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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ただのありふれた人の話

作者: カニの横顔

「買い物に行ってくるよ」

「じゃあ私もついてく」


 そういってミリアムは玄関にいる俺の右側にそそくさと寄ってきた。


「そんなに過保護にならなくたっていいのに」

「でもあんた一人だとなんもできないじゃん」

「そんなことは...」

「ほら靴紐結んだよ」

「ありがとう」


 靴紐を結んでもらった靴に足を入れ左手には籠を持ち食べ物を買いに行く。

 外は昼で隣を通る子供は元気に走っていてそんな子供を母親がなだめている。



 十分ほどかけて露店街についた。

 露店街は人でにぎわっており、いたるところからセールス文句が聞こえてくる。


「ねえこれ見てよ!」

 右手側から元気な声が聞こえてくる。


「風を作って早く振れる剣だって!」

「マジックアイテムか」

 マジックアイテムは魔石によって特別な効果が付与されたアイテムのことだ。

 基本的に高価すぎて俺らのような平民が使うことはない


「いくらなんだ?」

「金貨2枚...」

 金貨2枚となると1年間一切金を使わず働いてやっと買えるかどうかというレベルだ。

 当然俺らに買えるわけはないが、平民の多いこんな露天街でマジックアイテムがあるのは珍しい。

 ダンジョンか洞窟でも近くで攻略されたのだろうか。


 そんなことを考えながらパンが売っているところまできた。


「パン六つくれるかい」

「銅貨3枚だよ」

「これでお願いします」

 右側から左手がすっと出てくる

「そのかごに入れればいいかい?」

 お願いしますと言いながら籠を差し出すと丁寧にこぶしサイズのキツネ色をしたパンをかごに入れていってくれた。


「色々大変だろうけどまあがんばれよ」

 そういいながら籠を突き返される。

「ありがとうございます」

 左手で籠を受け取り、俺が踵を返すとミリアムはその短い金髪の髪をなびかせてぐるりと右手側に回り込む。


 まるで俺の失った右手を補うかのように。




 ---





 三か月前、俺らは四人で洞窟に行っていた。

 洞窟は魔力が濃く、マジックアイテムの核となる魔石が生成されるので、多くの冒険者が魔石を求めて洞窟へと足を運ぶ。

 俺らもそんな普通の冒険者だった。


 同じ孤児院で育った回復魔術を使える僧侶のアベル、魔法使いのアビ、剣士のミリアム、そして魔法剣士の俺でパーティを組んでいた。

 魔法剣士だといっても回復魔法も攻撃魔術も剣術もみんなに劣っていて、さしてかっこいいものではない。


 俺はこのパーティの中でその時々で足りないところを補うような役割をしていた。前衛が安定していたら攻撃魔法を使ったり、魔法が効きづらい相手ならば剣士として前に出て戦っていた。

 

 洞窟の中に入っていくと、ランタンの光を頼りに出てくる魔物を順調に倒していった。

 洞窟に来るのは初めてだが、冒険者としてパーティを組んで依頼をこなして、順調にパーティのランクもCランクになった。

 いつものようにしていれば何とかなるだろう。

 そんなちょっとした慢心があった。


 洞窟を進んでいき、魔物も強くなってきた。

 洞窟は深くなっていくほど魔力が濃くなっていき、魔物が強くなるが、その分大きく高純度な魔石が生成されていることも多くなっていく。

 

 もうそろそろ高く売れる魔石があるかと思った矢先、魔物が現れた。

 それはホロウメイルという鎧型のモンスターで、両手で一本の大剣を持ち、剣士のような動き方をしてくる。

 B級のモンスターで、倒し方は胸のあたりにある赤く光ったコアのようなものを壊すことだ。


 B級といっても一体だけだとするとC級の冒険者が二人でもいれば安定して討伐することができる。

 そう、1体だけなら。


 ホロウメイルは3体いた。

 たった一つのランタンの光だけを頼りに進んでいたせいで、周囲にいることに気づかなかなかったのだ。


 ミリアムは才にあふれる剣士だ。

 俺と一緒のパーティにいるにはもったいないぐらいに。

 けれどB級のモンスター3体を明かりがランタン一つの視界が安定しない中相手するのは難しい。

 そう判断すると俺は懐から探検を取り出して左手にいるホロウメイルに切りかかった。


 ホロウメイルは左手の3メートル幅ぐらいの細い通路に1体、進行方向にあった幅が10メートルぐらいの主要通路に2体いる。

 俺を剣士として評価するなら、C級には届かず、せいぜいD級といったところだ。

 1人ではホロウメイル1体を抑えることも難しい。


 そんなことを理解して、アビは俺が相手をしているホロウメイルに対して魔法の詠唱を始めている。

 5歳児の身長ぐらいはありそうな大剣を軽々と振り回しているホロウメイルに対して俺は何とか持っている短剣で受け流していく。

「大地の母なる氷の精霊よ

 空気を凍てつかせ、その矮小なる存在を打ち砕け!

 アイスキャノン!」


 アビがそう言うと、生まれた短剣ぐらいの大きさがある氷の固まりが的確にホロウメイルのコアまでとんでいき、コアを破壊した。

 そうしてホロウナイトを倒した瞬間、俺はミリアムの加勢へ向かった。


 いくらミリアムに才能があるといっても一人で2体を相手にするのは難しい。

 ミリアムがホロウナイトの一体のコアに剣を突き立てたとき、その死角からもう一体のホロウナイトがミリアムに切りかかる。


 俺はその攻撃から守るために短剣の刃をミリアムと大剣の間に挟んだ。

 防げたっと思った刹那、右手に強烈な熱を感じた。


 その次に見たのは根元がぽっきりと折れた短剣の刃と、それと一緒に飛ばされた俺の右手だった。

 1体目との戦いで負荷がたまっていたことに加えて、咄嗟のことだったこともあり、刃の角度が良くなかったのだ。


 俺が痛みに悶えているとアベルが中級の回復魔術を使ってくれた。

 だが、中級魔術で治せるのは一週間程度で動けるようになる傷までだ。

 四肢の欠損を治すためには上級より上の聖級以上の回復魔術が必要になってくる。

 中級魔術のおかげで右手首の切断面から血が止まるが新しく手が生えてくることはない。

 

 そんなこともあり、パーティは解散した。

 孤児院の頃から話していた冒険者パーティの夢はここで終わりになった。


 ミリアムはその後右手がないと不便だろうといって同じ部屋で暮らすことになった。

 何度止めてもいうことを曲げず、なし崩し的になったものだが、今ではこの生活が日常になっている。


 もしかしたら自責の念を感じているのかもしれない。

 俺の力不足で魔物を2体請け負ってもらい、魔術師によるカバーも俺が受けていたというのに。


 そんなことを考えながらパンを買って家に戻っている最中にふと露店で気になるものを見つけた。


「マジックワンド...」

初投稿です

初心者なのでおかしなところなどがあったらどんどんコメントで指摘していただけると嬉しいです

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― 新着の感想 ―
初投稿でこの文章力はスゴイ…! 何処にでもいるような冒険者に起こった悲劇。名声の裏で、夢半ばで破れてしまった彼らは大勢いるのでしょうね。 主人公君の、"5歳児の身長ぐらいはありそうな大剣"という個性…
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