第10話 激闘の果てには
また書き方を変えました。
祥はタートの落下攻撃を避けた後、直ぐに炎を放った。
とてつもなく硬そうだが、所詮は亀。動きは遅い筈だ。
超攻撃力の炎を連射すれば、あっと言う間に終わるだろう。
しかし遅い筈の巨大亀は、瞬きをした瞬間に消え去った。
だが、別に標的を見失った訳ではない。
あの小僧と巨大亀が消える事も、更にその行き先まで、既にある程度の予想はついていた。
上を向いて、自分の予想が間違っていない事を確認する。
そして迫ってくる黒い塊を見ると、毎度同じ様に避け、攻撃をするあの小僧に、溜め息が漏れ、段々と腹が立ってきた。
「……同じ事を何回も繰り返されるとよぉ。」
手を上に向ける。
そして、その手の中に光の玉を作り出した。
「つまんねぇんだよッ!!」
――瞬間、爆音と轟音が混ざり合う。
再び落下してきた巨大亀に光の玉をぶつけ、凄まじい爆風で斜め上へ吹き飛ばしたのだ。
それも丁度真ん中にぶつけたのならば、巨大亀はただ真上に吹き飛ばされただけで、俺は今頃そいつの下敷きになっていただろう。
しかし自分から焦点をずらし、巨大亀を斜め上へ吹き飛ばす事で、それを回避したのだった。
吹き飛ばされた巨大亀は地面を破壊しながら着地し、黒く焦げた腹を上にしながら必死にもがいている。
しかし、ここで気を抜いてはいけないとわかっていた。
ピエロの様に観客の意表を突くあの小僧にとっては、恐らく、ここからが勝負なのだろうから。
その証拠に、巨大亀を爆撃してから、奴の姿が見えない。
今までのパターンから言って、どこかに瞬間移動したのは明らかだ。
そして、その行き先を予想すれば……。
「……そこか!?」
言いながら、後ろを振り向く。
しかしそこに奴は居らず、ただ虚しく電柱が立っているだけだった。
「……どこだぁ?」
予想が出来ない。
恐らく、どこかに隠れているのだろうが、その先がわからないのだ。
その時、何か耳障りな音が聞こえている事に気付いた。
(何だ……?)
俺は、それがとても気になった。
風を切る様な高い音。しかし、その発信源がわからない。
つまり、あの小僧が起こしている可能性もある。
気になり、落ち着かずに辺りを見回す。
――と、
「ギエェェェーーッ!!」
突然、鋭い鳴き声。
「あ゛ぁッ……!?」
それと共に、背中を激痛が走った。
「残念でしたぁ〜。」
笑みが溢れる。
その腹には、青い魔法陣が光っている。
僕はその魔法陣から召喚したLV3の“バーディス”で空中から急降下し、この人の背中を引き裂いたのだった。
この人は唸り、振り向こうとする。
「てめッ……うおああぁぁぁッ!!」
しかし、攻撃の手を緩めない。
この人が反撃しようとした瞬間、バーディスに命令し、右肩に噛み付かせた。
「ぐおぉぉ、ああぁぁぁッ!!」
ミシミシと骨の鳴る音がする。
それに応じて、悲鳴が辺りに響いた。
ここで、僕はこの人の動きを封じたと思い、一緒に旅に行こうと交渉を試る事にした。
「ねぇ、提案なんだけど」
「がああぁぁぁッ!!」
しかし僕の言葉を遮り、この人は咆哮を轟かせる。
そして、右肩にある巨大な嘴を右手で掴んだ。
「お゛ぉい!焼き鳥が食いてぇなぁッ!?」
後ろを振り向き、バーディスの目を睨む。
すると、この人の迫力に圧されたのか、バーディスはいきなり嘴を離した。
「バーディス!?」
自分の召喚獣が命令に背いた事は、僕には一度も無い。
その所為で、僕は頭の中が真っ白になり、この人がバーディスの嘴を掴んで離さない事にも気付かなかった。
「だあぁぁぁ……!」
俺はこのデカイ鳥に振り回されながらも、両手で嘴を掴み、手の先に熱を溜める。
そして熱が溜り切った瞬間、そのエネルギーを一気に解放した。
「燃・え・つ・き・ろッ!!」
――瞬間、爆発と炎上。
巨大鳥は炎に包まれ、その背中に乗っていた小僧は後方に吹き飛ばされた。
しかし小僧は気を取り戻し、杖で何回も地面を突いて衝撃を緩和しながら着地する。
それと同時に、杖で突いた地面に魔法陣を張り、新しい召喚獣を召喚した。
「LV3召喚、“ラター”!」
出てきたのは、あのネズミだった。しかし、あの時のネズミとは違う。
まず、その大きさが違う。常人の見る限り、それは最早ネズミとは呼べないだろう。まるでバスケットボールの様に大きい。
しかも背中には無数の棘が生え、ハリネズミと化している。
そしてその召喚された五匹のネズミは、攻撃の反動で動けない俺の体のあちこちに噛みついた。
堪らず、俺は悲鳴を上げる。
「ぎゃああぁぁぁ!!ぐ……おおぉぉぉッ!!」
しかし、噛みついた瞬間に炎を纏ってやる。
その炎に焼かれ、ネズミ共は小さくキィキィと鳴きながらボタボタと地面に落ちた。
「っ……全く……。厄介な相手に手を出しちゃったなぁ。」
奴が苦笑する。
奴の着ている服は焼け、ボロボロだ。先程の爆発で焼けたらしい。
もちろん、自身へのダメージも少なくはないだろう。
しかし俺も、かなり傷を負ってしまっている。
まだ、倒れはしないが。
「そろそろ本気を出さないと……マズイかな?」
小僧はそう呟くと、未だ腹を上にしてもがいている巨大亀と、未だ炎上を続けているデカイ鳥とネズミとを全て帰す。
そして一回深呼吸をすると、杖を地面に突き立てた。
「……はぁっ!」
そして杖に力を込めると、杖を中心に半径5メートルはあろうかという召喚陣が形成される。
「出よLV15召喚!古よりの災い、“ドラゴ”ッ!!」
――青い、閃光。
召喚陣から発せられた、眩い光。
その光の後に立っていたものは、その場の空気を一変させるものだった。
――それは、竜。
誰でも、絵本ぐらいでは読んだことがあるだろう。
力強い足と胴体に、巨大な翼。
手には鋭く長い爪があり、どんな物でも簡単に引き裂いてしまうと言う。
そして竜の体の中でも最も恐れられているのは、長い首の先にある頭から放たれる、全てを焼き尽す業火。
体色は様々な色があるが、この竜は灰色だった。
普通なら、この巨大な竜を見れば誰でも恐怖するだろう。
しかし、俺はこの竜を見て怯むどころか、笑っていた。
「ヒャハハハハ!良いぜぇ、そう来なくっちゃなぁッ!!」
そう叫び、左手に光の玉を作り出す。
そして更に、その上に右手を添え熱を加えて、どんどん大きくしていった。
「こいつは……特別製だぜぇ……!!」
出来上がった巨大な光の玉を、高々と掲げる。
それを見ると、小僧も笑った。
「フフッ……死なない程度には、しておいてね……!」
そう言い、奴が杖を前に突き出す。
すると、竜が口を開け、光を口の中に集めていった。
そして、それが丁度俺のものとほぼ同じ大きさになると、奴は光を集めるのを止めさせた。
「僕も、殺さない程度にはしておくからさ……!」
二人は対峙したまま、暫く睨み合っている。
この光景を見ていた俺は、焦っていた。
それは、俺にこの戦いの先が読めたからである。
何故かはわからない。ただ、なんとなく読めた。
この後二人は、自分の力をぶつけ合うだろう。
そしてその結果は……
――死だ。
力の塊は二つとも爆発して、二人はそれに巻き込まれる。
今止めなければ、二人は永久にこの世を去ってしまうだろう。
そして、止められるのは俺しかいない。
この場には俺しかいないのだから。
ならば、止めるにはどうすればいいのか?
俺は、辺りを見回した。
そして、すぐ足下に転がっている先の尖った金属の棒を見付けると、それを手に取り、握る。
俺に、何が出来るのだろうか?
下手をすれば、自分も死んでしまうかもしれないのに。
でも、今はこれに頼るしかない。
幼い頃、自分の父をも殺した恐るべき力。
――そう、ナイトの魂に……。
見ていると、あの人が走り出した。
それがこの戦いの終幕。
幕の下には全員が最後まで立っているのか、それとも一人が残り涙を流すのか。
そもそも、最終幕の台本などは存在しないのか。
――誰に聞いても分かりはしない。
分からねばこそ、進むのみ。
――だから俺は、走り出した。
雄叫びを上げながら。
今回変えた部分はかなり多いですが、特に大きな点は、客観から主観に変えた事です。これについて、感想待ってます。