。
気付いていても、作者がどうまとめるか期待してくださる方も居るかも知れません。どちらかというと演出です、皆様安心して下さいとは言っておきます。
結果は中間かも知れないし、別かも知れない、片方が勝つかも知れないし、全滅するかもしれない……多世界解釈かはたまたコペンハーゲン解釈か、是非楽しみにしていて下さい。
私の物語は、まだ途中です。重なり合う歴史改編、どちらも主張は歴史改正なのですから……ね?
PS.執筆時間が勉強時間より長いのわっち……くそうくそう、順位一桁届かないくそう!(キルミーネタです悪しからず)




