“お父様”
「どういう事なの、一喜憂?」
久遠が尋ねてきた、髪を手櫛で撫で付けながら。さらりと、良い香りを漂わせながら小首を傾げてくる。
僕にも分からなかった。そもそも、変な発言をしたのは乃々葉であるからして。
「乃々葉、どうして僕を『お父様』だなんて呼び方をしたんだ? それと、旧理科室でのやり取りの意味は?」
「…………」
顔を伏せ、肌に汗を浮かべて沈黙する乃々葉。
その奥で、久遠が飛び跳ねた。その音すら、僕には遠巻きに聞こえていた。
「ちょっと、友人A……!!?」
驚き、蒼白になった久遠。その視線を、過去さんと未来さんの手のひらが覆った。
2人は、久遠を静かに椅子へと座らせて囁く。どうやら、今回の経緯らしいが、そこは流石に聞き取る余裕は無かった。
そして、青髪の少女、西園寺百合香はまだ寝ている。まるで、眠り姫。青い髪、そして蒼白い肌が尚更その印象を強くさせた。
吐息は深く、沈む様に長い。
寝顔だけなら天使なのにと、乃々葉の答えを待ちながらふと考えてしまった。これじゃあ、本当に浮気性みたいだ。
そう思ったその時だった。口を閉じていた乃々葉が、遂に吐息を漏らして口を開いた。
「お父様、私は未来の娘なの。貴方の、七ヶ崎一喜憂くん、貴方のね」
「――は? え、ちょっと待って娘って」
さらりと告白した乃々葉。一瞬言葉の意味を飲み込めず、理解した瞬間に頭がぐちゃぐちゃになる感覚がした。
最初は、突然にクラスにやってきた転校生。友人Aの席に座り、僕の前に立ちはだかった謎の美少女。次には、同じくループに囚われた者として出会った。
そして、今は数少ない仲間の1人だった彼女。四十九院乃々葉が僕の娘だなんて、僕にはそれが信じられなかった。
「《アバターエヴァン》、最初期には疑似筋肉や疑似神経となり得る万能薬剤、医療技術として開発されたそれが兵器転用されるのは未来の話よ。私の父は、心臓が機械だった私に逢いたい一心で都合の良い医療用ナノを開発したのよ。途端に拐われちゃったから、顔すら見れていないんだけどね」
「は……、ははっ。う、嘘だろ……?」
同い年で、同じような背丈で同じ場所に居て、同じく未来からの使者と戦っている彼女が、僕の娘。このまま行けば、久遠と僕の娘であろうか。そんな彼女が、未来人で、話を聞く限りは《アバターエヴァン》らしい。
ふと、脳裏に浮かんだ狂気の笑み。七ヶ崎乃々葉、あいつの名前もこれの伏線だったのだろうか。そんな、認めさせようとしてくる関連性に胸が苦しくなる。
僕は、彼女は一体何者なのだろうか。
「何故、この時代に来たんだ? その前提として」
「クオンさんから聞きました、この時代の貴方には仲間が必要なんだって。そう、教えられたのです」
「だから、お前が助けに来たと?」
「七ヶ崎の血には、ループを切り抜ける糸口がありますから。私にも流れる、ループを繰り返せる《アダムユニット》の血が。お父様、有り難うね」
乃々葉は、戸惑う僕へと微笑んだ。
一方、脇では葉月が立ち尽くしたままで呟く。やはり知っているのだろうか、僕は彼女に尋ねてみる。
「《アダムユニット》……」
「知っているのか? 葉月、知っているなら答えて欲しいな。それは、《アダムユニット》とは何なんだ? 一体……なんだって言うんだ?」
「はい、それは――」
また、物語は進み始める。おはようございます、作者です。
今回はまた、大きな流れが一変しました。時間はないので、取り敢えずは次回に期待とそれだけでも。
おやすみなさいませ。また、次回にでもまた逢いましょう……ね?
P.S.矛盾があったら困るので、後で確認と手直しを行いますね?




