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裸天使にバスタオル、僕には生きる意味を下さい。  作者: にゃんと鳴く狐っ娘
Loop.XXX【calendar 君の歴史】
122/126

もう、選ばなくて良い。


 ――ああ、また死ぬんだ。




 そう――思った時だった。




「ねえ、七ヶ崎くんは……胡蝶の夢って信じますか?」


 時が止まる、いや、少女の声は響いていた。


「人は夢で蝶になる、しかし私達こそ、蝶が見てる夢かも知れない」


 そんなの、どうでも良いですよね。と彼女は笑った。


「天獄ゲームはおしまいです、選ぶ必要なんて、ないんですもの」


 僕の右脇を、通り過ぎるように彼女は歩く。草が揺れるも、音は鳴らない。


 まだ、まだまだ届かないのだ。伸ばす手も、喉まででかかった声も、彼女の支配下では、届かない。


「もう、流される日々もおしまいです。遅れたなら、加速すればいい。目覚めた因子を、君にあげます」


 そういい、後ろに移動した彼女に振り向かさせる。すぐさま、唇を塞ぐ間隔。ちろりとだけ、彼女の舌が僕の口に入り込む。高鳴る鼓動は、僕の中に響き渡り、無論外に漏れず消える。


「大丈夫、私も初めてだから」


 感じる違和感、そんな中、四十九院乃々葉は舌をちろりと悪戯に出し、微笑む。


 こんな表情も出来るんだと、あまりにも非現実的ながら温かい時間の中、少女に感動する。


「鍵はもう、貴方の手のひらの中。信じてる、お父様。"私の大好きな人"……!」


 少女がお腹から、ぐんぐんと黒く染まっていく。彼女に食い込んだ鱗片が、彼女という存在を喰らい尽くす。


 息を呑む、それは存在の延命でしか無い。


 僕は言う。


「ありがとう、さんざん振り回したし、振り回された。助かったし、楽しかったよ」


 止まった時の中、徐々に全身が墨の様な黒に包まれていく少女が笑った気がする。


「愛してる。こんな、煮え切らない僕でごめん。愛してる、もう言ったっけ……」


 消える、手を伸ばすも、間に合わない。もう、僕が手にした無限に等しいこの時間の中でさえ、彼女はぐんぐん蝕まれていく。


「見つからないよ、わかんないよ!! こんな、こんなに散々振り回して、挙句最後は置いてきぼりかよ!! 絶対、破綻してるんなら助けてやる!! 何百何億何千年かかろうと、時を越えても助けてやる!! みんな揃って明日に行く、君もだ!! 約束する!!」


 くそっ、悪態を付くも、何も変わらない。


 僕は、振り向く。漆黒の弾丸、僕を穿つ筈だったそれと向き合う。


 少女の、醜い死に様を背に、綺麗な彼女の微笑みを、あの黒くも美しい御髪を脳裏にだけ思い描き、拳を握り締める。未来ガジェット八号機《誰も知らない物語》、あの黒い銃が僕の手の中にあった。つくづく、黒に嫌な縁が在る気がする。それでも、僕は弾を確認し、撃鉄を起こす。時間ならまだある。


 彼女が、命を賭けて作ってくれた時間が。僕にくれた無限が。


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