第十六話 最終決戦
「魔王様、なにやら西の方からこちらに向かって来ております。どういたしましょうか?」
と、オルトロスが魔王に問う。
「構わぬほっておけ」
と魔王は気にも止めなかった。オルトロスは気になり何度も西の空を見ていると、沙耶華達が来ているのに気付き
「魔王様! 我等の目的の邪魔者が現れました。排除しますか?」
と、魔王に問い
「我の邪魔をする者がいるとは興味深い。我が直々に相手をしてやろう」 と、魔王は言った。
しばらくすると、沙耶華達が魔王の元へ着き、魔王と対峙した。
進藤が、仄香の姿の魔王を見て
「君は、あの仄香さんではないんだね……」
と、言うと魔王は
「我は、魔王スルト。我の目的を邪魔しようとするのは貴様等か?」
と、鋭い視線をとばした。進藤は、その視線に屈せず、
「魔王スルト! では、お前がオーディーン様の宿敵の……」
「ほう、ではやはりこの槍はグングニルか。どおりで懐かしい感じがしていたわ。では貴様は、オーディーンの末裔だな」 「その通り、私はオーディーン様の末裔だ。長きに渡る魔王スルトとの因縁に決着を付けよう」
と、進藤は持っていた拳銃を構えた。すると、沙耶華が
「進藤さん、私も一緒に戦いますわよ! 私もワルキューレの末裔ですもの」
と、沙耶華も進藤の横で身構えた。
「ふはははは。貴様はワルキューレの末裔ときたか。これは面白い! よかろうまとめて相手をしてやる」
魔王は、余裕の笑みを浮かべてみせた。
「笑っていられるのも今のうちですわ。覚悟して下さいまし。フレアアロー」
沙耶華は、呪文を唱え炎の矢を出現させ、魔王へと放った。
「ふはは、下らん魔法を使いおって! こんなものは効かぬわ」
沙耶華が放ったフレアアローが魔王に直撃する。しかし、魔王は傷付いた様子もなく平然としていた。
「どうした? もう終わりか? 下らぬな。では、こちらの番だ」
そう言って魔王は、地面を蹴り、素早く沙耶華との間合いを詰めると、沙耶華の腹部に強烈な蹴りを入れた。
沙耶華は、腹部を押さえうずくまった。
「ふははは、雑魚めが! 貴様が我と戦うにはまだまだ百年早いわ。貴様の相手は、我の僕オルトロスで充分であろう。オルトロス! こやつの相手は任せるぞ。存分に戦え」
と、オルトロスに言った。それを聞いたオルトロスは
「分かりました。魔王様! では、魔王様の命により、貴方を殺します」 オルトロスは赤く鋭い瞳を光らせながら冷静な口調で言った。
「オルちゃんトロちゃんまで、変わってしまったのですね……仕方ありまん。キマちゃんイラちゃん行きますよ」
と、沙耶華はまだ魔王に蹴られた腹部の痛みに耐えながらキマイラの背中に乗った。
「沙耶華、大丈夫かニャ! 勝算あるかニャ」「フッ、そうだよ。沙耶華。ああなったオルトロスくんは手強いはず」
と、キマイラは沙耶華に言うと、沙耶華は、腹部を押さえながら
「大丈夫です。一つ考えがありますわ」
と、言ってキマイラに小声で何かを伝えた。
「なるほどニャ」
「フッ、いい考えだね。やってみようか」
キマイラは、沙耶華に同意した。
「何をゴチャゴチャ言っている。死んだ後の相談ならあの世に行ってからにしなさい」
と、オルトロスは炎を放った。
オルトロスが放った炎をキマイラが、氷の息で対抗する。炎と氷の息がぶつかった瞬間お互いが干渉しあい消えた。
「残念だけど、オルちゃんトロちゃん……いえ、オルトロス、貴方の炎は効かないですわ」
「では、これならどうですか」
と、オルトロスは大きく息を吸い込み一気に炎を吐き炎柱をつくり沙耶華達に向けて勢いよく放った。オルトロスのフレアランスだ。
「これを待ってましたわ! キマちゃんイラちゃん!」
「ガッテンだニャ」
「フッ、任してくれたまえ」
と、キマイラは言い大きく息を吸い込み一気に氷の息を吐き出した。
「とっておきのフリーズトルネードだニャ」
キマイラが放った氷の息が、竜巻のように渦をまき、オルトロスの放ったフレアランスとキマイラの放ったフリーズトルネードがぶつかった。爆発音と共に煙があがり辺り一体の視界が悪くなる。 その時、キマイラが沙耶華に
「今だニャ!」
と、声をかけた。
沙耶華は、キマイラの合図と共に両手を胸の前に構え呪文を唱え始めた。 沙耶華が呪文を唱え終えた頃、視界を塞いでいた煙が消え始めた。その瞬間に沙耶華はジャンプし、浮遊の呪文で空高く上がった。
煙が消えてオルトロスが 「なかなかやりますね……」
と、沙耶華がいない事に気付いていなかった。
そして次の瞬間、沙耶華が
「我が手に集え光の剣、シャイニングブレード」 と唱えると沙耶華の両手に光の剣が出現した。
オルトロスは、沙耶華の声を聞いてから目の前にいない事に気付いたのだが、すでに遅かった。
沙耶華が勢いよくオルトロス目掛け光の剣を振り下ろす。光の剣は、オルトロスの二つの首の間に当たった。沙耶華は、そのまま振り切った。その瞬間オルトロスの体は真っ二つに裂けた。
「ぐああぁぁ~」
オルトロスが、断末魔の声を上げる。
「ごめんなさい。オルちゃんトロちゃん……助けてあげたかったんですけど……こうするしかなかったの……」
と、死に行くオルトロスに沙耶華は涙をこらえながら言った。
オルトロスは、息絶え黒い霧となり消えた。
オルトロスと沙耶華の戦いを見ていた魔王は、オルトロスが殺られた時、一瞬だが仄香の声で
「オルちゃんトロちゃん……いやぁ~~」
と、泣き叫んだ。
そして、再び魔王の声で 「まだ、我の体は完全ではないのか……ただ、我の僕を殺したのは許しがたい。貴様等絶対に許さんぞ!」
魔王は、進藤をふっ飛ばし、沙耶華達の元へ素早く走った。
キマイラは、走って向かってくる魔王に向けて氷の息を吐き応戦するもことごとく交わされた。
魔王は、キマイラの目の前に行くとキマイラの足元目掛けグングニルを振り下ろす。キマイラは、避けきれず足首を斬られた。
「うわぁ~、足が痛いニャ~」
「フッ、やるじゃないか……でも、まだまだ」
キマイラは、魔王に向けて氷の息を吐く。魔王は、氷の息をジャンプして交わし、グングニルをキマイラ目掛け振り下ろす。振り下ろされたグングニルはオルトロスと同じように二つの首元に当たり、そのままキマイラは真っ二つに切り裂かれた。 「キマちゃんイラちゃん~、酷いですわ。よくも私の大事な守護獣のキマちゃんイラちゃんを…… 魔王、絶対に許しませんわよ」
「何を言う。貴様もしたであろう。我に刃向かった事にあの世で後悔すればよいわ」
と、魔王はグングニルを構え沙耶華に向けて振りかざす。沙耶華は、
「させませんわよ」
と、直ぐ様魔法を唱え炎の矢を魔王に放った。
「愚かな」
魔王は、沙耶華の放った炎の矢を持っているグングニルで払いのけそのまま沙耶華の腹部にグングニルを突き刺した。
「きゃぁ~」
沙耶華は、悲鳴を上げ膝から崩れ落ちた。
魔王は、沙耶華からグングニルを抜き、
「ふはははは。我に歯向かった報いよ」
と不気味に笑っていた。 沙耶華が血を流し倒れているところへ進藤が駆け寄り、虫の息の沙耶華を抱き抱え
「沙耶華さん! しっかりしてください、沙耶華さん」
「し……進藤……さん……。ご、ごめんなさい……。後は……任……せました……」
沙耶華は、その言葉を最期に息絶えた。
進藤は、沙耶華を静かに置き、魔王を睨み付け
「魔王、君だけは許さない」
「ほう。貴様も死にたいらしいな。よかろう」
魔王は沙耶華の血がついたグングニルを構える。 「魔王……いや、仄香さん。君は、こんな事でいいのですか? 仄香さん。答えて下さい」
「まだ、解らぬか? もう、以前の姿の仄香はいない。我の中で消滅したのだ。残念だったな」
「いや、まだいるはずだ。オルちゃんトロちゃんが死んだ時に仄香さんの声が聞こえたようだし……仄香さん、答えて!」 と、進藤は叫んだ。
「ふははは、いくらやっても無駄な事……ど、どうした事だ! 身体が動かぬ」
魔王は、急に、身体が動かなくなった。
「やはり、仄香さんはまだ」
と、言って進藤は、魔法弾の入った拳銃で魔王の右手に向けて撃った。魔法弾は、見事に当たり魔王は持っていたグングニルを落とす。
その瞬間、進藤は
「グングニルよ、我の手に戻れ」
と念じる。すると、グングニルは、進藤の元に戻った。
「お……おのれぇ、許さんぞ」
「魔王、君を見過ごす訳にはいかない。仄香さんも、そう思っているはずです。そうですね、仄香さん」
「ぬを、また動かぬ」
「ありがとう、仄香さん、魔王覚悟!」
進藤は、身動きがとれない魔王の心臓目掛けグングニルを突き刺した。
「ぐおぉ~、我が負けるとはぁ~、しかし、またいつの日か……」
と、そのまま倒れた。
倒れた魔王を抱き抱え、進藤は、
「仄香さん、ごめんなさい。君を助けられませんでした。すいません」
と、進藤は涙を流した。進藤の涙が仄香の顔に落ちた時、
「し、進藤さん……ありがとうございます……これで、世界は守ら……れた」
と、仄香が言った。
「ほ……仄香さん、最期に意識が戻ったんですね……よかった」
と、進藤は仄香を抱き締めた。
(おわり)
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