第十四話 トールとの再戦
トールとの激闘を一旦終えた仄香達は、トールがいなくなった後、跡形もなくなった沙耶華の別荘に戻った。
「ちょっとヤバかったね。あのハンマーの雷を何とかしなくちゃ」
「本当だな! あのジジイなかなかの強敵じゃな。あの雷については……てか、お嬢等も考えろや」 と、オルは沙耶華達の方を向いて言った。
「何がですの? オルちゃん。私達も考えてますわよ。今晩からどうやって寝ようかを……」
と、沙耶華は胸の前で腕を組んで言った。
「そうじゃなぁ~、これじゃ、雨風をしのげる訳もないしな……って違うだろぅ~、トールに関してどう闘うかだ」
一瞬、静まりかえった。 オルが
「仄香? どうした? そんな驚いた顔して?」 「いや……いつもツッコミを入れてるオルちゃんが、ノリツッコミしたからビックリしちゃって」 と、仄香は言った。それを聞いたオルは、
「ワシだってノリツッコミぐらいするわ。そんな事で驚いてんじゃねぇよ。全く……」
「ごめんごめん、初めて聞いたから。で、トール戦はどうする?」
と、仄香が本題に戻す。 「とりあえずだ、あの雷をどうにかせんといけんからなぁ」
「オルちゃん、それなら私にいい案がありますわよ」
と、沙耶華が言った。
「本当かお嬢? いい案ってなんだ?」
「ええ、もちろんですわよ~、聞きたいのですか?」
「勿体振らないで早く教えろ」
「あのですね、私の魔法であの雷を無効化に出来るかもしれないんですのよ。私のグランドマウンテンの地の属性の魔法なら」
と、沙耶華は胸を張って言った。それを聞いたオルは
「なるほどな、雷には地属性の魔法って訳か! 試してみる価値はありそうだな」
それから一週間後、再びトールが仄香達の元へ姿を現した。
「久しぶりじゃのぅ~、やっと儂の髭のキューティクルが治ったわい。あの時は油断したが、今回はあのような油断はないと思うのじゃな」
「けっ、言ってろ。また同じおもいをさせてやる。テメェこそ覚悟しやがれ。仄香、今度は最初から本気で行くぞ。いいな!」
と、オルは仄香の方に視線を向けた。
「もちろんだよ。オルちゃんトロちゃん。じゃ、いくよ。神より与えられし魔狩りの力よ我が右手に宿りたまえ」
と、唱えながら仄香はトール目掛け走った。
沙耶華達も
「では、私達も行きますわよ。キマちゃん、イラちゃん。進藤さん!」
「いつでもオッケーだニャ」
「フッ、僕もいつでもいけるさ」
と、キマイラは沙耶華に言葉をかけた。進藤も
「私も微力ながらお手伝いしますよ」
と、拳銃を片手にキマイラに乗った。
キマイラ達は、トールの後ろに回り込み、沙耶華は空中浮遊の呪文『レヴィテーション』を唱えトールの背後についた。
「ほっほっ、威勢がよいのぅ~、だが、勢いだけでは、儂を倒せんぞい」 と、トールは向かってくる仄香に向けてハンマーを振り下ろす。仄香は、ハンマーが届く前に走り抜けた。ハンマーを避けるまでは計算通りだが、その後の雷に関しては賭けだ。トールのハンマーが地面をえぐってからすぐ様雷がおちてくる。
トールの背後で、沙耶華は両手を前で構え呪文を唱えていた。呪文を唱え終わった沙耶華は、落雷の瞬間を待って、落雷の瞬間沙耶華は魔法を発動させた。
「グランドマウンテン」 の発声とともに、地面から尖った土の塊が出現した。落雷は、尖った土の塊に落ちてきた。
それを確認したオルは
「よっしゃ、これで落雷は防げるな!」
「なかなか、やりおるのぅ~、儂の雷を防ぐとはのぅ~、じゃが、雷を防いでいたとこで勝てるかの?」
「強がるのはみっともないぞ、じいさん。テメェは袋の鼠だぜ。ここからは、こっちの番だ」
そう言ってオルトロスは高く舞い上がり、
「行くぞトロ!」
「はいな、いくでぇ~」 と、オルとトロは、大きく息を吸い込みトール目掛けて勢いよく炎を吐いた。
「フレアランス! 今度は前のようにはいかないぞ」
と、言ってオルトロスは炎を吐き続けた。
「たわけ者がぁ~! 二度も同じ目に合う訳がなかろう」
と、トールはハンマーで炎柱を防ごうとしたが身体が動かない事に気付いた。
「どうした事じゃ、何故体が動かん」
トールは、自分の身体を見てみると、腰から下が氷づけになっていた。
「どういう事じゃ? いつの間にこんな事にぃ」 「じいさん、あんたはワシ等と仄香しか見てなかっただろ。後ろにもワシ等の仲間はいるんだぞ」 「何と! 後ろにもいたのかぁ~、儂は老眼じゃから見えなんだわ。それにしても氷づけとは、もう少し年寄りはいたわるもんじゃぞ。これでは風邪引いてしまうぞい」
と、トールは震えてみせた。
オルトロスは、そんなトールを鼻で笑い
「じいさん、悪いがもう終わりだ。覚悟しな。フレアランス」
オルトロスは、再び炎柱をトールに向けて出した。オルトロスの放ったフレアランスはトールに見事命中した。しばらく煙が舞い上がった。
「やったか?」
「いや、まだやなぁ~、気ぃ抜いたらあきまへんよ」
と、オルトロスが言う。 しばらくして煙が消える。すると、トールの姿が見えてきた。トールは、体中、誇りまみれになっていて、綺麗な顎髭も炎でチリチリになっていた。トールは
「お主等、許さんぞ~! 儂の髭を二度も傷つけおってからに。儂の最終奥義を見せるしかないのぅ、覚悟せい」
と、トールはオルトロス目掛けて首を大きく振り口から何かを吐き出した。オルトロスは、急に目の前が真っ暗くなった。 「な、何だ何だ? どうなってるんだ?」
「オルはんもですかぁ~? ワテも何も見えないですわぁ、にしても何か臭ないですかぁ~?」
と、オルトロスは慌てた。トールは、
「ほっほ、どうひゃ~、わひのさいふゅう奥義の入れ歯攻撃ひゃ~」
と、口をすぼめながら言った。
「何? 入れ歯だと……テメェ、きたねぇだろうがぁ~」
「最終奥義ひゃと言ったろぅ~」
と、言った時トールは足に激痛を感じた。
「ぎゃぁ~、足がぁ~」と、足下を見ると仄香が足にグングニルを突き刺していた。
「こ……小娘! すっかり忘れとったわ」
トールは、足の痛みをこらえて仄香を捕まえようて手を伸ばした。しかし、仄香は、トールの腕に飛び乗りそのままトールの頭目掛けて走った。仄香は
「あんたに恨みはないけど魔族はほっとけないの、残念だけど狩らしてもらうわ。さようなら」
そう言って、仄香は思いっきりジャンプして、グングニルをトールの頭に突き刺した。そして、そのまま力を込め、トールの頭をグングニルが貫通した。仄香が、グングニルを抜くとトールの血が大量に吹き出し仄香は、血を浴びた。
「あは、あははは! 魔族もあっけないものよね。あははは」
と、仄香は人が変わったように笑っていた。
トールは倒れながら仄香に
「お前さん、今いい顔をしておる。その顔を忘れるでないぞ」
と、言って息耐えた。
トールは黒い霧に包まれた。
やっと戦いが終わって、オルトロスが仄香の元へ近づくと、
「仄香! お前……」
と、オルトロスは息を飲んだ。
仄香は、黒い霧に包まれながら笑っていた。