第六話 深夜の施設
深夜の繁華街の裏道で仄香の前に現れた小学生ぐらいの男の子。仄香は、男の子に
「君? お名前は? こんな遅い時間に何してるの?」
「お姉ちゃんだれ? 僕は、宮原達哉だよ」
「私は、相澤仄香って言うの。で、達哉くんは何してたの? パパとママは?」
「僕……パパもママもいないんだ。いつも独りなんだ。パパとママ僕を置いていなくなっちゃったんだ。だから、今は施設ってとこにいるの」
「そうなんだ。でも、こんな遅くに出歩いてたら施設のみんなが心配しちゃうよ」
「ううん、それはないと思う……施設でも僕独りぼっちだし……僕なんかいなくなっちゃえばいいんだよ」
「そんな事はないよ。私だって心配してるじゃない。一緒に行ってあげるから今日は施設に帰ろうよ」
「う……うん、分かった。お姉ちゃん優しいね」 仄香は達哉を連れて達哉が暮らしている施設へと向かった。
施設の前まで達哉を送り 「じゃぁね、達哉くん」 「うん、お姉ちゃんありがとう。今度遊びに来てくれる?」
「うん、今度遊びに行くね」
と、約束をして仄香は家路に着いた。
「仄香、お前あんな約束しやがって、魔族捜しはどうするんだよ」
「魔族捜しはちゃんとするよ。ごめんね、何かほっとけなくってさ」
「仄香はんは、優しい人ですなぁ~。ま、そこが仄香はんのええとこなんやろうな」
「そうなのかなぁ~、ありがとうトロちゃん」
仄香達は、次の日も繁華街でオルトロスが感じた魔族の気配を元に調べて回った。
「今日は、気配感じる?」
「いや、今日は感じないな」
「そうなんだ。移動してるのかな?」
その後もいろんな場所を捜してみたが気配は感じなかった。
「くっそぅ~、また振り出しかよ。いったい何処に魔族のヤローはいるんだよ」
仄香達が、家路に着こうとした時、ふいに声を掛けられた。
「相澤さんじゃないですか? どうしてこんな時間に出歩いてるんですか?」
仄香が振り向くと、進藤がいた。
「いや、ちょっと色々ありまして……」
「気を着けて下さいよ。この前も言いましたが、最近、深夜に切り裂き魔が出るので」
「はい、分かりました。じゃ、失礼します」
仄香は、そのまま家路に着いた。
「ねぇ、オルちゃん、トロちゃん、あの刑事がいたって事は、やっぱりあの辺が怪しいのかな?」 「そうかもしれまへんな。明日は、見つからないように調べましょうかぁ~」
「うん、そうだ、明日この前会った達哉くんのとこに顔だしてくるね」
「ワシらも着いて行くわ」
次の日、学校を終えて 仄香達は、達哉が住んでいる施設へと向かった。 施設に着いて達哉を捜していると、施設から少し離れた倉庫の中から声が聞こえた。
声が聞こえた倉庫の方へ行ってみると数人の子供達が達哉を取り囲んでいた。
「達哉! お前いつまでここにいるんだよ。ウザイんだよ。早く出ていけよ。みんな迷惑してるんだからさ」
一人のリーダー的な存在の男の子が達哉に向かって言った。
周りの子供たちも、一緒になって達哉をいじめた。達哉は、座ったまま黙っているだけだった。
「黙ってないで何とか言えよ」
と、達哉に向けて石を投げつけた。それを合図にいじめっ子達は、達哉に向かって水をかけたり石を投げつけたりした。
それでも達哉は何も抵抗せずじっとしていた。
「それにしても達哉! お前、臭いなぁ~。今後、俺達に近づくなよ。お前の臭い匂いがうつるからさ。その前に、お前を消臭してやるよ。ありがたく思えよ」
と、リーダーの男の子が消火器を達哉に向けて放った。達哉は、消火器の粉をまともに受けて体中真っ白になってしまった。そんな達哉を見ていじめっ子達が一斉に
「あっははは~、こいつ本当バカだよね。早く消えてくれればいいのに。ざまぁみろ」
と、言ってその場を後にした。
仄香達は、その場に座りこんだままの達哉の元に駆け寄った。
「た……達哉くん、大丈夫?」
「あっ、お姉ちゃん。嫌なとこみられちゃったね。僕、いつもこうなんだ。ここにいても、いじめられるし……学校に行ってもいじめられちゃうんだよ。だから僕なんかいなくなった方がみんな喜ぶんだろうな」
「何言ってるの? 達哉くんは悔しくないの? 達哉くんは何も悪い事なんかしてないんでしょ? 私は、悔しいよ。何も悪い事してないのにいじめるなんてそっちの方が最低だよ」
「お姉ちゃん……ありがとう。本当は悔しくて仕方ないよ。でも、いつも僕は仲間外れだし……もう馴れちゃった」
「達哉くん……」
その時、オルトロスが何かに気付いた。
「達哉くん、私でよければいつでも遊びに来るからね」
と、言って仄香は持っていたタオルで達哉の体を拭いた。
「お姉ちゃん、ありがとう。今日は、ごめんね。また、来てね」
「うん。じゃ、またね」と言って仄香は、達哉を施設の中まで送って家路に着いた。
家路に着く途中オルトロスが
「仄香、あの達哉って子供なんだが、さっきあいつから魔族の気配を感じた。もしかすると……」 「そんな……嘘だよね。あの達哉くんが魔族って……」
「仄香はん、気配はワテも感じましたからおそらくあの子が魔族やと思いますわ」
「そ……そんな」
「今夜、さっきの施設へ行ってみましょう」
「う……うん」
深夜になるのを待って仄香達は、達哉のいる施設へと向かった。
するとそこには、達哉をいじめていた子達が、切り刻まれて倒れていた。 仄香が駆け寄ると、まだ息があった男の子が
「た……助けて。た、達哉が急に……みんなを……」
「君、しっかりして。達哉くんは何処に行ったの?」
「わ……分からないよ。まだ、近くにはいると思う……」
と、言い残し男の子は息絶えてしまった。
仄香達は、倉庫の方へ向かうと、達哉をいじめていたリーダーの男の子と達哉がいた。リーダーの男の子が泣きながら
「達哉、俺が悪かったよ。謝るから許してくれよ。頼むから」
と、達哉に怯えながら言っていた。達哉は
「散々、いじめてくれて、いざとなったら謝るんだ。いいよ、許してあげても」
「本当か?」
「うん。でも、お前の命をもらってからだけどねぇ」
と、達哉が言った瞬間、達哉の体に黒い霧が纏った。すると、達哉の姿が醜い化け物に変わった。男の子は、腰を抜かし
「誰か、助けてぇ~」
と、叫ぶも化け物と化した達哉に鋭い爪で切り刻まれた。
仄香は、達哉が醜い化け物に変わってしまったのを見て愕然としたが、自分は魔狩りなんだと言い聞かせ、化け物と化した達哉の元へと向かった。 「こいつは、ゾンビだぞ。こいつに噛まれたりすると大変なことになるから気をつけろよ」
「うん。わかった」
ゾンビは、仄香達に気づき
「何だ、お前達。俺のじゃまをしに来たのか?」 「そうよ。あんたに恨みはないけど狩りにきたのよ。神より与えられし魔狩りの力よ我が右手に宿りたまえ」
仄香の右手が光だした。仄香は、倉庫にあったスコップを握りゾンビに向かって身構えた。
「キ……キサマ魔狩りかぁ~。俺のじゃまをするなぁ~」
と、仄香に向かって右手を振り下ろした。仄香は、すかさずスコップでゾンビの右手を振り払った。ゾンビが、態勢を崩したのを見計らって仄香は、ゾンビの足に目掛けてスコップで殴った。
間髪入れずオルトロスが、倒れたゾンビに炎を吐いた。ゾンビはまともに炎を喰らったが、ゾンビは、再び立ち上がった。 ゾンビの体から異様な匂いが漂ってきた。
仄香は、鼻を押さえて
「何? この匂い? 臭い」
「それは、そうだろ。コイツはゾンビなんだぞ。死体なんだよ。臭いに決まってんだろ」
「臭いって言うなぁ~」ゾンビが、怒って仄香に襲いかかる。仄香の左腕に当たり、仄香の左腕から血が溢れる。
「仄香、大丈夫か」
「うん。大丈夫だよ」
「この野郎、腐った死体の分際で」
「僕は、腐ってなんかないもん。魔狩りの分際で僕をいじめるなぁ~」
「いやいや、腐ってるやん」
「腐ってなんかないもん。僕を怒らすなぁ」
再びゾンビが腕を振り上げ仄香へと振り下ろす。 仄香は、身を翻しゾンビをかわす。
「オルちゃんトロちゃんゾンビどうやって倒したらいいの?」
「ゾンビは動きが鈍いから、後ろに回ってゾンビの首を切り落とせ。そうしたらゾンビは終りだ」 「わかった。やってみるよ」
仄香は、ゾンビの後ろへと回り込むと、オルトロスがゾンビ目掛けて炎を吐いた。ゾンビが一瞬怯んだ瞬間、仄香は
「あんたに恨みはないけど、魔族は見逃せないの。残念だけど狩らせてもらうわ。さよなら」
仄香は、スコップを振りかぶりゾンビの首目掛けてスコップを振り払った。スコップは見事にゾンビの首を捉えゾンビの首は勢いよく宙に舞った。 ゾンビの首が仄香の足下へ転がり
「魔狩りの分際でよくも……」
と、言い残しゾンビは黒い霧と共に消えた。
その後、連続切り裂き魔事件は無くなった。
仄香は
「魔族ってあんな小さい子供にも化けてるんだね。許せない」
「魔族は、どんな手を使ってでも、この世界に混沌の闇を復活させようとしてるからな」
「頑張って阻止しなきゃね」
「頼むぜ、相棒」
仄香は、魔狩りの使命を再確認した。