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1-2.アーヴィンの生活

その所作は流石は一流の狩猟者、弦を引き、放つ一連の動きは流麗に他ならなかった。

鋭くレジャーカを目掛けて飛んでいく矢は2発とも命中。レジャーカの腹側にしっかりと刺さっていた。


時間にして8分程度だろうか、逃げようとしていたレジャーカはすでに暴れる力は無く、

麻痺矢が効いているのだろう、目をパチパチと瞬きさせるだけであった。



レジャーカが完全に麻痺している事を確認した彼は、他の外敵がいないか注意しながらゆっくりと地上に降りる。


そして拾ってきた硬い枝に食材用の短剣を括り付け、しっかりと固定する。

簡易的ではあるが槍状にしてレジャーカの胸部を目掛け心臓を狙い、止めを刺すのだ。


「通すのが大変そうだな。」


アーヴィンは一呼吸おいて、ほんの一瞬レジャーカを慈しむ目で見た後、

槍を深く突き刺した。刺さった槍は厚い皮膚に阻まれ中々心臓には届かない。


大きく深呼吸をしたアーヴィンは力を込め直し、槍をさらに先まで突き立てる。

レジャーカの前後足が大きく一度痙攣を起こし、その命が途絶えた事を知らせたのであった。


アーヴィンはすぐさま慣れた手つきで血抜きの準備をする。

このサイズの巨体は当然だが一人で運ぶ事はできない。


血抜きまで行った後、村人達に運んでもらうのがいつもの流れだ。


「今日は音玉も鳴らしたし、すぐ来てくれるか。」


こうして自分とは別の命を頂戴する狩猟行為は、

自然界で生きる厳しさを、アーヴィンにその都度実感させるのであった。


ーーー


レジャーカの血抜きを終えた後、森は静けさを取り戻した。

再びその独特な雰囲気の中、アーヴィンはレジャーカの亡き骸を別の生物達に渡さない為に周囲を警戒していた。


ついでではあるが、ポーチ程度の大きさの布袋に食用にできる木の実を集めていく。

袋が丁度一杯になるのと同時に、少し離れたところから村人達の声が聞こえてきた。

音玉の音を聞いた村人たちが、レジャーカを引き取りにやって来たのだ。


「おーい!アーヴィーン!こりゃあ大物を仕留めたなーっ!」と、一人の村人が笑顔で声をかける。


「ああ、久しぶりのレジャーカだ、今晩の宴の主役になりそうだな。」アーヴィンも微笑みながら応じた。


村人たちは手際よくレジャーカの解体と運搬を始め、アーヴィンも手伝いながら一緒に村へ戻ることにした。


途中村人から、村長がアーヴィンの事を呼んでたと聞き、レジャーカの事は村人達に任せ彼は、一足先に村長の家へ向かうことにした。


家に着くと、村長夫妻は穏やかな笑みを浮かべながら、アーヴィンを迎え入れた。

ユカレイ夫妻、元々二人は冒険者で、この森に入った後そのまま出られなくなってしまい、

同じくして森から出られなくなった冒険者達を匿い、仲間を増やしつつここで生活するようになったのが始まりでヤマタの村ができたのだ。


今では歳を重ねただけの皺があり、

村人達に支えられながら、しかし一つ一つの事柄に決断を下していく立場にある。

この年になっても慕われているのは、やはり村人達を思いやる、その優しさなのだろう。

アーヴィンはユカレイ夫妻に育てられ、冒険者の知識と狩猟術を教え込まれた。

ここで生きていく為の親心である。本人もまた育て親だと、そう思っている。


「じっちゃん、ただいま。」


「おお、アーヴィン、今日はよく働いてくれたな。ありがとうよ…それでな…」


村長は感謝の言葉を述べた後、表情を引き締めた。


「呼んだのには理由あってな。実は先日、略奪者たちが森の中をうろついているとの情報が入ってきたんじゃ。


この村に差し出す物なぞ無いのじゃが、皆の事も心配じゃ、今夜の巡回は少し範囲を広げたほうがいいかもしれん。他の皆にも伝えてはある、お前も気を付るんじゃぞ。」


アーヴィンは頷き、真剣な表情で村長の話を聞いていた。


「わかった。巡回は少しルートを広く取るよ。前回の災厄があった場所、


あの近くはまだ魔物も寄り付かないし拠点にしているかもな。合わせて偵察してみるか。」


村長は頷き、続けて言った。「んむ、村の安全はお前にかかっている。頼んだぞ。」



昼は狩り、夜はパトロール

その日の夕食は、村人達と共にレジャーカの肉を楽しんだ。

レジャーカの肉は非常に美味で、村人たちは久しぶりのご馳走に皆々喜びの声を上げた。

食事を終えた後、アーヴィンは再び装備を整え、夜のパトロール、巡回に出た。


夜の森は昼間とは違った危険が潜んでいる。

この森に慣れているものさえ迷わしてしまい、夜行性の魔物もいる。

気持ちを入れ直し、アーヴィンはまた、木から木へと駆け抜けるのだったーーー

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