第九話 ライバル
一人の少女が、仄香の いる街へ辿り着いた。少女の名前は、綾瀬川沙耶華。ブロンドの長い髪でいつも毛先は縦ロールに している。
沙耶華は、自分と同じ事をしている人がいると聞き付けやって来たのだ。「やっと着きましたわ。この街に私と同じ魔狩りがいるのね。会うのが楽しみですわぁ~」
そう、沙耶華も仄香と同じ魔狩りなのだ。沙耶華は、自分とどちらが実力が上なのかを確かめる為に街へとやって来た。
「沙耶華も負けず嫌いだからニャ。どっちが上なのか楽しみだニャ」
「フッ、沙耶華が負ける訳ないじゃないか」
「そうですわ。私が負けるなんてあり得ません。圧勝ですわ」
と、沙耶華の隣にいる獣に言った。沙耶華にも魔狩りの守護獣がいたのだ。沙耶華の守護獣は、ライオンの首とワシの首の二つの顔を持っている獣だ。身体はライオンで背中にはワシの翼が生えている。キマイラと言う守護獣だ。
「この街の何処にいるのかしらね。私のライバルになる魔狩りさんは?」 「フッ、この街にいるのは間違いないさ。後は、その魔狩りが可愛い女の子だったらいいだけの事さ」
「早速出たニャ。イラっちの女ったらし発言」
「フッ、キラくん、女ったらし発言とは失礼だよ。僕は、どこからどう見てもイケメンじゃないか! こんなイケメンの僕を見たら女性だって黙ってはいないさ」
「イケメンってイラっちは鳥だニャ。イケメンの鳥って見ただけで気持ち悪いニャ」
「フッ、好きなだけいいたまえ。僕は、自分に自信持っているからね。魔狩りの女の子に会ったら証明してあげるさ。僕がモテるって事をね」
「ったく、キマちゃんもイラちゃんもくだらない事言ってないで早く探しますわよ。それと、イラちゃん、私以外の女の子にうつつを抜かすようならどうなるか分かってますわよね」
と、沙耶華はキッとイラに睨みをきかせた。
「フッ……沙耶華以外にうつつを抜かしたりはしないさ……」
「イラっち沙耶華の前では気をつけニャよ」
と、キマが沙耶華に聞こえないように小声で言った。
一方、その頃仄香達は いつものようにオルトロスと特訓をしていた。ただ、いつもなら仄香とオルトロスだけだったのだが、今は進藤も一緒に仄香の特訓を見ていた。
「仄香さんは、毎日こんなハードな特訓していたのですか?」
「そうなんですよ。オルちゃんトロちゃん手加減なしでくるんで、こっちも必死でやらないと大怪我になりかねませんから……」
「甘いんだよ。まだまだ、厳しくいくぞ。これまで何とか魔族の野郎を倒してきたが、これからもっと手強い魔族が出てくるかもしれねぇんだ。この特訓でヘコタレてたら殺られてしまうぞ」
「分かってるよ。さぁ、もう一回やろうか! オルちゃんトロちゃんいつでもいいよ」
「お、仄香はん、やる気満々ですやん。では、行きますえ」
トロの口から炎が仄香目掛け吐き出された。仄香は、直ぐ様炎を回避して、近くに落ちていた鉄パイプを持つと、鉄パイプを右手に持ち構えた。
トロが、再び炎を吐き出し、少し間を置いてオルも炎を吐き出した。仄香は、トロの炎を難なくかわしたが、すぐにオルが放った炎が仄香へと当たる瞬間に仄香は、持っていた鉄パイプで炎を防いだ。防いだ瞬間に辺り一体が炎の煙に包まれ、全く周りが見えない状態の中、仄香は、煙の中を素早く移動した。
煙が、消えた頃オルトロスが仄香がいない事に気付いた時には、仄香は既にオルトロスの首元に鉄パイプを構えていた。
「ふぅ~、今日は私の勝ちかな?」
「しゃーねぇな。今日はワシ等の負けじゃな。仄香もだいぶ成長したって事じゃな」
「ホンマやで、ワテ等を出し抜くとは一本取られましたわ」
「ありがと。でも、もっと強くならなきゃね」
「お疲れさまです。仄香さん、オルちゃんトロちゃん」
進藤は仄香にスポーツドリンクを手渡した。
「ありがとうございます進藤さん」
「あっ、オルちゃんトロちゃんにもありますからね。どうぞ」
進藤は、オルトロスの前にドックフードを置いた。それを見たオルが
「テメェ、ドックフードとはいい度胸じゃねぇか。ワシ等は見た目は犬だがれっきとした魔獣なんだよ。こんなショボい物なんか食えるか」
「オルちゃん」
「何だ? 仄香?」
「れっきとした魔獣なのは知ってるよ。でも、トロちゃんが……」
「はぁぁ」
オルがトロの方を見ると美味しそうにドックフードを食べているトロの姿が目に入った。
「トロ、テメェ~、魔獣のプライドってもんがあんだろ。犬みたいにパクパク食べてんじゃねぇよ。まったく」
「ええやん。食べてみたら意外に旨いんやで。ワテ気に入ったわ」
「お前って奴は……」
「あはは、ほんとオルちゃんとトロちゃんはいいコンビだね」
「やかましいわ、さっさと家に帰るぞ。早く背中に乗りやがれ」
仄香と進藤はオルトロスの背中に乗り進藤を送り仄香達も家路に着いた。 仄香達が家路に着く途中にオルトロスが何かに気付き
「ワシ等と同じ気配を感じたんだが……」
「確かにワテも感じましたわ」
「どういう事なの?」
「ワシ等にも分からん」
次の日、仄香達は学校に行くと
「やっぱり、ワシ等と同じ気配の奴が近くにいるな。昨日より強く感じるぞ」
「そうなの? 魔族なのかな?」
しばらくするとチャイムが鳴りホームルームが始まった。ホームルームの前に担任の先生が、転校生を紹介した。先生の隣にいた、ブロンドの長い髪をした女の子が挨拶した。
「初めまして。私、綾瀬川沙耶華と申します。みなさんよろしくおねがいしますね」
「では、綾瀬川さん、相澤さんの後ろの席に座って下さい」
「分かりましたわ」
沙耶華が、仄香の後ろの席に座り、授業が始まった。午前中の授業が終わり、仄香は、昼御飯の弁当を屋上のベンチに座って食べていると、オルトロスが仄香の元に来た。 「オルちゃんトロちゃん何か分かった?」
「いやぁ~、全く分かりまへんわ。何やろな? この気配」
「そっかぁ~」
その時、背後から氷の矢みたいな塊が仄香に向かって飛んできた。オルトロスが気付き
「仄香、頭を下げろ。危ねぇ~」
「えっ、何?」
仄香は、咄嗟に頭を下げると、仄香の頭の上を氷の矢みたいな塊が通り過ぎた。
「へぇ~、なかなかやりますわねぇ~。私のフリーズアローをかわすとは。私のライバルにふさわしいですわね」
「誰? 何処にいるのよ?」
「私は、ここですわ」
仄香の上の方から声がする為、うを見上げるとオルトロスによく似た魔獣に乗っている女の子が目についた。
「えっ、あなたって……綾瀬川さん?」
「その通りですわ」
沙耶華は、仄香の前に降りて来た。
「綾瀬川さん……その生き物って?」
「この子は、私の守護獣のキマイラですわ。私もあなたと同じ魔狩りですから。さっきのは、簡単な挨拶ですわ」
「テメェ等うちの仄香に何しやがる」
「フッ、まぁ落ち着きなよ」
「まさか、私と同じ魔狩りがいたなんて……」
「相澤さん、あなたに勝負を申し込みますわ。どちらが先に魔族を倒すかいいですわね」
「ちょ、ちょっとそんないきなり」
「嫌とは言わせませんわよ。では、早速魔族捜しと行きましょか。キマちゃんイラちゃん。お~ほほほ」
沙耶華は、高笑いをしながら屋上を後にした。
「どうしよう、オルちゃんトロちゃん」
「まぁ、勝負って言われたらやるしかねぇだろ。あんな奴等に負けらんねぇよ」
「せやね、じゃ、ワテ等も魔族捜しに行きますかぁ~」
そうして、仄香と沙耶華の勝負が始まった。