日捲り暦を今日も破ろう。:序
「ふう、手間を掛させてくれちゃって……。で、貴女はどこぞの誰なのよ青髪」
「…………」
「聞いてますか〜っ?」
駄目だ、折角力の差を見せ付けたのに相手は何も喋らない。ただ無表情でこちらを見詰めて、ただの一言も発せずに瞬きをしているだけだった。
青髪の子、名前こそ知らないけれど敵対する存在なのは明らかだろうな。羽の付いた子には見覚え無いけど、2人共ウチの制服を着ていた。片方は鎧で殆どが見えなかったが、何せリボンが見えていたので一応は身に付けていたと思う。
敵がどんな容姿かはまあ良いとして、連中が葉月を攻撃してきた危ない連中だとは理解した。だけど、青髪からは何一つ聞き出せそうに無いのがかなり手痛い。へたりこむ虚ろな視線の少女を前に、私は目眩がしそうな頭を押さえた。
「どうしろって言うのよ……」
すると突如、誰も立ち入る必要が無いプール脇の草地にも関わらず足音が響いた。いつもの癖で跳ねてしまうが、それを起点に振り向き構えた。
不気味にうねる黒髪ウェーブと深い闇色の瞳、そして背中に羽がある少女。気付けば彼女が横に居た、気付けなかった悔しさに私は歯噛みしつつも身構えた。
「ふふっ、あははははははっ!! 案外貴女って強いのね? くくっ、吃驚しちゃったじゃないですかー」
彼女は、不良がバットでそうする様に長銃で肩を叩いていた。ちぐはぐな口調に猟奇的な笑み、唇が歪に歪んでいた。
「あ、あんたは……!」
「ふふっ、そう言えば名乗って無いわよね? 私は七ヶ崎乃々葉、《ルナシェルコール》とか周りは呼ぶ。身構えちゃって……殺られる気だったかしら?」
「七ヶ崎……?」
七ヶ崎乃々葉の問い掛けよりもその単語がやたらと耳を通った、“七ヶ崎”と言うとあいつの名字だから。偶然なのか裏があるのか、既成事実みたいで気持ち悪かった。
「七ヶ崎クンと名字が同じなのよ、私。興味津々ね〜……何故だか知りたい?」
「え、ええ……」
七ヶ崎乃々葉、初めて聞くが半分知っているその名前は無性に私を惹き付けた。探求心とか恋心とか、理由はともかく知りたかった。彼と彼女の関係って存在を。
「どうしても……知りたい?」
「う、うん」
「どーしても知りたい?」
「うん、知りたい」
「……やっぱ嫌」
「…………」
気紛れで拒絶されました、誠意は充分見せた筈だけれども足りなかったのだろうか。意外すぎて声こそ出なかったがそれこそ不気味、さっき銃撃してきた人と会話が成立しているのも気味が悪い。でも何より一番、空気と心臓に悪いと思う。
「なんて、冥土の土産に教えてアゲル。あの人が父親なのよ、七ヶ崎一喜憂が私の父親っ! 貴女負け犬なのよね、あはっ! 必死こいて馬鹿みたいじゃなあい? 知ってるわよ聞いたよ、前のループで見付けたわよ……さあ、希望折られて死になさい!!」
「……嘘、嘘でしょ?」
信じたくない、信じられない……でも確かに面影も感じる私がいた。嘘かもしれないけど、鮮やかな黒髪や強気な眼差しは確かに女の子版の彼な気がした。
似ていると言えば似ている、いや似ている気がする。似ているんだ、きっと。勝手に思考が先走り嫌な予測を突き付ける、私の頭を破裂しそうな痛みが襲った。七ヶ崎乃々葉の声が響いた、
「あははっ、馬鹿みたい馬っ鹿みたい!! 鳩が豆鉄砲食らった様な顔しちゃって……普通なら笑い飛ばすわよ普通なら。貴女どこまで溺れてるのよ気持ち悪い! きゃはっ、きゃはは!! 夢に溺れて死ねば良い、理想に溺れて溺死しちまえ!! 楽にしたげて《バラウールヴィラヒア》!!」
響くアラートが痛む脳裏にこだまする。輪唱の如く繰り返すそれに耐え、私はどうにか暗示を紡ぐ。
「証拠、無い……私は、私は負けない、負けてなんかいられない、私は……私はね! 私は負けてはいけないの!! 《姫九里滸黄泉》、力を……貸して!!」
「いいよ、第二ラウンドを始めましょ!! あは、あははっ、あはははははははははははは!!」
私は、私は……っ!!
短いです、ギリギリな作者は滑り込むのです!
PS.休載……どしよ?




