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第3話 透の正体

 目の前に、同一人物が二人居る。

 透が、二人。

 いや、正確には透の姿をした“何か”だ。

 姿形は髪の毛一本さえ違わぬものの、仕草や表情が明らかに違う。まず、透はこんなに暗い表情ではない。

 いや、“暗い”と言うより“恐い”のか。明らかにこちらを睨みつけている。祐貴を威嚇している様だ。

 本物の透は、偽者の透の頭を撫でている。

「よしよし、そんなに警戒しなくて良いよ。」

 その光景に、どこか吐き気を憶えた。

「……?どういう……。」 

 ――ボンッ

 “どういう事なのか”と聞き欠けた祐貴だが、それは何かが軽く爆発する様な音に邪魔された。見ると、偽透が居た所から煙が立っている。

 そこに偽透の姿は無い。代わりに、黒い猫が全身の毛を逆立てて祐貴を威嚇していた。

「ほら、もう少しおとなしくして。」

 透がその猫の頭を撫でる。

「……え?」

 祐貴には、目の前の状況がいまいち飲み込めない。

「その猫は……。」

「ん?ああ、この子?」

 透は、その猫を抱き上げた。

「この子はねぇ、ファシーっていうの。“ファシー・フォア”。」

「ファシーフォア?」

 祐貴がその時最初に思ったのは、(ペットに名字を付けるなんて変わってるなぁ。)ではなく、(何でそんなに長い名前なんだよ。)だった。

 抑、この世界には外国という存在が無い。海はあるが、その向こうには暗くて恐ろしい空間が広がっている。そのため、ここには英語はもちろんそういう名前も無い。

 つまり祐貴の頭の中では、猫の本名は“ファシーフォア”で、“ファシー”はその名を縮めた略称だと変換されたのだ。

 因みに、“コーラ”や“バスケット”などの言葉は、昔からあると思われている。何故それを誰も調べようとしないのかと言えば、答えは単純に、誰も興味を示さないからだ。

「……ファシーは、お前の何なんだ?……ペットって言っても、俺は信じないぞ。」

 聞きたい事が多すぎるので、まず率直な質問から崩していく事にした。透の返答が期待できないので、一応ダメ出しをしておく。

「ペット……。いや、この世界では召喚獣の方がしっくり来るかな?」

「召喚獣……?」

 どこかで聞いた気がする……。

 ――あぁ、思い出した。

 俺の趣味を探ろうとした奴等が、召喚獣の出ている何かのゲームを話題に揚げていた。確か、魔法陣とか言うのを使って召喚するとか。

 ――待てよ。そうなると透はつまり……。

「……お前、召喚士なのか?」

「んー……。まぁ、この世界ではそうなるかな。」

 さらりと、凄い事を透は言う。いや、それ以前にそんなものがこの世に存在したのか。

 しかしここで、祐貴に一番の疑問が残る。

「……じゃあお前が召喚士だとして、俺に何の用だ?」

 考えてみれば、祐貴は別に何もしていない。なのに、透はこの高校に入学した時から祐貴に付き纏っていた。

 祐貴の中ではホモ疑惑も消えかかっているので、改めて理由を知りたいのである。

「君に何の用と言うより、君の持ち物に興味があるんだよねぇ。」

「……俺、何も持ってない。」

 祐貴がポケットを裏返した。

「いや、そういうのじゃなくて。」

 透が頭を掻く。

「君が持ってる魂に興味があるんだ。」

 祐貴はいよいよ訳が解らなくなってきた。抑、人間に魂があると祐貴は信じていない。

「……俺の魂?」

「ううん、ナイトの魂。」

「……またか。」

 やっと本題に入ってきた。なんと言っても、こいつの意味不明な発言を解く事が最終目的だ。

 祐貴は一歩詰め寄った。

「そのナイトの魂は、お前には見えてるのか?」

「特別でね。」

 透は微笑んだ。

「トラディ……。僕みたいな人にとっては、魂が見えないと都合が悪い理由があるんだよ。」

 透が何かを言いかけて口をつぐんだ。

 多少気になりはするものの、今は重要ではない。なので、触れはしなかった。

「……で、ナイトの魂に興味があって、俺にどうしろと?」

 祐貴が嘲笑う。

 それはそうだ。祐貴には自分がそんなものを持っていたという自覚など無いのだから。

 今いきなりそんな事を言われても、祐貴にはどうしようもない。

「見たところ、その魂は何か……記憶のようなものに縛られてるみたいでね。僕はそれを助けたいんだよ。」

「……記憶?」

 何かが、祐貴の中で騒ぎ出した。

 心臓が脈打っている。

「そう、記憶。」

 透が近付いてくる。

 祐貴は、無意識に一歩下がった。

「十年位前のかな?その記憶。」

 祐貴の体が震えてくる。

「なっ……。止めろ!」

 祐貴は怖くなって思わず叫んだ。

 透が足を止める。

「どうしたの?……そうか。」

 透が何かを理解した。

「とても嫌な記憶なんだね。」

「うっ……!?」

 透の言葉を聞いて何かを思い出しそうなのだが、吐気がそれを邪魔する。

 祐貴は頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。

「やっ……。止めろ!止めろッ!」

 ――お願いっ……!

 祐貴の頭の中に幼い男の子の声が聞こえてくる。

「俺は……。」

 ――僕は……。

「もう二度と……!」

 ――絶対にっ!

「思い出したくないんだああぁぁぁーーッ!!」

 祐貴の頭の中を電撃が走り、記憶の奥底のそのまた奥に封印した触れてはいけない扉を、祐貴は再び開けてしまった。

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