第四話 謎の失踪事件
教育実習生の宗助が仄香のクラス担当になってすぐさま女子からの黄色い声援が飛び交っていた。宗助は、女子からの質問を一つ一つ丁寧に答えクラスに馴染んでいた。宗助の授業中は、いつになくクラスメイトの女子達はテンションが高かった。
仄香はと言えば、いつも通り淡々と授業をこなし宗助には目もくれず放課後になればすぐに学校を後にして、オルトロスと特訓にあけくれていた。 「なぁ、仄香はん? 仄香はんは、クラスの女子のようにあの先生のとこには行かへんのですか?」
「私は、あんまり興味ないかな。今は、オルちゃん、トロちゃんと少しでも特訓して強くなりたいしね」
と、オルトロスに笑顔を見せた。
「なるほどな、じゃ、頑張ってもらおうじゃないか、これからもバシバシいくからな。覚悟しとけよ、仄香」
そうして、いつものように容赦ないオルトロスの特訓をこなし、家路についた。
仄香が家に帰り自分の部屋でテレビをつけると 仄香のよく知っている学校が映っていた。それは仄香の通っている高校だったのだ。
何だろうとテレビを見ていたら、学校の生徒二人が行方不明になったと言うニュースだったのだ。 仄香の横にいたオルトロスが
「これは、怪しいですなぁ、明日調べてみましょうかぁ」
「もしかして魔族の仕業なの?」
「それは、まだ分かんねぇなぁ~、ただ仄香の学校で少しだが魔族の気配がしたのは確かだったからな。調べてみる必要はあるかもしれん」
次の日、仄香とオルトロスは学校に行くと
「じゃ、ワシ等は調べに行ってくるわ! 仄香に何かあればすぐに駆けつけてやるから安心しとけよ」
「うん、オルちゃん、トロちゃんも気をつけて」と、校門の前で別れ仄香は、教室へと向かっていった。
教室に向かっている途中に一人の男性に呼び止められた。
「ちょっと失礼します。ここの学生ですよね」
「は……はいそうですけど……」
「私は、警察の者で進藤と申します。事件の事で少し話を聞きたいのですが」
「私は事件の事何も分からないんです。ごめんなさい」
と、仄香が言うと進藤刑事が
「おや、君は? どこかで見たような? 確か、連続殺人事件の起こった病院にいましたよね?」 「えっ……確かにその時には入院してましたけど……私は、今回の事は全く分からないですよ」
「そうですか? 分かりました。では、何かあれば私に連絡してください」
と、進藤は仄香に連絡先を書いた紙を渡した。
仄香は、その後教室に入り、いつものように授業を受けた。授業は何事もなく終わり放課後を迎えた。
放課後、仄香はオルトロスと合流して
「オルちゃん、トロちゃん何かわかった?」
「調べた結果、前より魔物の気配が強くなってやがる。間違いなくこの学校のどこかにいるな」
「そうなの? 誰かは分からないんだよね?」
「そうですなぁ~、まだ、誰かまでは分からへんさかいに油断はできまへんよ」
「うん。わかった」
仄香達は、いつものように特訓の為、工場跡地に向かう途中に教育実習生の宗助と学校の生徒が宗助の車に乗って学校を後にするのを目撃した。
「あれは、仄香はんとこの教育実習生ちゃいますか?」
「だよね、生徒連れて何処行くんだろう?」
「なんなら後つけて行ってみるか?」
「えっ、それは……」
「念のためにだよ。もし何かあってもダメだろうが」
「わかったよ……」
仄香はオルトロスの背中に乗り空から宗助の車を追跡した。
追跡してから三十分、宗助の車は人気の全くない山道で車を止めた。
「こんな山道で何するんだろう?」
「何や、怪しさ大爆発って感じやなぁ~」
宗助は、学生を連れて山道を歩き始めて星がよく見えるところまで来ていた。
「うわぁ~、すっごい綺麗。先生よくこんな場所知ってたね」
「ここはね、僕のとっておきの場所なんだよ。僕が落ち込んだ時なんかによくここへ来て星を眺めるんだ。それと……」
「それと? 何? 先生?」
「それと、こんな人気のないところに連れて来たのは君を食べる為だ」
「えっ」
学生が宗助の方に振り返った時に、宗助の身体から黒いモヤみたいなものが出ていた。
学生は、危険を感じてその場から離れようとしたが、宗助に腕を掴まれ身動きが取れずにいた。
宗助の身体はゆっくりと獣のような身体に変わっていった。
そして
「おら、はらへってた。きょう、さいしょのしょくじだ」
と、言って学生に鋭い牙を突き立てた。
「きゃぁ~」
と、学生の悲痛な叫び声が上がる。
しかし、獣化した宗助に喉を噛みちぎられ学生は息絶えてしまった。
息絶えた学生を獣化した宗助はむしゃぶりつきあっと言う間に学生の跡形もなく全てを食べ尽くした。
仄香達は、宗助達を捜している時に、学生の悲痛な叫び声を聞いた。
その声がした方へ行くと 何やら、獣のようなものがいるのに気付いた。
すると、オルトロスが
「仄香はん、こいつは魔族やで。こいつはオーク。人間を食べる魔族や」 「じゃ、この獣が田島先生に化けてたって事? 行方不明になった子達はみんなこのオークって魔族に食べられたの?」
「その通りや」
「許せない」
オークがゆっくりと立ち上がり仄香達に気付くと ブタのような顔をしたオークがニヤっと笑い口からヨダレをたらしながら 「きょうは、おいらついてる。はらもまだへってるし、おまえもたべる」と、言って仄香へと突進してきた。
仄香は、身を翻しオークをかわすと目を瞑り
「神より与えられし魔狩りの力よ我が右手に宿りたまえ」
と、唱えた。
すると仄香の右手が光だし、仄香は落ちていたバットぐらいの大きさの木の枝を拾い構えた。
オークは、再び仄香の方を向くと仄香の右手が光っているのに気づき
「おまえ、もしかしてまがりかぁ~、おれのしょくじのじゃまをするのか。ゆるさない、おいらのしょくじをじゃまするやつはまがりだろうがだれだろうがころしてたべてやる」
と、オークは仄香目掛け突進する。
突進してきたオークにオルトロスが炎を吐いた。炎は、オークに命中したがオークは炎をまとったまま仄香へと向かった。仄香は、木の枝を突進してくるオーク目掛けて叩きつけるも、オークの鋭い牙に木の枝は折られてしまった。
「おまえをころす。そしてたべる」
オークの鋭い牙が仄香の首元を捉えようとした時、仄香は咄嗟にオークに折られてしまった木の枝の先で抵抗した。
ザシュ、鈍い音とともにオークの口から血が流れ落ちた。仄香が咄嗟に出した木の枝がオークの口を貫通していたのだ。
仄香は、木の枝を勢いよく引き抜くとオークの口から大量の血が飛び散った。
オークが痛みで苦しんでる中、オルトロスが
「仄香、何やってんだ。早くとどめをさせ」
「う、うん。あんたに恨みはないけど魔族は見過ごせないの。悪いけど狩らせてもらうわ。さよなら」
と、再び木の枝をオークの胸部に思いっきり突き刺した。
「よくも、おいらのしょくじのじゃまを……」
と、言い残しオークは倒れ黒い灰になって消えた。
「何とかオークを倒せましたなぁ~。仄香はんお疲れさま」
「まあ、まだまだだけどよくやったな。この調子で頼むぞ、仄香」
「うん、何とか倒せたけど、もっと特訓して強くならなきゃね」
次の日、仄香は学校に行くと、教育実習生の宗助が学校に来なくなったと校長先生から聞いた。 宗助がいなくなってからは事件も起こらなくなった。